女子アナ

この響きに、人は夢と憧れを抱く。

美人で知的な高嶺の花というイメージが強く、女性はテレビに映る華やかな仕事に憧れ、そして男性はその一歩奥ゆかしい女性像に憧れる。

近年では所謂フリーと言われる、局に属さずに活動するフリーアナウンサーが増加している。そんなフリーアナウンサーを、この連載では紹介してきた。

これまでに親友にレギュラー番組を奪われた地方局出身の理香、女子大生という冠が外れると共に仕事を失ったお天気お姉さんの美奈、以前降板させられたワガママ局アナへの復讐に燃える智子、後輩の嫌がらせで局を去り、パティシエになった絵美、アナウンサー試験でコネ組に負けた梨花など、いずれも華やかとは言えない現実を垣間見てきた。

今週は?




<今週のフリーアナウンサー>

名前:玲奈
年齢:27歳
前のステータス:地方局アナウンサー(福岡県)
出身大学:お茶の水女子大学
年収:約100万円
趣味:地方局出身のフリーアナウンサーの動向調べ


ギャラは全て衣装代に消えてしまうフリーアナウンサー


「分かりました、来週のロケは茅ヶ崎ですね。」

電話を切った後、玲奈は直ぐに現場までの行き方を乗り換えアプリでチェックし、交通費がいくらかかるのかを計算する。今回は、ちゃんとロケバスが付いてくれるのだろうか...

「今回のテーマは、何となく明るくてリゾートっぽい感じだから衣装もそんな感じでお願いしますね。」

ディレクターのざっくりとした衣装リクエストを思い出し、溜息をつく。

玲奈の私服はシックな物が多い。リゾートっぽい洋服は持ち合わせが無いので、買いに行かなければならない。下手に安っぽい物を着る訳にも行かないし、ある程度のレベルの物を求められているのは重々承知済みだ。

今回も結局、お金が掛かるなぁ...

もう一度、大きな溜息がこぼれた。仕事の依頼を頂けるのは嬉しいが、所詮売れていないフリーアナウンサーに衣装提供のオファーなど来ない。勿論、専属のヘアメイクさんが付くはずも無い。衣装もヘアもメイクも、基本的に全部で行い、揃えなければならない。

番組には出たいが、出る度にお金が減っていく。フリーアナウンサーの過酷な現実に、日々玲奈は向き合っている。


テレビに出れば出るほど貯金がなくなっていく!?そのカラクリとは?


友達のアナウンサーから番組MCの座を奪ったものの...


玲奈は福岡の地方局を辞め、フリーアナウンサーとしての成功を夢見て東京に戻ってきた。しかし、現実社会はそんなに甘くは無い。福岡ではアイドルアナウンサーとして持て囃されたが、東京に来ると全く仕事が無かった。

貯金は減り続け、時間ばかりが無情に過ぎていく日々。

そんな時、東北の地方局出身の理香から BSの深夜番組のMCの座を奪い、唯一のレギュラー番組を持てることになったのだ。

お人好しの理香を蹴落とすのは、とても簡単だった。女の武器を最大限に使い、勝ち取った番組メインMCの座。これで自分の経歴は一気に華々しいものになると信じていた 。

しかし、現在玲奈のレギュラーはそのBS深夜番組のみ。そしてその唯一のレギュラー番組の雲行きも怪しくなって来た。媚びを売って勝ち取ったMCの座だったが、その後も続くディレクターの猛プッシュに、最近耐えられなくなってきたのだ。




厳しいフリーアナウンサーのギャラ事情


現在玲奈は千葉県にある実家に暮らしている。都内で一人暮らしをする余裕なんて全く無い。売れてもいないのにやたらと良い暮らしをしているフリーアナウンサーは、何か別の仕事をしているか、足長おじさんがいると思った方が良い。

そうでない限り、暮らしていけない。

玲奈の現在の一本当たりのギャラは(事務所がいくら取っているのか分からないが)2万円強だ。 週一のレギュラー番組を持っていたとしても、月に8万円程度にしかならない。ここから税金などが引かれるため、実際の手取り額は更に低い。

しかし、この8万円全てを自由に使える訳では無い。毎回同じ洋服を着てテレビに出る訳にも行かず、ZARAやUNIQLOを駆使しても補えないほど衣装代がかかる。加えて、テレビに映る人が肌荒れしている訳にもいかないので美容代もかかるし、コスメ代もかかる。

結局、一本の番組出演に対して支払うコストがかかり過ぎて、働いても働いてもお金にならない。新しい仕事を増やしたいが、 オーディデョン会場に行くまでの交通費代もバカにならない。

テレビには出たいが、出る度にお金が減っていく。玲奈は、微妙に売れてしまったフリーアナウンサーが陥る蟻地獄にハマっている。


一度落ちると這い上がれない、フリーアナウンサーのマネーの闇...


一発逆転しか無い世界


微妙に売れているフリーアナウンサー。

これが最も悲惨な人達だろう。微妙に仕事が来るので、アナウンサーの世界からは抜けられない。全く仕事が無ければさっさと諦めが付くものだが、諦めることもできない。

売れれば億万長者も夢ではない世界。

しかし売れていない人は一本当たりのギャラも低く、アナウンサーだけでは食べて行けない。

しかも売れていない人に限って撮影やオーディションは不意にやってくるため、定職に就くこともできず、不定期のアルバイトしかできないので生活は困窮している。 時間に融通が利くコンビニや、夜の仕事で生活を成り立たせている人も実は多い。

売れたら天国、売れなければ地獄の世界である。




どの道を選ぶのが幸せなのか...


玲奈は今後もアナウンサーを続けていくべきかどうか悩んでいる。友達から番組のMCの座を奪ったものの、結局幸せにもなれず、ただ生活が苦しくなる一方だった。そして深夜のBSの番組に出た所で、知名度が急上昇する訳でもない。

27歳は、他に方向転換できるラストチャンスの年齢だと思っている。年齢と戦いながら、玲奈は今日も収録の度に神経を擦り減らせ、そして財布の中身を心配している。



参考までに...

玲奈からMCの座を奪われた理香だが、玲奈の事件以降アナウンサーを諦め、ピアノ講師に専念することにした。そしてお食事会で出会ったバイオリン演奏が趣味の御曹司と婚約し、現在幸せに暮らしているそうだ。

【これまでのフリーアナウンサーの闇】
vol.1:笑顔で原稿を読みながら隣を蹴飛ばす。 元地方局女子アナの過酷すぎるバトル
vol.2:朝番組に出演していた元・女子大生お天気お姉さん。年齢と共に消える彼女達の行く末は...
vol.3:売れたいなら媚を売れ。元人気局アナ、フリー転向後の明暗を分ける生き残り競争
vol.4:アナウンサーになれずCAに。それでも諦めきれないアナウンサーの夢
vol.5:自分より目立つ美女は皆降板させる、傲慢局アナへの密かな復讐劇
vol.6:引きずり落とす敵は身内にいる。女子アナというタイトルを潔く捨てた本当の理由
vol.7:コネと実力が交錯する!?知られざるアナウンサー試験の闇。