“円卓の騎士”を演じる3人が集まった。彼らは、撮影中に時間が空くとスマートフォンを向け合い、ゲーム『Fate/Grand Order』(以下『FGO』)をプレイしはじめる。和気あいあいと『FGO』談義に花を咲かせる姿は、彼らの仲の良さを物語っていた。稽古に先駆け、1ヶ月前からワークショップをともにし、仲を深め合ったというキャスト陣。笑顔でトークを繰り広げる3人が、この舞台で“円卓の騎士”の関係性をどう作っていくのだろうか。

撮影/祭貴義道 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.
ヘアメイク/佐藤美紗(coo et fuu)、川井友美

“円卓の騎士”の威圧感をいかに出していくべきか

ゲームブランドTYPE-MOONが手がける『Fate』シリーズの一作であり、2015年にアプリゲームがリリースされた『Fate/Grand Order』。ゲームの第六章「第六特異点 神聖円卓領域 キャメロット」を軸とした物語が展開される舞台で、佐奈宏紀さんが演じるベディヴィエール、小野健斗さんが演じるランスロット、山口大地さんが演じるガウェインは、アーサー王に仕える“円卓の騎士”です。
佐奈 円卓の騎士を演じるにあたり、演出の(福山)桜子さんにとくに言われるのは姿勢について。台本を読んで書き込んでいるときに背中をパンッ! と叩かれて「姿勢!」って注意されています。やっぱり騎士なので、ピシッとしていないといけないんですよね。
小野 円卓の騎士は、集まったときの威圧感みたいなものは絶対ないとダメだよね。
山口 そうそう。やっぱり気高い騎士道を貫き通している戦士だからね。
小野 自分ひとりの威圧感というのももちろん、5人がそろったときの圧っていうのもちゃんと出していきたいです。そこでスカッとした空気になってしまったら、舞台が台無しになってしまうと思うし。
▲ベディヴィエール役・佐奈宏紀
山口 本当にね。『FGO』における円卓の騎士の立ち位置ってすごく重要だから、そこにブレが出てしまうと、カルデア(主人公たちが所属する組織“人理継続保障機関・カルデア”)チームの空気感も崩れてしまう。だからこそ、僕らがドシッと構えていないとね。桜子さんも、騎士道というかナイトとしての志は気にしている部分です。
円卓の騎士というつながりはあれど、ベディヴィエールは、円卓の騎士とは敵対関係にある主人公たちと行動をともにし、物語は進んでいきますね。
佐奈 はい。ベディ(ベディヴィエールの愛称)にはさまざまな思いがあって、円卓の騎士から離れるのですが、円卓の騎士であったという土台についてはすごく話し合っている部分ですよね。
小野 ですね。そこは意識しないといけないところだと思うので。
山口 舞台のなかで、ベディが円卓の騎士として僕らと一緒に肩を並べていたというシーンもあるので、今の状況はあれど、ともに過ごしていたというバックボーンは大事にしていかないとね。
佐奈 どのようにして円卓が変わってしまったかというのは、けっこうズッシリきますよね。ひとつひとつのシーンがかなりしっかりしていて。
小野 しかも、円卓の騎士みんなにそれぞれ均等に見せ場があるんです。ちゃんとひとりひとり、バックボーンが描かれている。
▲ランスロット役・小野健斗
山口 ゲームと比べると舞台ではギュッと物語が縮まっているので、シーンやセリフとして説明しきれない部分があるんです。でもそれは、立ち方とか目線、お互いの呼吸を合わせて表現したいよね。円卓の騎士が背負っているものっていうのは、桜子さんとも、稽古段階でもっと詰めていかないと、と話しています。
みなさん、アプリゲームは出演が決まってからプレイしはじめたんですよね?
山口 僕は、決まる前からプレイしていました!
小野 そう、僕らは出演が決まってからはじめているので、大地くんはすごく(ゲームを)進めているんですよ。
山口 やりはじめたらすごく面白くて。聖晶石召喚(ガチャ)で、僕が演じるガウェインが欲しくてたまらなかったんですけど、なかなか出てこないんですよね。そこはけっこう苦戦して、やっと出てきたときは叫びました(笑)。
佐奈 自分のキャラクターを引けるとうれしいですよね〜。
佐奈さんもベディヴィエールをお持ちですよね。しかも、山口さんと佐奈さんは、演じるキャラクターをレベル100にしているというやりこみっぷり!
山口 もともと、公演の千秋楽までにはガウェインをレベル100にすることを目標にしていたんです。
▲ガウェイン役・山口大地
佐奈 僕は、役が決まったあともいろいろとやることがあって、ゲームをはじめるのがみなさんより遅くなってしまったんですけど、一番にメインストーリーを終わらせました! ベディも無事レベル100にすることができて…大変かなって思っていたんですけど、レベル100にするのにはそんなに時間はかからなかったです。1週間くらいで。
山口 レベルの上限を開放するには、聖杯を捧げないといけないんですけど、この聖杯を集めるのが大変なんですよね。だから、このひとり! っていうキャラクターがいればそんなに時間はかからないはず。
小野 いればね!(笑)
小野さんはまだランスロットをお持ちでない…?
小野 そうなんです。やっぱりなかなか出なくて。今、聖晶石が27個あるので、あと3個貯めればもう一回引けるんです。そこでランスロットが出てくることを祈って!
出てくるといいですね! 今日も撮影中みなさんでゲームをやっていましたが、ゲームに関する会話も多いですか?
佐奈 めっちゃしますよね!
山口 空き時間になると、僕らに限らずキャストはみんなやっていますね。
小野 そうそう。みんなゲームをやりこんでいるので、必然的にゲームの会話も多くなります。というか、休憩中やっていない人はいないかも。
佐奈 そうですね!
小野 僕はまだ1回目だからかもだけど、6章のボス戦に苦労してます。モードレッド(円卓の騎士のひとり)は倒せたけど、ガウェインがやっぱり強い。
山口 そう、ガウェインが強いんだよね。わかる。

全員が同じベクトルに向かって、臨んでいる現場

舞台ならではの見どころというと、どんな部分でしょうか?
山口 今回、歌とダンスがあって、キャラクターたちがけっこうみんな踊るんですよね。
佐奈・小野 (うなずく)。
山口 ゲームの雰囲気とはまた少し違って見えるうえに、プラスアルファのものが舞台上で垣間見えると思います。ゲームで声がついていない、動いていないキャラクターも登場するので、また異なる楽しみ方ができるのではないかなと思っています。
どういう雰囲気でお稽古が進められていますか?
山口 それぞれが演技の面などでわからないことがでたら、桜子さんに提案して進めています。
小野 わからないことがあれば、ゲームで調べたりもするしね。
山口 そうそう。すごく良い空気感の座組みだなと思います。みんな、ひとつひとつクリアしていこうと意識を高く持って臨んでいますね。そういう空気感は桜子さんが作ってくれています。
佐奈 僕たちキャストは稽古がはじまる1ヶ月前から、桜子さんのワークショップに参加して、芝居の基礎やメソッドを学ばせていただいたんです。そこで、桜子さんが作る場の空気感っていうのがすごくよくて。
山口 桜子さんはニューヨークでアクティングコーチとしてのメソッドを学ばれて、それを普段からお芝居のワークショップで役者に教えているんです。今回、稽古に先駆けて1ヶ月前から、芝居のほかダンスや発声、殺陣の事前稽古をしっかりやったんですよね。
佐奈 ワークショップも稽古も、キャストや演出家、制作陣がみんな円になるところからはじまって。
小野 円になるのは、上座下座が関係なく、みんな同じ目線でという意味合いがあるんです。
山口 そうやって、桜子さんが演出家として立つ前に人として前に立ってくれたので、僕ら役者も「この人(演出家)を信頼してやっていこう」って確信を持って臨むことができて。それがなかなか成立しづらい現場もやっぱりあるらしいので……『FGO』の現場で、桜子さんを筆頭に、同じベクトルに向かってみんなが一生懸命進めているのは大きいと思います。
ワークショップを通して、キャスト同士の仲が深まった状態で稽古に臨めたんですね。
山口 僕らの仕事って、毎回違う職場に転職する感覚というか…作品の現場ごとにイチからコミュニケーションを取って芝居をするので…。今回、早い段階でその部分が解消されて、稽古もすごくやりやすいです。
稽古場で印象的だったことは?
佐奈 あります! 僕(ベディヴィエール)も円卓の騎士なのに、知らないあいだに円卓の騎士は何かと集まって、芝居のことを話しているんです!
小野・山口 (笑)。
小野 彼(佐奈)も一応円卓グループなんですけど、仲間はずれにされちゃうという(笑)。
佐奈 そう! 完全に!
山口 いやいや、それには理由があって(笑)。ベディは僕ら円卓からすると……今では敵という立場なので。よく稽古場で「円卓集合!」ってかけ声があるんですけど、そこには入らないんです。
佐奈 僕はどこに集合したらいいんですか!
小野 (笑)。でも、ベディってカルデアのみんなと一緒にいるシーンが多いので、カルデアチームと稽古をしているんです。「円卓集合!」はそういうときにかかることが多いので、呼びようがないんですよ。
佐奈 ふふふ…僕って…人気者ですね。
小野・山口 (笑)。

来るか!? 舞台『FGO』現場での弁当男子ブーム!

キャスト同士の雰囲気作りを率先して行うのはどなたですか?
山口 井出卓也(ロマニ・アーキマン役)は、けっこう現場の雰囲気を作ってくれていると思います。
小野 たしかに。
山口 芸歴も長いですし、桜子さんとの付き合いが長いこともあって、率先して場を盛り上げてくれます。空気を読むのもすごくうまいんですよ。
では、お稽古場でのみなさんのポジションは?
小野 何だろうね?
山口 僕は餌付けキャラかな?(笑)
山口さんはお稽古場で、キャストのみなさんに手作りのお弁当をふるまっているんですよね。
佐奈 僕はもう胃袋を掴まれちゃいました。
山口 あはは。このあいだ、ふたりにもお弁当を作りましたよ。
どういう経緯でみなさんにお弁当を作りはじめたんですか?
山口 どの現場でもいつも同じパターンなんですけど、弁当を持参して食べていると、みんな「いいな〜食べたい」って言うので、その場でちょっとあげたりするんです。そうすると「今度、作ってきてよ!」って言われるので…たぶんみんな本気で言っているわけではないと思うんですけど、僕は本気で作ってくるという(笑)。
佐奈 本気で食べたいと思ってます!
山口 でも、佐奈も弁当を持ってきてたよね?
佐奈 はい。僕ももともと料理が好きなので…負けてられないなって!
小野 そのふたりに影響されて、僕も弁当を作ろうかなって気持ちになっています(笑)。
山口 もしかして、弁当流行るかな!?
佐奈 弁当男子ブームですね!
小野 まずは、弁当箱を買わないと!
山口 弁当箱選びはすっごく大事だよ!(笑)
ちなみに、山口さんが作られるお料理で一番おいしかったのは?
佐奈 寝かせ玄米!!
山口 あぁ〜。
佐奈 寝かせ玄米を食べたあとに調べたら、炊くのがすごく大変だと知って。
山口 炊くのは炊飯器がやってくれるからいいけど、まず準備が大変なんだよね。3日くらい水を入れ替えして、玄米を浸して芽を出させて…芽が出かけのときに炊いてから、また3日くらい保温の状態で寝かせておく。
佐奈 ね! めっちゃ大変じゃないですか!?
料理へのこだわりを強く感じますね。
佐奈 しかも、それをめちゃくちゃ稽古したあとにやっていると想像したら…もう超人かな!? って思って。
小野 (山口さんに)もともと料理が好きなんだもんね。
山口 そうそう。
小野 すごく想像がつくんです。台所でニヤニヤしながら料理を作っている姿が。
佐奈・山口 (笑)。
小野 絶対そうでしょ?(笑)
山口 ちょっとちょっと! そんなことない! ニヤニヤはしてない!
小野 本当?(笑)
山口 ニコニコはしてるけど!(笑)
佐奈 「みんな喜んでくれるかな〜」って表情ですよね!
小野さんと佐奈さんは、お稽古場ではどんな立ち位置ですか?
小野 僕はけっこうスンとしているよね。
山口 そうだね。自分から後輩に絡んでいかないタイプだよね?
小野 ああ〜。そうかも。
それには何か理由があるんでしょうか?
小野 とくに理由はないんですけど、ムリに話しかけるのも失礼かなって。
佐奈 ……失礼じゃないですよ!!
山口 あはは! 先輩だし、べつに失礼じゃないよ!
小野 話さないわけじゃないんですよ!? それでも、失礼かなって思っちゃう。僕が話しかけることで、後輩に気を遣わせたらどうしようって考えてしまって。
山口 座組みのなかで、僕と健斗は年齢が高い大人組なんですけど、佐奈をはじめ、佐伯 亮(藤丸立香役)や、本田礼生(オジマンディアス役)の若手組もたくさんいて…だから年上感を装っているんでしょ?(笑)
小野 違う! 装っているわけじゃ……。
佐奈 …ムリしてるんですね。
小野 事実、年上組だし……って「ムリしてる」ってなんだよ!(笑)
山口 (笑)。佐奈たち若手組って、みんなすごく人懐っこいんですよ。
小野 そう。自分が佐奈と同い年くらいのとき、年上の先輩にこんなに話しかけにいけなかった。
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