続々と明らかになる三菱自動車の不正。軽自動車だけでなく他の車種でも燃費の不正操作が行われており、しかも25年の長きに渡っていたとなれば事はより深刻度を増します。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』の著者でジャーナリストの内田誠さんは、「三菱自工はもう助からないだろう」とし、新聞各紙がこの不正問題をどう伝えたかを分析しています。

各紙は、「繰り返される三菱自動車の不正」をどう報じたか

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「三菱自 91年から不正測定」
《読売》…「燃費 走行データ無視」
《毎日》…「三菱自社長、引責辞任へ」
《東京》…「三菱自 不正25年「伝承」」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「三菱自「不正」四半世紀」
《読売》…「燃費目標5回引き上げ」
《毎日》…「経営陣関与 焦点に」
《東京》…「不正脈々 消費者欺く」

ハドル

こりゃ、もう、助かりませんね、多分。もちろん、三菱自動車のことです。各紙、表現のきつさ、厳しさを競うような趣が見出しに溢れんばかりです。よく使う表現ですが、「企業の不祥事」と観ていたら実は「企業犯罪」だった、いやいやそれどころか、対象は根っからの「犯罪企業」だった、というお粗末。リコール隠しの時にはトップら3人と法人に有罪判決が下りました。今度はどこまで大きくなるのか、きょうはこれをテーマにするしかありません。

基本的な報道内容

三菱自動車に燃費偽装問題で、26日相川哲郎社長が記者会見し、軽自動車4車種では燃費目標を達成したと偽るため、走行試験の結果と関係なく、タイヤや空気の抵抗についてデータをねつ造していた他、1991年以来、軽を含む多くの車種で国内法が定める方法とは違う方法で燃費の計測を続けていた。社長は「会社存続に関わる事案」と謝罪した。

今回の報告書でも問題の全容は明らかになっておらず、国交省は再提出を指示。問題はさらに拡大する様相。相川社長と益子会長の引責辞任必至。

※ 以下、きょうは順番を入れ替え、【毎日】→【読売】→【朝日】→【東京】です。

次ページ>>【毎日】経営者の責任に照準

経営トップの責任

【毎日】は1面トップに3面解説記事「クローズアップ」、4面には今日から始まる連載「果てなき闇〜三菱自動車燃費不正〜」の(上)。見出しを以下に。

三菱自社長、引責辞任へ91年から違法測定経営陣関与 焦点に社内会議で目標課題設定国交省 再提出を指示自浄作用働かずグループ内 突き放す声社長「会社の存続に関わる」

uttiiの眼

見出しを見る限り、《毎日》はとにかく経営者の責任に照準を合わせているように感じる。だからならのだろう、1面トップ記事には、沈痛な面持ちで俯く相川哲郎社長の顔を大きな写真で掲載。リードの書き出しも「三菱自動車の相川哲郎社長が、軽自動車の燃費不正問題の責任を取り、辞任する意向を固めたことが26日分かった」とした。つまり、社長辞任、というニュースと捉えていることになる。

それでも、記事の中に入ると、相川社長が「今後の再発防止策を作ることが今の私の最大のミッション」と語り、進退の明言を避けたとの記述。ただし、リコール隠し以降も繰り返された不祥事に、「大株主の三菱グループからも『トップの責任は重い』との声が出ており、退任は不可避と判断した」とする。

こうした地合は3面の解説記事にも引き継がれ、見出しが「経営陣関与 焦点に」となっていることに表されている。

内容上重要なのは次の記述。

この偽装で焦点となるのは経営層など組織的な不正の有無だ。三菱自は20日の会見時点では、担当得部長が「自ら指示した」と認めたとしていたが、26日の記者会見では「指示した事実が確認できなかった」として前言を撤回した

とする。誰が指示したのか、その点は曖昧にされている。

また、ダイハツとスズキの熾烈な燃費競争を横目で見ながら、5回行われた燃費目標の引き上げは、「社長ら経営陣も出席する社内会議などで決まっており、組織的関与の疑いを濃くする会見内容になった」とも。再提出される報告書にはどう書き込まれるのか、いずれにせよ、これら「経営陣の関与」が厳しく問われることになるのは間違いない。《毎日》の見立て通りだと思う。

因みに、2つ目の不正である、全車種に及ぶ法令違反の燃費計測法採用に関しては、「背景が不透明」で、理論上、この不正によって燃費のかさ上げには直結しないという。それでも、正しい方法で実測した結果、燃費性能が落ちる車も出てくる見通しで、三菱自動車のブランドはさらに深手を負うことになると。

21日の朝刊でこの問題を最初に1面トップに持ってきたのが《毎日》だった。関連記事を含め、併せて4本の記事を掲載していたほど。「偽装の手口」に関する説明も《毎日》のものが一番分かりやすく、燃費走行の基になる「走行抵抗値」が各メーカーの「言い値」で構わないことを悪用し、燃費をよく見せかけていたという、卓抜な解説を提供していた。敬意を表して、きょうは《毎日》からとし
た所以(ゆえん)。

※ いつも順番が後であれば軽視しているというわけではないですが…(笑)。

次ページ>>【読売】三菱グループの顔色をうかがっているわけではないだろうが…

「ジュニア」と呼ばれる男

【読売】も1面トップに2面のQ&A、3面解説記事「スキャナー」、8面は2面に続くQ&A、9面経済面の記事、そして社会面39面にもユーザーの声。見出しを拾う。

燃費 走行データ無視三菱自 目標達成へねつ造燃費目標5回引き上げ競合車に対抗 経営陣は圧力否定リッター30キロ「軽」燃費競争三菱自 存続の危機不正 断ち切れずグループ内からも批判違反計測 25年前からユーザー「詐欺行為だ」

uttiiの眼

《読売》も、経営陣の責任という問題を各所で強調してはいるが、関与を否定し、圧力も掛けなかったという経営陣側の言い訳を丁寧に紹介しているきらいがある。

たとえば、解説記事「スキャナー」はリードで、「三菱自は経営陣の関与や圧力を否定し、調査を外部の専門家に委ねた」と書き、記事では、燃費目標を5回にわたって引き上げた「商品会議」について、相川社長が「会議のメンバーは、それができるものという論拠で議論した」と話したことを敢えて伝えている。つまり、技術的に可能だと開発スタッフが言うから目標を上げたのだ、自分たちは無理な圧力を掛けた覚えはないということのようだ。目標が何度も引き上げられたこと、実際の燃費が目標に達していないのにカタログには目標値がそのまま示されていたこと、こうした怪しい出来事について《読売》は、自動車大手関係者の言葉を引き、「目標を達成しなければならないという焦りがあったのではないか」という薄っぺらい「説明」を提供してお茶を濁している。実にあいまいな「説明」だが、そこから先、《読売》は全く突っ込んでいない。

代わりに、《読売》が「重視」するのが、形式的な意味での「責任」だ。《毎日》が主に相川社長の経営責任を問う姿勢であるのに対し、《読売》は益子修会長兼CEOの「責任」を問いたいように見える。1面トップ記事には、その下の方に、わざわざ益子氏の顔写真を載せ、別記事仕立てで「益子会長 辞任へ」と報じている。益子氏は三菱商事出身で、2005年に三菱自の常務から社長に昇格。リコール隠し後の経営再建を担い、財務改善のめどがついた14年に社長を退き、会長兼CEOとなった人物。問題となる時期に10年以上にわたって経営トップを務め、今もCEOの立場となれば、確かに辞任必至ではあるだろう。だが、もともと「クルマ屋」ではなく、開発部門出身の相川氏とは責任の意味が違う。

その相川哲郎氏は、三菱グループの中核である三菱重工の元社長で、三菱グループの「天皇」と呼ばれた相川賢太郎氏(現、相談役)の長男。グループ内で「相川ジュニア」と呼ばれる存在。まさか《読売》、三菱グループの顔色うかがって、相川ジュニア擁護に回っているわけではないと思いたいが…。

次ページ>>【朝日】半分面白がっているかのような見出し

四半世紀の永きにわたり

【朝日】は1面トップに2面の解説記事「時時刻刻」、会見詳報を8面。見出しを並べてみる。

三菱自 91年から不正測定社長「会社存続に関わる」三菱自「不正」四半世紀社長「自浄作用が働かず」事業継続に大打撃繰り返される不祥事

uttiiの眼

《朝日》は、とにかく三菱自動車はこの間ずっと不正を続けてきたのだということを強調している。1面見出しに「…91年から不正」と書き、「時時刻刻」では「『不正』四半世紀」と、もう半分面白がって書いているのではないかと思いたくなるほど。だがもちろん、記事の方は冷静だ。他紙も書いているが、不正の態様についての正確な情報をまとめているので、【基本的な報道内容】と被るが、少し書き出してみよう。

燃費性能算出の基となる「走行抵抗値」のデータは、道路運送車両法に基づき「惰行法」で行うよう、91年に定められた。三菱自はこのときから「高速惰行法」という米国車向けの方法を使い、違法な方法で計測を行っていた。また、燃費試験データを偽装していた軽自動車四車種のうち2車種については「高速惰行法」で測定した走行抵抗値をさらに意図的に小さく偽装して国の燃費試験を受けていた。この実測にしても、燃費が良いタイプでしか行わず、別の3タイプでは実測した走行抵抗値を基に机上計算で算出。なんと、この4車種の後継車については総て走行試験をせず、最初の実測データを参考に、架空のデータを算出していたという。

《朝日》は唯一、この「惰行法」と「高速惰行法」の違いを図で解説している。

今の制度ができて以来ずっとこうした不正を行ってきた三菱自の「事業継続」はかなり危ういということを、《朝日》は多面的な取材とデータで明らかにしている。

三菱自の世界販売台数は100万台ほど。そのうち国内は1割で、残りは東南アジアなどの海外。国内販売の半数超を軽が占めていて、連休明けまでには正しい燃費試験を終えて販売を再開したい考えだが、再開時期は「国交省が判断する」(中尾副社長)という。法令の規定を破り続けてきた三菱自に対して、国交省がどんな姿勢で臨むのか、想像に難くない。

ユーザーへの対応も難問だ。燃料代の補填、中古車として売る際の値下がり分など、全体にいくら掛かるか分からないという。軽の供給を受けていた日産は販売機会損失の補償を求める考えといわれる。生産を止めた主力工場である水島製作所従業員の一時帰休なども検討する必要が出てきている。日産との今後の関係、リコール隠しでは支援を受けた三菱グループが今回はどのような姿勢を取るのか、全く不透明だという。五里霧中とはこのことだろう。

次ページ>>【東京】ずる賢いのではなく、だらしがない経営者たち

伝承される無責任

【東京】も1面トップに3面の解説記事「核心」。見出しは以下に。

三菱自 不正25年「伝承」燃費問題 法令と異なる測定91年から パジェロなど疑い不正脈々 消費者欺く社長「知らなかった」■社員「上の指示絶対」

uttiiの眼

《東京》の捉え方は、こうした不正があいまいな責任体制のもとでそのまま伝承され、誰も疑わずに行われていたという点を強調している。1面トップの見出しに「…不正25年「伝承」」とあり、3面の解説記事「核心」に「不正脈々…」とあるのがその表れ。

経営者たちについては、ずる賢いのではなく、ただ、だらしがない存在と観られているようだ。かつて丸山真男が『歴史意識の古層』のなかで指摘した、日本的な発想の根底にある「つぎつぎと・なりゆく・いきほひ」のように、三菱自の内部では違法なやり方が次々と伝承され、長い時間、そのままであり続けることを、誰も止められなかった、いや、止めようとさえしなかったのだろう。

会見した幹部たちも、いまだに「誰が指示したのか」、「補償額はいくらになるのか」、「不正の範囲はどこまで及ぶのか」といった疑問に答えることさえできないでいる。これはもう、無責任とか主体性がないとかいう範囲を超えて、無能な経営者といわれても仕方があるまい。外部の弁護士などで作る特別調査委員会による調査結果がどんなものになるのか、経営陣自身がドキドキしながら待つことになるのだろう。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

基本的には各社、三菱自の会見を題材に記事を書いているわけですが、1つ1つ、ニュアンスや強調点が違っているのが興味深いですね。私の読み方が当たっているかどうかは別として、リテラシーを鍛える良い材料だという気もします。三菱自動車のユーザーやステークホルダーには申し訳ない言い方になりますが。ではまた。

image by: TK Kurikawa / Shutterstock.com

 

『uttiiの電子版ウォッチ』2016/4/27号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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出典元:まぐまぐニュース!