あなたのスマートフォンをつなぐだけで、日給8万円が儲かる「諭吉ケーブル」を無料でお届けいたします――そんな不思議なサイトが注目を集めている。

そんなうまい話が、本当にあるの? 記者が実際に申し込み、その正体を探った。

「50本限定」「日給+80000円」「毎日儲かる」

「あなたのスマホをコンセントに『カチッ』するだけで... 今日から日給+(プラス)80000円!!」
「50本限定 日給8万円 毎日儲かる! 諭吉ケーブルを無料プレゼント中!!」

こうしたうたい文句と、1万円札のイラストが、これでもかというほど躍るウェブページが、ツイッターなどで話題になり始めたのは2017年4月22日ごろからだ。

ページによれば、「諭吉ケーブル」の使い方は驚くほどに簡単だ。福沢諭吉の描かれたこのケーブルをスマホかパソコンにつなぎ、充電しておくだけで、「寝ている間に諭吉ケーブルと接続されたスマホやパソコンから1万円が発生します!」という。

充電しているだけでお金が儲かるなら、ほしい!――多くの人は、そう思うだろう。ツイッターでも、冗談混じりながら、

「諭吉ケーブル欲しい!!!!!!!!!」
「諭吉ケーブル手に入れて仕事辞めるか」

などといった声が続々と書き込まれる。

だが、サイトをいくら見ても、具体的な「1万円が発生する」仕組みは説明されていない。一応、「無料配布」の理由については、ページ内には、「レビューを集めるため」「(製品の)最終チェック」「細かい改善点の発見」という理由も書いてある。

諭吉ケーブルは50本限定とされ、サイトを開いているとその本数が「リアルタイム」でみるみる減少、最終的には「1本」になる。ところが、ページを更新すると再び残り本数は50本に。また、話題になり始めてから何日経っても、募集が締め切られる様子はない。

飛ばされた先は、お値段14万8000円のサービス

申し込むには、メールアドレスを入力しなければならない。記者は4月24日、実際に登録を行ってみた。

すぐに、メールが届く。文中で指定されたURLにアクセスしてみると、そこには1本の動画が公開されていた。

「第一話 南国の億万長者の稼ぎ方『Belize Life』とは?!」

40分近くある動画を、とりあえず観てみることにする。登場するのは、沖縄・石垣島で暮らしているというアロハ姿の若い男性だ。この男性は、月に何千万という額を稼いでいると自称。海辺に建つ邸宅の自慢などがひとしきり続く。そして終盤、彼が勧める稼ぎ方として紹介されるのが、「何もしないで週50〜60万円が稼げる」「コンセントを挿すだけでいい」というBelize Lifeだ。だが、その正体は明かされないまま「次回へ続く」。

その後、1日1話のペースで、動画のURLがメールされてくる。引っ張りに引っ張った末、この「Belize Life」というのはFX自動売買ツールの一種だと明かされ、6話目の動画でようやく、このプログラムと各種セミナー、「シークレットマニュアル」など諸々合わせて14万8000円――という購入ページにたどり着く。

何も操作せずプログラムを起動しておくだけ、つまり「コンセントを挿すだけ」で儲かる、という触れ込みは一応、諭吉ケーブルとは共通している。だが、「ケーブル」と「FX売買ツール」とでは明らかに別物だ。

「おとり広告」の疑いあり

こうした誘導の仕方に問題はないのだろうか。グラディアトル法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞いた。

「これは、いわゆる『おとり広告』に関する問題です。こういった商法ではよくあることなのですが、実際にはコンセントに挿すだけで儲かる「諭吉ケーブル」という商品は存在しないケースが多いです。そして、魅力的な架空商品の広告を、実際に売りたい商品の誘引材料として使っているわけですから、おとり広告として不当景品類及び不当表示防止法(景表法)違反となります」

いわゆるFX自動売買ツールは、それ自体が違法というわけではない。しかし、刈谷弁護士によれば、「近年、こうした自動売買ツールの中には、システム上で設定した儲けがでるまでは解約することができないというシステムによる被害も頻発しております」。また、解約するためにはさらなる現金が必要だ、として、さらなる被害に遭うことも警戒しなくてはいけないという。

サイト運営会社のオフィスがあった場所

「特定商取引法に基づく表示」のページによれば、「諭吉ケーブル」のサイトを運営しているのはある株式会社だ。さきほどの動画に登場した男性が代表、東京・新宿区内のビルが住所として記載されている。

J-CASTニュース編集部では、この同社にメールを送るとともに、サポートダイヤルとして指定されている番号に電話をかけた。何回目かの電話でようやく、男性社員と接触できた。取材の意図を告げると、

「ポジティブな内容ですか、ネガティブな内容ですか」

電話口の男性は、警戒した様子でそう尋ねる。結局、担当者が不在として、確認次第折り返す、とひとまず電話が切られた。連絡を待ったが、そのまま返信はなかった。

このため、同社のオフィスがあるはずの、新宿区内のビルに向かう。ところが、そこで営業していたのは、「貸し会議室」だった。担当者に同社について尋ねると、

「基本的には、うちとの関係はありません。ただ、レンタルオフィスとしてのサービスもやっているので、その利用者の可能性はあります」

この業者では月5000円で「住所貸しサービス」を行っている。なぜ同社について調べているのか聞かれたため、「諭吉ケーブル」について話すと、担当者から逆にこう頼まれた。

「当方としても、犯罪に使われるのは困ります。もし、何かわかりましたら教えてください」

前述の刈谷弁護士によれば、実際に業務がこのレンタルオフィスで行われていれば問題はないが、もし単に住所の名義だけを使っている場合、「実態を持ち得ないヴァーチャルオフィスの場合は住所表記違反ということになります」。

「どういう記事になるんですか」

一方、例の動画を調べるうち、ひとつのウェブサイトが目に留まった。石垣島の「貸し別荘」だ。その写真が、動画に登場していた、男性が住んでいるとしている海辺のあの邸宅そっくりなのだ。

所有者に電話し、実際に動画を観てもらうと、やはり同じ貸し別荘だったと確認できた。

オフィスは貸し会議室、別荘は貸し別荘。代表の男性が「月に何千万という額を稼いでいる」ということをセールストークにしていることからすれば、さすがに不自然だ。

5月10日。J-CASTニュース編集部は、再び取材依頼のメールを同社に送った。5日後、電話で、「取材はお断りしたい」との返事がきた。前回と同じ男性が出て、

「どういう記事になるんですか。取材を受けたところで、何か変わるんですか?」

という。このため、景表法違反の指摘も含め、3回目のメールを送ったが、18日、改めて電話で取材拒否の連絡があった。

申し込みからおよそ1カ月、登録したアドレスには1日10本近いペースで、大量のメールが届き続けた。文中のリンクを踏むと、

「夜19時にテレビを見ながらリモコンを『ポチッ』と押すだけで30分後に7万円入金される日給7万円テレビモニター」
「財布の中の『小銭』を使って日給10万円を即日現金で毎日作る××××を『50名』限定で配布!」(注=××××は原文では実名)
「500円を毎日2739円に交換しませんか?」
「あなたはきょうから毎日現金3万円をメールで受け取れることが決定いたしました!!」

といった、「諭吉ケーブル」と大同小異のウェブサイトに飛ばされる。メールアドレスを登録すれば、やはり動画付きのページへ。上記の4つは、入り口こそ違うが、中身はすべて先述の「Belize Life」と同じような商品へとつながっていた。