2016年米大統領選挙の候補者や歴代大統領の演説を分析した結果、ドナルド・トランプの語彙レヴェルは最も低いことがわかった。彼が使う文章は短く、繰り返しが多く、含まれている情報量も少ないといったことも明らかになった。

「トランプ「演説の語彙力」は、ほんとうに低かった:研究結果」の写真・リンク付きの記事はこちら

ドナルド・トランプが使う言葉は「ぞっとする」し「対立を生む」し、「子どもじみている」といわれてきた。そしていま、米大統領選挙の候補者9人の言葉を分析した研究結果が発表された。研究者によれば、成功する政治的レトリックは、「民主主義にとって現実的なリスク」をもたらす方向に変化してきているという。

「トランプが大統領選に勝利したことが意味するのは、ツイートで繰り広げられているようなレトリックが有効なコミュニケーションになっているということです。未来の選挙では、このような言葉が溢れてしまうのでしょうか」。研究を率いたスイス・ヌーシャテル大学教授のジャック・サヴォイはプレスリリースのなかで語っている。

「選挙戦で使われるレトリックは、短いメッセージになるように進化しています。これは、(政治家が行う)分析や解決策も単純になることを示唆しているのでしょうか? もしそうだとしたら、民主主義に危機がもたらされるでしょう」

学術誌『Digital Scholarship in the Humanities』に2月13日付けで発表された研究論文によれば、ドナルド・トランプの言葉の使い方は、複雑な言い回しを避けるシンプルなスタイルで、ほかの候補者たちと比べて繰り返しが多く、直接的で、個々の文章が短く、含まれる情報が少ないという。トランプは選挙戦で、「わたしは言葉を知っています。最高の言葉をもっています」と主張していたが、研究は正反対の結果を示したことになる。

関連記事:「トランプが本を1冊でも最後まで読み通したことがあるか、心底疑問です」──トランプのゴーストライター、良心の告白

研究では、大統領選挙候補者9人のテレビ討論が分析された。トランプのほかには、ジェブ・ブッシュ、ヒラリー・クリントン、テッド・クルーズ、ジョン・ケーシック、マーチン・オマリー、ランド・ポール、マルコ・ルビオ、バーニー・サンダースだ。分析の結果、話のなかにどれくらいの意味や情報が含まれているかを示す「語彙密度」は、トランプが最下位だった。反対に、語彙密度が高かったのはクリントン、オマリー、サンダースで、平均より長い文章、複雑な言い回しを使う傾向があった。

また、決して意外な結果ではないが、トランプは「わたし」(I)を最も多く使用した唯一の候補者だった。クリントンも頻繁に「わたし」を使用しているが、論文によれば、選挙戦の初期段階でよく使っていた「わたしたち」(we)から切り替えただけだという。トランプとクリントンの一騎打ちになったとき、クリントンは「わたし」に切り替えたそうだ。

IMAGE COURTESY OF JACQUES SAVOY

各候補者が最もよく使用していた10単語を見れば、それぞれが選挙戦で何を訴えていたかがよくわかる。たとえばサンダースは「ウォール街、富、階級、億万長者」。クリントンは「包括的、上院議員、入手可能な(affordable)」。ブッシュは「地位、イスラム帝国、兄」などを頻繁に使用している。

では、トランプは? 「わたし」(I)、「メキシコ」(Mexico)、「とても」(very)、「取引」(deal)、「とてつもない」(tremendous)だ。

カーネギーメロン大学言語技術研究所(LTI)も2016年3月、大統領選候補者たちや過去の大統領の言葉使いを比較した研究を発表した。これによると、トランプの演説の文法は7年生(12〜13歳)、語彙は6年生レヴェルで、彼の語彙レヴェルは比較対象のうち最も低かったという。

RELATEDトランプ勝利が示した「アテンション・エコノミー時代」の憂鬱