「声優は裏方商売」と断言する佐倉綾音を、カッコいいと思った。その可憐な外見からは想像できないような、職人気質の彼女。写真撮影の際は、「どんなポーズをとればいいのか」、「なぜそのポーズをとるのか」といったことを、カメラマンの指示をふまえて考える。自身について「すべてを理詰めで考えていくタイプ」と分析する佐倉が、TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』(通称“ヒロアカ”)のアフレコで、記憶も飛ぶほど没頭したシーンとはいったい──?

撮影/川野結李歌 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.
企画/ライブドアニュース編集部

嫉妬でムッとするお茶子に“女の子らしい”一面を見た

TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』二期では、佐倉さん演じる麗日お茶子が通う雄英高校(ヒーロー輩出の名門高校)の体育祭の戦いが描かれています。一種目の障害物競走、二種目の騎馬戦を終え、最終種目はトーナメント形式のガチンコバトル。どんな気持ちでアフレコに挑まれたのでしょうか?
じつは、『僕のヒーローアカデミア』は制作がすごく快調で、一期から大きく間を空けることなく二期のアフレコをすることができたんですね。それに、空いている間もほかのキャストさんと別の現場でお会いしたときに、ヒロアカの話もよくしていたので、集中力が切れることなく、二期のアフレコに臨むことができました。絶対に妥協が許されない現場なので、すごくいいモチベーションで二期にも臨めているなと思います。
一期からお茶子を演じているなかで、新たに見えた一面などはありましたか?
騎馬戦で発目さん(発目 明:声/桜 あず)が出てきたときに、お茶子が珍しくちょっとムッとするっていう(笑)。
発明少女である発目さんのサポートアイテムを褒めちぎる、主人公・デク(緑谷出久:声/山下大輝)を見たときですね(笑)。
原作を読んでいたので、「そろそろあのシーンがくるな」とは思ってはいたものの、ムッとしているあたりも省くことなく描かれていて……お茶子が他人に対してムッとしているのは珍しいなと思いました。
たしかに、いままでにない表情ですよね。
そうなんです。お茶子って、クラスメイトで自信家の爆豪くん(爆豪勝己:声/岡本信彦)にさえ、ムッとした表情を見せることはないんですよね。でも、発目さんにはムッとするんだって、なんかちょっと新しい表情が垣間見られて、「あ、意外と女の子な一面があるんだな」と思いましたね。
お茶子を演じるなかで、気をつけているところや、意識しているところはありますか?
お茶子って、日常生活ではだいたい口角が上がっていて、すごくポジティブな表情をしていることが多いんですけど、今回は戦う場面がたくさん描かれているんですよね。それで……アニメの一期が始まってすぐのときに、原作の堀越(耕平)先生のインタビューで、キャストの印象について「お茶子がいまの平和なしゃべり方から戦闘シーンに入ったときに、どういうふうに声を張り上げるのか気になります」って答えられていたのを読みまして。
それは、なかなかのプレッシャーですね。
そうなんです。非常にプレッシャーを感じていたのです(笑)。
普段の役作りにおいては、考えて作り込むタイプなのでしょうか?
そうですね。わりと理屈っぽいので、すべてを理詰めで考えていくタイプなんですけど、ヒロアカの現場では、理屈で詰める時間を与えられないので。マイク前に立った瞬間に、「もう理屈はわかったから、胸の内にあるものを出せ!」って言われているような感じなんです。理論武装しているなかにある、本当の部分をちゃんと出せ! って。
なるほど。
一期から、スタッフさんや音響監督さんがそういうスタンスで役者に対峙してくれているのを知っていたので……ある意味覚悟もしていましたし、もうそのときはそのときで、すべての理屈を取っ払って、きちんと向き合わなくてはと思っていました。そういう意味では、戸惑うことはなかったんですけど、私にしては珍しく、理屈抜きでお芝居を放ってしまったなあって(笑)。ある意味、清々しさみたいなものはありましたね。

TVアニメのオリジナリティである“可愛らしさ”を大切に

一期から通して、佐倉さんとしては、お茶子をどんな子だと感じていますか?
原作を読ませていただいたときに、「男らしくて、ガサツな子なのかな?」っていう印象が私のなかにあったんですが、いざ一期のアフレコが始まったら、「お茶子は、もっと可愛らしくあってほしい」という指摘をディレクションでいただきました。「ここは原作を読んだときに聞こえてきたような音で、少し粗雑にやってもいいかな?」って演じたものは、すべて見透かされて(笑)。可愛らしさは、お茶子として大切にしないといけないところだと思いますね。
佐倉さんご自身が、お茶子に共感できる部分はありますか?
共感……家族が好きなところはすごく共感できますね。
3月に開催された「AnimeJapan 2017」(日本最大級のアニメイベント)のステージでも、佐倉さんは二期のキーワードに「家族」と書いていらっしゃいましたね。
そうなんです。原作を読んでいた段階から、生徒たちの家族とのエピソードがものすごく好きだったんです。ヒーローとか、能力を持っているとか、戦いに赴くっていうこと以前に、ひとりの人間として、ヒーローたちが家族と向き合う場面がすごく好きで。
二期は、キャラクターたちが家族と向き合う場面が多く描かれます。
そうですね。お茶子だけでなく、飯田くん(飯田天哉:声/石川界人)や轟くん(轟 焦凍:声/梶 裕貴)、それぞれがフィーチャーされる機会がやっときたっていう期待感もありますね。お茶子に関しては、家族がすごく仲が良くて、お茶子がヒーローになる目標の奥底には家族の存在があって。私も家族はずっと大切にしていきたいなって思うので、共感できるところかもしれませんね。
新しいキャラクターも登場し、アフレコ現場はどんな雰囲気でしょうか?
A組(雄英高校ヒーロー科1年A組)のキャスト陣と、新しく参加されているB組のキャスト陣が、お互いに「知らない人たちがいる!」っていうような空気感で始まって(笑)。でも、アフレコ現場が教室みたいな雰囲気なので、A組とB組の境目もそこまで感じさせることなく、いつの間に、話にみんな加わってる……教室にいる生徒たちのような、いい空気感の現場になっているなあと思います。
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