台湾李登輝元総統が新著の「余生:私の命の旅と台湾の民主の道」の中で、「尖閣諸島は日本の領土。疑う余地のない事実」と従来の主張を繰り返したことで、台湾ではふたたび「波紋」が発生した。馬英九総統弁公室の馬〓国報道官は、「主権を葬る国辱の言説」と非難した。(〓は王へんに「韋」)

 李元総統は従来から、台湾には、尖閣諸島に対する誤解が存在すると主張している。尖閣諸島は戦前からよい漁場だが、最も近い石垣島などは市場が極めて小さいために、漁船は捕れた魚を台湾に運んで売りさばいた。台湾から尖閣周辺に出漁する船も多かった。そのため、台湾人は尖閣諸島を「自分らの島」と思うようになったという。

 李元総統によると、尖閣諸島が日本の領土であることは歴史的に見ても疑いのない事実であり、尖閣諸島が台湾に属したことはない。新著では改めて、尖閣諸島についての持論を披露した。さらに、遊錫〓行政院院長(首相。2002-05年在任)が尖閣諸島を台湾東部の宜蘭県に編入したことについて「これ以上、愚かなことはないというぐらい愚か」と酷評した。(〓は「禁」の木」を「方」に、「示」を「土」に代える)

 李元総統は、2013年に尖閣諸島周辺海域について日台が漁業関連の「取り決め」を交わしたことについては「漁民のために、心から待ち望んでいた」、「喜ばしく、祝賀すべきことだ。歴史的壮挙と言ってよい」と称賛した。

 台湾の通信社、中央社によると、馬英九総統弁公室の馬報道官は16日午後、「中華民国政府が釣魚台列嶼(尖閣諸島についての台湾側呼称)について主権を有していることは、疑いのない事実だ。中華民国政府は一貫して、1683年以来、釣魚台列嶼は台湾に属する島であり、中華民国の固有の領土の一部だと主張している。地理、地質、歴史、国際法のいずれからも、主権については確固たる基盤があり、いかなる国家または個人の否定も容認しない」と述べ、李元総統の主張を「主権を葬る国辱の言説」と非難した。

 次期総統に決まった民進党の蔡英文主席(党首)も、李元総統の尖閣問題についての見解を記者に質問され「その件について民進党の立ちははっきりしています。釣魚台は台湾のものです」と述べたが、多くは語ろうとしなかったという。

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◆解説◆
 馬報道官は、尖閣諸島について「中華民国は一貫して主権を主張している」と述べたが、台湾(中華民国政府)が同諸島の領有権を正式に主張したのは、1971年6月11日だ。尖閣諸島は当時、沖縄と同様に米国の施政下だったが、台湾は国交があった米国に対して、日本に沖縄を返還すると同時に、尖閣諸島は台湾の主権下に置くことを要求したのも、同年3月15日と、極めて遅かった。

 もしも台湾当局が尖閣諸島は自国領と認識していたならが、「中華民国として第二次世界大戦の戦勝国でありながら、自国領を取られたままに放置していた」と、世界史でもまれな状況を放置していたことになる。

 中華人民共和国が尖閣諸島の主権を初めて主張したのは、台湾より約半年遅れの同年12月30日だった。中国共産党政権は、「侵略をはねのけ、自国の主権と領土を回復させた」ことが、政府としての「正統性」の根拠とするので「中華民国が中国領と主張する以上、中華人民共和国も主張しないと政権の正統性にも影響する」との考えで、「同じ年のうち」に主張を発表したと考えられる。

 なお、中国側には尖閣諸島問題で台湾との「共闘」を望む声も出たが、中国のロジックがそもそも「台湾は中国の一部だ。尖閣諸島は台湾の一部だ。したがって尖閣諸島は中国の一部だ」なので、台湾側は取り合わなかった。(編集担当:如月隼人)(写真撮影:サーチナ編集部)