「実はタトゥーがあるんですよ」

 保険のプランが決まって、いざ申し込みという時に、このようなことを言われることがあります。

 当然のことながら、暴力団などの非合法組織に所属しているわけでもなく、あくまでも「ファッション」として入れている以上、本人もそれほど大げさに考えているわけではありませんが、「生命保険に加入する」という観点では、実は意外に大変です。

刺青やタトゥーに厳しい日本社会

 海外に比べると、日本は刺青やタトゥーに厳しいと言われますが、とりわけ生命保険に関しては顕著です。日本では長らく「刺青=暴力団」、つまり反社会的勢力という定義がなされ、最近はファッションタトゥーが増えたものの、生保業界においてはいまだに疑惑の目で見られます。

 それでは、一切加入できないのかといえば、そういうわけでもなく「保険会社ごとのスタンス」によります。まず、刺青やタトゥーがある場合は「一切加入不可」の会社があり、次に「事情により可」という会社があります。

 前者は、どのような事情があろうと刺青やタトゥーがあった段階で加入を受け付けてくれません。これに対し、後者は以下の項目を申告することで加入の可否を判断します。

・どのような経緯で入れたのか

・どこ(場所)で入れたのか

・大きさ

・柄

和柄より洋柄のほうがマシ?

 経緯に関して書けることとしては「ファッション」「若気の至り」くらいしかありませんし、「若い頃、暴力団にいた」とでも書けば「一発アウト」です。場所については、海外より国内の方が高評価を受けます。刺青やタトゥーの場合、刺青針から肝炎に感染するケースがあり、国内よりも衛生環境の悪い外国でそのリスクが高いと判断されます。

 そして、一番重要なのが大きさと柄です。経験上、手のひら以下のサイズであれば多くの保険会社が受け入れてくれますが、それ以上の大きさになると、引き受け可能な会社はぐっと減ります。

 また、これも変な話なのですが、コイや桜、竜などの和風の柄(和柄)よりも、ハートマークや十字架などの洋風の柄(洋柄)の方が通りやすいです。和柄は“その筋の人”が好むため「反社会的勢力に近いのでは」という疑義を生むからです。

「和柄ですか、洋柄ですか」と伺うと、ご本人もまさか柄を聞かれるとは思っておらず、「そんなことが関係あるのですか」と驚かれますが、最近では「ファッション」としても和柄が好まれる傾向にあり、実際にこうしたケースは多いです。

 何とか診査を通したい担当者としては、頭が痛いところです。

「やめておけば」という後悔の声

 そして、これらの事情を報告した上で、必要に応じて肝炎の血液検査を受けることになります。これに引っかかると当然、加入は難しくなります。

 さらに、保険会社から派遣される調査員と面談してもらうこともありますが、こうした面倒な手続きを踏んでも、加入できる確率は「五分五分」。以前より寛容になっているとはいえ「どんな会社でも入れる」とは言いがたい状況です。

 筆者がよく耳にするのは「自分でやったことだが、いま思えば、やめておけばよかった」という話です。確かにファッションとしては良いのかもしれませんが、日本においては、温泉やプールなど、刺青・タトゥーを理由に入場できない場所が多く、若いうちはよくても、子どもができると困ることもあるようで、少々気の毒に感じます。

 しかし、実際に温泉などで、全身にびっしりと和柄の刺青が入った方と一緒になれば、やはり緊張してしまうのも事実。いくら「海外では…」という話を持ち出したところで、こればかりは日本の現実としか言いようがありません。

 刺青やタトゥーは、一度入れると容易には消すことができないもの。よほどの覚悟がない限り、「この日本では」やめておいた方が無難だと感じます。

(株式会社あおばコンサルティング代表取締役 加藤圭祐)