ソ連崩壊後、アメリカは「世界の警察」「超大国」「正義の味方」を自負し、世界も概ね容認していました。しかし現在、大統領候補・トランプ氏が各国に「金を出せ」と発言するたび喝采を浴びるなど、もはや覇権国家とは言いがたい状況にあります。なぜアメリカはここまで衰退してしまったのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で詳しく解説されています。

アメリカが衰退した三つの理由

アメリカが衰退しています。トランプさんが、「日本はもっと金を出せ! さもなければ、米軍を撤退させるぞ!」と脅すとき、「嗚呼、アメリカもここまで落ちたか」と悲しくなります。

1945〜1991年、世界には、アメリカとソ連、二つの極がありました。しかし、1991年末、ソ連が崩壊した。そして、一極、つまりアメリカだけが残った。「アメリカ一極時代」の到来です。

90年代、アメリカは、「冷戦勝利の見返り」をたっぷり受けていた。世界中どこにもアメリカの脅威は存在しない。そして、アメリカ経済は、IT革命で一人勝ちしている。まさに、「この世をば わが世とぞ思ふ望月の かけたることもなし思へば」(藤原道長)状態。

しかし、新世紀に入ってわずか16年で、なんと変わってしまったことか…。

トランプさんは、日本を脅すだけでなく、「韓国はもっと金を出せ!でなければ、米軍を撤退させるぞ!」「NATO加盟国はもっと金を出せ!でなければ、アメリカはNATOから抜けるぞ!」と脅迫する。それを聞いて、アメリカ人は「そうだ!そうだ!」と叫び、支持率がますます上がっていく。

2000年時点で、「世界唯一の超大国」だったアメリカ。なぜわずか16年で、こんなひどいことになったのでしょうか?

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アメリカは、「世界支配」を目指し、失敗した

「冷戦」という米ソ「二極世界」が崩壊した。そして、「一極世界」になった。これは、冷戦が終わったので、必然的にそうなったのです。「もはや敵が存在しない世界」でアメリカは、どう振る舞おうとしたのでしょうか? 答えは、「アメリカが単独で世界を支配する」です。その方法について、アメリカ在住政治アナリストの伊藤貫先生は、こう解説しておられます。

1991年秋にソ連が崩壊すると、アメリカ政府は即座に次のグランド・ストラテジーを構想した。それは「国際構造の一極化を進める。今後はアメリカだけが、世界諸国を支配する経済覇権と軍事覇権を握る。アメリカに対抗できる能力を持つライバル国の出現を許さない。

 

『自滅するアメリカ帝国』 p8

要するに、アメリカは「世界を支配する!」と。そして、アメリカの潜在敵は、4国あるんですね。

ロシア中国ドイツ日本(!!!)

すでにほぼ半世紀も「アメリカの忠実な同盟国」としての役割を果たしていた日本とドイツが、米政府の機密文書において冷戦後のアメリカの潜在的な敵性国と描写されていたことは、「外交的なショック」(ワシントン・ポスト紙の表現)であった。

 

(同 p62)

なにはともあれ、アメリカは冷戦後「世界支配」を目指した。これは、「誇大妄想的で不可能な欲望」といえるでしょう。しかも、「民族主義的」です(「アメリカ民族」というのはないにしろ)。

当然、世界中の大国が反発を強めることになりました。フランス、ドイツ、ロシア、中国などは、「多極主義陣営」の構築を急ぎ、アメリカに対抗していった。そして、「100年に一度の大不況」が起こったのです。

● アメリカが衰退した理由1

=世界支配という、誇大妄想的で不可能な目標を追求したこと。

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アメリカは、自分がつくった「世界秩序」を破壊した

今の世界秩序は、第2次大戦のいわゆる「戦勝国群」がつくったものです。アメリカは、その世界秩序の中で、「強制力をもつ国連安保理で『拒否権』をもつ」という特権的な地位にある。しかし、「唯一の超大国」になったアメリカは、「5常任理事国の一国」という地位に満足できませんでした。

他のメンツをみてください。

イギリス、フランス、ロシア、中国。

アメリカは、「どう考えても、この4国より、俺たちは上だろ!?」と考えた。それでどうしたか? 現在の国際法では、「戦争できる理由」は「二つ」しかありません。一つ目は、他国が攻めてきたときです。この時、「自衛権」を行使して戦うことが、認められています(日本も戦える)。二つ目は、国連安保理が、戦争に賛成したときです。

さて、戦争ばかりしているアメリカ。9.11後の「アフガン戦争」は、「自衛権の行使」という名目で行われました。しかし「イラク戦争」は、同じ理由が使えなかった。フセインは、アメリカを攻撃していませんから。そこで、アメリカは、安保理の「お墨つき」を得ようとした。すると、フランス、ロシア、中国が反対したのです。

結局アメリカは、「国連安保理」を「無視」することにしました。そう、アメリカのイラク戦争は、「国際法違反」だったのです。証拠はこちら。(04年9月16日、朝日新聞)

イラク戦争「国連憲章上違法」 国連事務総長がBBCに

 

15日の英BBC放送(電子版)によると、アナン国連事務総長はBBCとのインタビューで、イラク戦争を「我々の見地からも、国連憲章上からも違法」と断じた上で、「各国が共同歩調をとり、国連を通して行動するのが最善という結論に誰もが達している」と述べた。

 

国連では21日からブッシュ米大統領ら各国の元首、首相、外相らを迎えて総会の一般演説が行われる。アナン氏の発言はこれを前に、イラク戦争を国際法違反とする国連の姿勢と、唯一武力行使を容認できる機関としての安全保障理事会の重要性を再確認したといえる。

このことについて、Z氏は、「アメリカは国連安保理を無視したことで大変なことになるぞ」と03年時点で警告していました。05年出版の『ボロボロになった覇権国家』にも書かれています。

私はZ氏の話を聞いたとき、「そんなもんかいな」と本気にしなかった。しかし、今は「安保理無視」の長期的悪影響がはっきりわかります。日本にいるとわかりづらいかもしれませんが、これでアメリカは「正義の味方」の地位から、失脚したのです。そして、「国際秩序を破壊する悪者」になってしまった。

ジョージ・ソロスはいいます。

ブッシュ政権が追求しているアメリカの単独覇権という考えの誤りを、イラクははっきり示している。イラク侵攻は、アメリカがテロとの戦争を進め、世界における支配的地位を維持することをむずかしくした。

 

アメリカはその地位を失う道を歩んでおり、ブッシュ大統領はわれわれをその方向にはるばると連れてきている。

 

『ブッシュへの宣戦布告』p77

● アメリカが衰退した理由2

=自らつくった世界秩序を壊した

次ページ>>同じ道をたどらないために、日本が学ぶべきことは?

エネルギーの浪費

「世界支配」を目指すアメリカは、今まで以上に戦争ばかりする国になりました。
新世紀になってからだけで

01年:アフガン戦争開始03年:イラク戦争開始08年:傀儡国家グルジアとロシアの戦争11年:リビア戦争13年:シリア攻撃を画策するも断念14年:ウクライナ内戦を支援し、ロシアと対立14年:IS空爆を開始

このように、戦争ばかりしている。特に、長期にわたるアフガン、イラク戦争は、アメリカの衰退を加速させました。

● アメリカが衰退した理由3

=戦争ばかりしてエネルギーを浪費した

この件で、日本も笑えません。日本だって2次大戦時、戦線を拡大しすぎて、アメリカ同様の過ちをおかしています。

教訓

以上、アメリカが衰退した三つの理由をあげました。そこから得られる教訓を考えてみましょう。

● アメリカが衰退した理由1

=世界支配という、誇大妄想的で不可能な目標を追求したこと。

日本も、「誇大妄想的」な目標を掲げないよう注意する必要があります。

● アメリカが衰退した理由2

=自らつくった世界秩序を壊した

日本は、「世界秩序」を「守る側」にいるべきで、「壊す側」にいくべきではありません。アメリカでさえ、無傷でいられなかっただけでなく、長期的に破滅的なダメージを受けた。「190か国が加盟する世界秩序『NPT』なんて脱退して核をもてばいいじゃん!」と考えるのは要注意です。日本は、「世界秩序の破壊者」になり、米英仏ロ中が一体化して日本を破滅させることでしょう

● アメリカが衰退した理由3

=戦争ばかりしてエネルギーを浪費した

これもホントに大事な教訓ですね。実際、国家でも個人でも、「自分のもつエネルギーを最大限効率よく配分できるか?」が成功と失敗のカギを握ります。別の言葉でいえば、「本当に必要なことだけをする国」と「個人」が成功する。その意味で、アメリカは、「いらんことばかり」やり、「自滅への道」を歩んでいます。

image by: Joseph Sohm / Shutterstock.com

 

『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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出典元:まぐまぐニュース!