東武東上線で池袋駅から急行で30分程のふじみ野駅から約1キロ半、首都圏の郊外に位置するところにあるふじみ野高校。2013(平成25)年に大井高校と福岡高校が統合して、新しく誕生した学校である。大井時代から、県内では珍しい県立校で体育科が設置されていたが、それを継承したスポーツサイエンス科(各学年2クラス)があるのも特徴である。それだけに、学校全体でも部活動は活発だ。

 もちろん野球部も、活躍する他の部からの刺激を受けないはずはない。新校の誕生とともに異動してきて今年度で就任3年目となる山崎 警監督は言う。「ここへ来てようやく、こちらの意図する野球が徐々にやれるようになってきたかなという感じがしています」

山崎 警監督(県立ふじみ野高等学校)

 前任の富士見監督時代には、2007年に春季関東大会へ導いた実績もある。自身は、川越商(現市立川越)から神奈川大を経て、社会人野球の強豪である西濃運輸でプレーした経験もある。その後、大学へ戻って教職を取得し情報科の教員として埼玉県に赴任している。「よく、自主性を重んじるということを言いますけれども、やはり高校生ですから、ある程度はやらせないといけないというところもあります。そのことを踏まえた上で、自分たちで考えさせるという姿勢をもっていかないといけないですね」というのが信念だ。

 自らが経験してきた高いレベルの野球をどれだけ選手たちに浸透させていけるのかということも大事だが、それ以上に選手たちの持てる能力と可能性をどれだけ導き出していけるのか。それが高校野球の場合は大事だということを実感している。

試合前のシートノックは合同ノック

外野後方のトレーニング室(県立ふじみ野高等学校)

 山崎監督自身は高校時代の体験が指導者としての意識作りに大きく影響を及ぼしている。他県の甲子園常連校との練習試合で対戦して善戦した時に、相手校の監督が試合後のミーティングで選手たちに、投げかけていた言葉だ。「甲子園も行っていないような学校相手に、お前たちは何しているんだ!」

 そういう、檄を飛ばしていたことを強烈に覚えているという。そして、そのことがモチベーションとなって、「指導者になって、公立校で私学の強豪と戦えるチームを作っていこう」という考えの下地になっているのだ。

 ふじみ野のスポーツサイエンス科での体育の授業そのものは、学校の授業の中でもかなり厳しいということで定評がある。独自の自校体操などもあるのだが、きちんとメリハリのついた動きをしないと、厳しく叱られるという。そういった要素が実は、体育の授業だけではなく、日常生活の中にもしっしかりと反映されてくるという。「これは、有難いことですよ。それだけ私生活で、私自身があまりうるさく言わなくても済むんですよ」

 もちろん、体育系の授業が多い分だけトレーニング室や雨天練習場などの施設は公立校としては非常に恵まれた環境ともいえる。グラウンドも、両翼98mで中堅120mと十分にとることはできる。とはいえ、他の部活動も盛んなので、平日の練習は必ずしもフルに使えないというところはネックだ。また、土日の練習試合も、インターハイ出場の実績のある陸上競技部などにも配慮して、どちらかは遠征へ出かけていかざるを得ないのである。

 遠征先では、山崎監督は試合前のシートノックなどは積極的に他校との合同ノックをお願いしていくことにしている。それは、「様々な打球を処理していくことで、いろいろな場面に対しての対応能力がつく」ということだけではなく、ノックを待っている間に他校の選手との簡単な会話の中から、ヒントを掴んだり、それぞれの交流が持てることもあるという。そうした、野球を通じた新たな発見もまた、大事にしている。このあたりは、情報科の教員らしい発想ともいえようか。

ふじみ野の曜日別練習メニューとは?

試合の準備をする選手たち(県立ふじみ野高等学校)

 平日の練習メニューは大方、以下のようになっている。

月曜日 学校周辺など地域清掃とミーティングで身体そのものは休養させる。

火曜日 挟殺プレーの反復とアメリカンノックがメイン。他はティーなどのバットスイング。

水曜日 3カ所ノックで、外野陣と投手、内野陣と別れて、それぞれがノッカーになっていく。今の時期は練習を手伝いに来た3年生が打つこともある。できる限り多くのノッカーを経験して、ノックの打球の種類に変化を持たせることも特徴だ。

木曜日 月3回は外部トレーナーを招いての体力アップトレーニング。ウエイトトレーニングやサーキットトレーニングなどを行う。トレーナーの来られない日は、ゲーム形式練習に切り替えることもある。

金曜日 専攻体育があり、午後からの授業は部活動に切り替えられるので、この時間を利用して打撃練習(4カ所=マシン3台と手投げ)でほぼ全員が打つことができる。その後、一旦HRのために各自の教室へ戻り、再度集合して以降は翌日の準備練習。通常は20時頃までグラウンドにいるが、金曜日は翌日に備えて19時には下校するように心がけている。

土曜日・日曜日 練習試合(遠征とホーム)。A戦B戦など、可能な限り多くの選手が試合経験を積んでいけるようにする。

 ただ、春休みや夏休みは、グラウンドを広く使用するサッカー部の試合会場となったりで、なかなか野球場となっているグラウンドをフルに活用できないこともあるという。今年の夏も、実質自校で試合を組めたのは5日間くらいしかなかったという。しかし、だからこそ、他校を訪れていくことでの学びを大事にしているのだ。

「ウチは、県内の4強と言われている浦和学院や花咲徳栄、春日部共栄、聖望学園あたりとも平気で試合を組んでもらいます。そして、そこへ行って、ウチの選手たちがそういう強豪校の連中を見て、試合に出ていない選手たちも自分たちよりももっと練習しているというところを目の当たりにするわけですよ。それだったら、下手な自分たちはもっとやらないと、アイツらには勝てないという意識はできるじゃないですか。そういうことは大事ですよ」と、相手校に乗り込んでいく中で、選手たちは何を感じて得てくるのか、そういう部分に対しての自主性を大事にしている。

 そんな環境の中から、この秋、ふじみ野は埼玉県内の公立校としては唯一のベスト8入りを果たしたのだ。しかし、選手たちはその結果では満足していない。

 

ふじみ野ナインたちの秋の大会の振り返りは「後編」へ続く!

(取材・文=手束 仁)

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