今春のセンバツ大会は、開幕前から「打高投低」の大会になると見られていた。

 清宮幸太郎(早稲田実)、安田尚憲(履正社)という東西を代表するスラッガーが出場しており、他にも金成麗生(日大三)、太田英毅(智辯学園)、嶋谷将平(宇部鴻城)、西浦颯大(明徳義塾)、猪田和希(神戸国際大付)といった好打者がひしめいていた。


2回戦で引き分け再試合が2試合あるなど、接戦が続いた 一方、投手は大会前の時点でドラフト上位指名を狙えるような「大物」が不在。例年、春のセンバツといえば「投高打低」の大会になることがほとんどのため、今大会は打者の名前ばかりが挙がる異例の状況になった。

 そして大会が開幕すると、予想通り「打」が爆発。肌寒い春先にもかかわらず、1回戦の16試合だけで13本の本塁打が飛び出した。2016年は1回戦だけで6本、2015年は7本だっただけに、近年にないハイペースで甲子園に快音が響いたことになる。

 数少ない好投手も、日大三の左腕・櫻井周斗が履正社の注目打者・安田から3三振、若林将平から4三振を奪うなど力を見せたものの、9失点を喫して初戦敗退。さらに最速149キロ右腕と話題になった山口翔(熊本工)も、「ブルペンでは良くても、実戦になると自分の体重移動ができなかった」と初戦で昨春の覇者・智辯学園に9点を奪われ敗退した。東海大市原望洋の本格派右腕・金久保優斗は初戦で延長14回、218球を投げ抜く投球を見せながら、「最後は下半身の力が入らなくて抑えきれませんでした」と滋賀学園の前に力尽きた。

 ただでさえ数少ない好投手が初戦で消える波乱の幕開けに、「打高投低」の波はますます激しさを増すかに見られた。

 だが、意外にも2回戦は10試合(延長15回引き分け2試合を含む)で本塁打2本。東海大福岡対早稲田実、大阪桐蔭対静岡のように11対8と乱戦で決着がついた試合もあったが、意外と投手がしっかりとゲームメークする落ち着いた試合展開が続いた。

 今大会は本当に「打高投低」なのか――。目利きの評価を聞こうと思い、甲子園球場バックネット裏に集ったスカウト陣に尋ねてみた。だが、意外なことにみな一様に口が重い。そんななか、広島のベテランスカウト・苑田聡彦スカウト統括部長はこんな本音を明かしてくれた。

「今年はピッチャーに限らず、全体的に(有望選手が)少ないんですよねぇ……」

 年初に開かれた広島のスカウト会議では、異例の光景が見られたという。苑田スカウトが続ける。

「松田(元)オーナーも参加する会議で、選手の表を配って説明するんですけど、150人が終わったところで『以上です』と。オーナーも『苑田さん、今年はこれしかいないの?』と驚いとったからね(笑)」

 例年、年初のスカウト会議では300人前後の選手がリストアップされるため、今年は高校生を筆頭に、全体的にドラフト候補が少ないということになる。清宮、安田の存在感が際立ったこともあり「打高投低」と見られた今大会だが、スカウト陣の認識としては「打低投低」という残念なものだったのだ。

 アトランタ・ブレーブスの大屋博行スカウトは「高校野球のレベルが落ちている」と、危機感を口にする。

「指導者が厳しく指導できた時代は、選手を心身ともに追い込んで『一瞬のスキで点を取られる』ということを教えて殻を破るスタイルがありました。でも、近年は体罰が問題視されたり、全国的に指導者への風当たりが厳しくなってきた。それで選手の緊張感が薄まり、高校野球で気持ちと体がひと皮むけることができていない印象があります。インターネットで情報を収集できたりするので、選手ひとりひとりのスキルはアップしていますが、もっとも大事なメンタル的な部分が成長できていないと感じます」

 生き馬の目を抜くようなチームが少なくなり、ポテンシャルに頼った大味な野球をするチームが増えた。高校野球を「通過点」と考えれば、それでもいいように感じるが、結果的に高校野球のレベル低下、ひいては人気低下を招くおそれがあるということだ。ただ、大屋スカウトは「日本の高校野球は過渡期にある」とも指摘する。

「かつてはアメリカも体罰的な指導がありましたが、今は一切ありません。日本も世界規格への移行をしていかないといけないでしょう。感情的にならずに基本からしっかりと教えること、選手の個性を否定せずに伸ばすこと。元プロの指導者は『個々で違うもの』という考えが浸透しているだけに、元プロ指導者が増えていることはいい方向に作用する可能性もあるでしょう」

 いよいよセンバツも決勝を残すのみだが、いくらレベルが低下したと言われようと高校球界にとって最高峰の戦いであることに間違いない。また、苑田スカウトが「来年はいますよ」と語っていたように、根尾昂(大阪桐蔭)や小園海斗(報徳学園)といった将来楽しみな2年生の逸材も出現している。

 そして、目の前の熱戦を見守る者のなかには、将来の野球界を支えるであろうジュニア世代のプレーヤーもいる。そんな観戦者たちに大きな刺激を与える結末は待っているのか――。春の戦いは、いよいよ大詰めを迎える。

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