セクハラに対する意識が先進国の中でもとりわけ低い日本の現状や、解決策について考えていきます。

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大澤祥子さん●フリーの翻訳家として活躍。女性がもっと主体的に声を上げられる社会をつくりたいと「ちゃぶ台返し女子アクション」の共同発起人。
鎌田華乃子さん●コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン代表。女性の生きづらさを変える団体「ちゃぶ台返し女子アクション」の共同発起人。
中野宏美さん●NPO法人しあわせなみだ理事長。友人がDVに遭ったことをきっかけに、活動開始。「2047年までに性暴力をゼロにする」ことを目指す。
山本 潤さん●「性暴力と刑法を考える当事者の会」代表。看護師、保健師。著書に『13歳、「私」をなくした私』(朝日新聞出版)がある。

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――皆さんの団体に持ち込まれるセクハラ被害には、どのようなものが多いのでしょうか?

【中野】多いのは、派遣社員など非正規の女性が正社員の男性に、ホテルに誘われたりレイプされるケースです。

【鎌田】新入社員など、入社歴が浅い女性も狙われやすい。

【大澤】過労自殺した電通の高橋まつりさんも新入社員でしたが、セクハラ被害に遭ったことを示唆するツイートがありました。

【山本】暴力とは「差」があるところに起きるのです。つまり、弱者が何をやられても文句を言えないところにつけこむ。日本は男性がマジョリティーを構成する男性優位社会のため、女性の立場は弱い。だから、マイノリティーである女性が被害を訴えたとしても、きちんと対応してもらえない。一方、マジョリティーたる男性は自分が持つ力の大きさをあまり認識していません。

【鎌田】それに日本では、女性はセクハラされても、それを笑って受け流すのが「賢い女」という認識がある。「今の言葉はやめてください」なんて言うと、「面倒くさい女」になってしまいます。

■加害者の、会社での評価が高いとやっかい

【山本】特に加害者が会社で評価されている場合、被害者を排除することで組織の安定を図ろうとしがちです。

【中野】仕事ができる人が、地位や権力を使ってアプローチし、何人もの被害者を生み出す。そんなケースをよく聞きます。

【鎌田】また、女性は性的被害に遭っても、それをレイプだと認識していないことも多くあります。たとえば、お酒を飲まされて意識をなくした状態で性交されるのも、加害者が「具合が悪いからホテルで休ませてくれ」と言って、女性をホテルに連れ込み性交におよぶのも、レイプです。しかし、多くの人々は路上で暴漢に襲われることばかりをレイプとして認識している、あるいは、蒸し返したくないとの理由で、泣き寝入りしてしまうのです。

【中野】駆け引きを楽しむために執拗に女性を誘う場合もあります。

【山本】その根底には、日本の男女のパートナーシップのあり方があると思います。日本の場合、男性が上で女性が下という認識がとても強い。

――職場における男女格差も関係していますか?

【鎌田】そうですね。ハラスメントは、上下関係があるところで起きるので。

【中野】性別に限らず、人種などのダイバーシティも進んでいないため、一人一人の個人の尊重という概念も浸透していないのです。

――職場がセクハラ研修を行っても、効果はありませんか?

【大澤】忘年会シーズンに「飲みすぎないように注意」など、表面的な研修が多いのが現状です。

【中野】リスクマネジメントの一環として「訴えられるとまずいから」といったニュアンスで行われているのは問題です。セクハラは人権を侵害し相手を深く傷つける行為だという本質が伝わりません。

――セクハラや性犯罪撲滅のため、政府や組織に期待することはありますか?

【山本】日本は性犯罪やセクハラの加害者に対する処分が甘いため、結果として加害者を許し、性暴力を容認しています。

【鎌田】日本はいまだ100年前の罰則が適用されており、騙されて連れ込まれ、強姦されたような場合は強姦罪にあたらないケースがあります。性犯罪の罰則のあり方そのものを変えるべきです。

【山本】性犯罪者の更生プログラムも拡充すべきです。

【鎌田】社会は性暴力を許さないという姿勢を示す意味があります。

【山本】また、職場でセクハラの被害女性が直接、加害者である男性上司に「やめてください」と言うのは難しい。ですから、組織は第三者たる被害者専用窓口を用意すべきです。そうでないと、被害がもみ消されてしまいます。

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▼「職場の性暴力」に関して

「職場の性暴力」について、下記により要望いたしますので、よろしくご配意賜りますよう、切にお願い申し上げます。

(1)きちんと裁かれることが大事
今度の刑法改正でも、多くの性暴力が犯罪と認められない可能性を残しています。性暴力を減らすためにも、加害者が罪を認め、謝罪し、更生できる場が必要です。

(2)被害者が沈黙することがないように窓口の設置を
被害者が困難をたった1人で抱え込むことのないよう、第三者による窓口の設置が急務です。

(3)セクハラ研修の発想を変えるべし
会社のリスクマネジメントとしてではなく、ダイバーシティの観点から、相手を尊重することの重要性を教えるべきです。

以上 座談会参加者 一同

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■▼弁護士 角田由紀子さんから
提言:男女間および正規と非正規間の格差をなくす政策が不可欠

今、政府がセクハラ防止について真剣に取り組むべきは、実態の深刻さへの理解を深め、必要な対策を行うことだ。そのために、根本原因に切り込むことが必須だ。セクハラは性犯罪であり、被害者の人生を狂わせる。

「平成28年版男女共同参画白書」によれば、男女雇用機会均等法に関する都道府県労働局雇用均等室へ寄せられた相談のうち、46.7%が女性労働者からの相談で、前年より最も大きく増加したのは、セクハラ相談だ。

女性労働者にこの困難をもたらしている理由はいろいろあるが、一つの大きな問題は、女性労働者の56.3%が非正規雇用者であることだ。非正規であることは、彼女たちの賃金が男性や正規女性労働者に比べて低いということだ。男性正社員の給与を100としたとき、女性非正規社員の給与水準は64.2でしかない。この事実は、職場で女性が低い地位に押しとどめられていることを示し、女性労働者を男性労働者が対等な存在としてみないことを正当化することにつながる。

性犯罪およびセクハラは、加害者・被害者が支配・被支配の関係にあることで起きる。賃金格差は、対等な人間であるという認識を妨げる。女性は、男性の性的欲望に奉仕するのが当然という間違った考えを許してしまう。

これらのことを防止するためには、政府が男女間および正規と非正規間の賃金、その他の雇用条件の格差をなくす政策を実現することが不可欠だ。女性が重要な働き手であるというのであれば、女性を被支配的な位置に置くことを許容する仕組みを是正するべきだ。それなしに、セクハラや性犯罪は許されないとお題目を唱えても効果はないだろう。政府が、どこまで真剣に女性労働者の人権を考えているかにすべてはかかっている。

(ジャーナリスト 佐藤 留美、角田 由紀子 撮影=澁谷高晴)