12月15日に訪日が予定されているロシアのプーチン大統領ですが、「ここにきてロシア側の態度が硬化している」と指摘するのは、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さん。改善の方向に進みつつあった日ロ関係がなぜ再び冷え込み始めたのでしょうか。北野さんは、プーチン大統領に好意的なトランプ氏が米大統領戦で勝利したことで米ロ関係が改善され、経済制裁が解除される見込みが出てきたことが大きく関係していると記しています。

トランプ勝利で、ロシアが日本に強硬になる力学とは?

読者のKさまから、こんなメールをいただきました。

北野様

 

毎回メルマガを読まさせていただいております。

 

このタイミングで私には不可解なのがロシアです。安部さんとプーチンさんの会談前に、国後、択捉にミサイル配備ロシアのヘリコプターが尖閣近辺を飛行したり。

 

北野さんのメルマガをずっと毎回読んできていますので、物事の見方はだいぶ養われてきたと思いますが、ロシアの動きはわかりません。日本とは仲良くしないぞ。と見せつけているような仕打ちで、かなり不気味です。

 

おわかりでしたら、是非、この件をメルマガで触れていただきたいです。

プーチン訪日が近づいています。しかし、ここにきて、ロシア側の態度が硬化しているようです。たとえば、

<露ミサイル配備>大統領報道官「理由がある」と正当化

毎日新聞11/23(水)23:26配信

 

【モスクワ杉尾直哉】ロシア軍が北方領土に最新鋭の沿岸防衛ミサイルシステム「バスチオン」などを配備したことについて、ペスコフ露大統領報道官は23日、「理由がある」と述べ、正当化した。ロシアが自国領と位置づける北方領土を防衛するために必要との考えを示した。

これ、時期的に、「どう考えても日本と仲良くしたくないんだな」と感じます。何なのでしょう?

ロシアは、北方領土問題を、1秒も話したくない

日本で「ロシア」といえば、まず「北方領土問題」です。しかし、ロシア側は、「戦争に勝ってロシア領になった」という認識。

私たち日本人は、「ソ連は日ソ中立条約を破りやがって!」と憤っている。ロシアは、「ヤルタ協定で米英に頼まれて参戦した。アメリカとイギリスも合意しているので問題ない」という立場。

ポツダム宣言受諾決定後にソ連軍が北方4島を攻めて奪った件については、完全スルー。そして、その「史観」は、戦後70年間「ソ連は大祖国戦争に偉大な勝利をした!」と教育され、固定化されてきた。

アメリカは、「原爆は必要悪であった」と強弁します。同じように、戦勝国というのは、戦時中のすべての行為を「善」とする。つまり、ロシア側は、北方領土にからむさまざまな問題について、「ロシアが悪い」とは1ミリも考えていない。

私たちは、「日ソ中立条約を破ったこと、ポツダム宣言受諾決定後に北方4島を占領したこと」など、「明白な悪」と認識し、「ロシアもそう思っているだろう」と信じている。

まずこの認識が違います。ロシア側は、「悪いことをした」とは、まったく思っていません。これだけ聞いて、ロシアが嫌いになる人も多いことでしょう。しかし、「戦勝国」というのはそういうものです。既述のように、アメリカは、「原爆投下=必要悪」、あるいは「善」だったと信じている。こういう認識なのに、日本政府の人たちは、ロシア政府高官に会うたび、「いつ島を返してくれますか?」と毎回毎回言う。「戦争に勝ってロシアのものになった」という完全認識なのに、「返してくれ!」と言われても、ロシア政府の人は訳がわからない。そういうことなのです。

強調しておきますが、これ、「私」(北野)の考えではありません。「ロシア側がそう思っている」という話です。ですからこの認識の件で、私にクレームしないでください。クレームは、クレムリンなどにお願いします。

ロシアが欲しいのは経済協力

それで、日ロ関係は停滞していました。安倍さんが総理になられた後は、かなり好転していましたが。2014年3月のクリミア併合以降、日本は対ロ経済制裁に参加し、停滞していた。それでも、安倍さんとプーチンの強い意欲で、両国関係は改善してきた。

ロシア側に「北方4島を返す気が全くない」のなら、なぜロシア政府は交渉に応じるのでしょうか? これは「経済協力」が欲しいからです。ロシアは、クリミア併合後、「制裁」「ルーブル安」「原油安」の「三重苦」に苦しんでいる。だから日本との経済協力を進めることで、厳しい現状を打破したい。

一方、日本は、正直経済協力をしたくない。まず、原油・ガスが安いので、ロシア資源の必要性をあまり感じていない。それに、ロシアと経済協力を進めると、アメリカの動きが怖い。

つまり日本とロシアの間には、「大きな溝」がある。

日本=ただ4島を返して欲しい。経済協力したくない。ロシア=経済協力が必要。4島返したくない。

日本、ロシア、両国にある「食い逃げ論」

日本の新聞を読んでいると、ときどき「食い逃げ論」が出てきます。何でしょうか?

つまり、「ロシアは経済協力だけ引き出して、島は返さないつもりだ!」

これ、そのとおりでしょう。逆にロシア側には、「日本食い逃げ論」があります。つまり、「日本は島だけ受け取って、経済協力は『フリ』だけなのではないか?」。

これも、そのとおりでしょう。日本は、島が欲しいので、経済協力は本音でしたくない。要するに、日本とロシアは、「利害が一致していない」ということです。

トランプ勝利で、ロシアは硬化する

それでも、ロシアは日本と交渉を続ける。欧米日による「制裁網」に穴をあけたい。もし日本とロシアの経済協力が大きく進展すれば、欧州も「日本はズルい!俺達も!」となるかもしれない。

そういう意図だったのですが、最近「状況を根本的に変える可能性がある」大事件が起こった。そう、アメリカ大統領選挙でトランプが勝った。トランプは、一貫して「プーチンとの協力が必要だ!」と主張している。そして、当選後、すぐ米ロ和解に動き始めています。

「対ロシア制裁」、主導しているのはアメリカです。だから、アメリカが制裁解除を決めれば、日本、欧州も当然追随して解除するでしょう。

原油は上がらないでしょうが、制裁が解除されれば、ロシア経済は一気に楽になる。そういう展望が見えてきたので、ロシアは日本に冷淡になってきたのです。

日本がロシアと和解するべき理由

ここまで読まれて皆さんは、「やっぱロシアは信用ならん。つきあうのはやめよう!」と思われるかもしれません。気持ちはわかります。しかし、日本には、ロシアと仲良くした方がいい大きな理由がある。

そう、中国は2012年11月から、「反日統一共同戦線」戦略でやっています。

骨子は、

中国、ロシア、韓国で、「反日統一共同戦線」をつくる。中ロ韓、共同で日本の領土要求を断念させる。その領土とは、北方4島、竹島、尖閣・「沖縄」である(日本に「沖縄」の領有権はない!)。「反日統一戦線」には、「アメリカ」も引き入れなければならない。

※ 必読原文はこちら:反日統一共同戦線を呼びかける中国

日本はこの戦略を無力化させるために、アメリカ・ロシア・韓国との関係を強固にしていかなければならない。

そう、ロシアとの関係は、「安全保障問題」なのです。北方領土返還も大事ですが、沖縄を守ることは、現状もっと大事ではないですか?

「食い逃げ論」で恨みを残さないために

日本には、「食い逃げ論」があります。もっともな話。実際ロシアが欲しいのは、「経済協力だけ」なのですから。ただ4島を実効支配しているロシアからすると、2島返還でも4島返還でも、どっちにしても「大損」です。このことも理解しておく必要があるでしょう。

戦争で奪った島を返す。国民を納得させるためには、相当の「見返り」が必要です。両国の「食い逃げ論」で恨みを残さないためには、二つのアプローチが必要です。

1.極東の支援

これは、「見返りを求めない」、いってみれば「慈善事業」。

たとえば医療分野の支援。貧しい人の支援。インフラ支援。とにかく、現地の人が喜ぶことをして、見返りを求めない。困っている人を助けるのは善いことで、結果的に日本のイメージが好転します。

2.ビジネス

これは、厳密に「日本とロシア双方が儲かること」をする。今、

日本とロシアを鉄道で結ぶロシアから日本に電気を送る日本とロシアを結ぶガスパイプラインをつくる

などなど、いろいろ話が出ているようですが。「双方儲かる」「WIN-WIN」にしていくことが大事です。日本も儲かれば、「食い逃げ」にはなりません。

いずれにしても、鬼気迫る表情で、「島返せ! コラ!」とプーチンに迫ってもムダです。「尖閣、沖縄を守るために、ロシアと友好関係を築くのだ!」という大戦略的意識を持って、一歩一歩進んでいくしかありません。

image by: Flickr

 

『ロシア政治経済ジャーナル』

著者/北野幸伯

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出典元:まぐまぐニュース!