北朝鮮の市場経済を牽引する女性たちが、漁に出て日本海で荒稼ぎしているという。かつての日本同様、北朝鮮でも女性が漁船に乗り込むことをタブー視する風潮があったのだが、それも変わりつつあるのだろうか。

北朝鮮は表向きは男女平等を謳っている。しかし、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内やあらゆる分野で、セクハラや性的暴力が常態化している。権力者たちは「喜び組」に象徴されるように、女性を慰み者にするなどやりたい放題だ。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

北朝鮮で女性に対する人権侵害が横行している最大の理由は、そもそも人権の概念が通用しない体制だからだ。その最たる体現者が、故金正日総書記だったと言えるのではないか。

同氏のあまりに凄まじい女性遍歴は、情報統制の厳しい北朝鮮においても、公然の秘密として囁かれているほどだ。

そんな北朝鮮だが、なし崩し的に市場経済化が進むにつれ、女性たちは経済面で存在感を高めてきた。ろくに給料も出ない官営企業への出勤を義務付けられ自由に商売できない男性と違い、女性たちは市場の商いを通じて生活費を稼ぎ、家計を支えるようになったのだ。

その流れは水産業にも及び、「オンナ漁師」も登場しているという。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)市は、工業都市であると同時に、大きな漁港がいくつもある漁師町でもある。RFAの現地情報筋によると、港には女性がオーナーの漁船がずらりと並んでいる。彼女たちのサクセスストーリーは次のようなものだ。

女性たちは元々、漁船から魚を買い取り、それを外貨稼ぎ機関に卸す仲買の仕事をしていた。それがかなり儲かったのか、手にした利益を元手に水産会社を設立した。そして、七星(チルソン)貿易、大聖(テソン)総局、緑山(ロクサン)会社、8総局などの外貨稼ぎ機関から操業許可証を購入し、中国人民元で数十万から数百万元もする漁船を購入する。(※100万元は約1612万円)

そして、男性を船員として雇って漁に出るのだが、男性任せにするのではなく、自分たちも乗り込んであれこれ指示を出すというのだ。驚くべきことに、後発組である女性の漁船の方が、男性の漁船より水揚げ量が多いという。

それもそのはず、女性が乗り込んだ漁船は一度漁に出ると15日は帰ってこない。水揚げが少ないときには、他の船に高級酒、おつまみ、燃料を渡して魚を買い取り、所属する外貨稼ぎ機関に報告する。実にたくましい北朝鮮の「オンナ漁師」たちだ。そのたくましさには、北朝鮮男性も舌を巻くばかりだという。

連津(リョンジン)、三海(サメ)、洛山(ラクサン)など、清津市の青岩(チョンアム)区域の郊外にある港でも、数十人の女性が水産物の会社を営み、数十隻の漁船を操っているという。

情報筋は、女性の船主はまだ全体の1割ほどだが、この調子だと男性を上回るのは時間の問題だと語る。

男尊女卑が根深い北朝鮮で、女性たちは純粋に生き延びるために、周囲の冷たい視線に耐えながら漁師として海に出たのかもしれない。それとも最初から、自分たちが漁に出た方が、男性より漁獲高を上げられるという自信があったのだろうか。

どんな理由であれ、深刻な人権侵害の被害者でもある北朝鮮の女性たちが、男性より活躍しているというのは溜飲が下がる思いだ。