◆ミルコ・デムーロ騎手インタビュー(後編)

今年からJRAのジョッキーとなって、大いに活躍しているミルコ・デムーロ騎手(36歳)。今回は、弟のクリスチャン・デムーロ騎手(23歳/イタリア)との関係や、日本の騎手について、さらには有力馬が多数そろう2歳馬についての話を聞いた――。

―― 10月10日から関東では東京で、関西では京都で競馬が開催されます。例年、この時期になると、短期免許を取得して何人かの外国人騎手がやって来ます。弟のクリスチャン・デムーロ騎手は今年、イタリアダービーを勝つなど大活躍をされていますが、この秋の来日予定はあるのでしょうか。

「『(日本に)来たい』とは言っていたけど、まだわからないね」

―― 今やイタリアを代表するトップジョッキーとなったC・デムーロ騎手。兄弟の仲はどうなのでしょう。

「めっちゃ、仲がいいよ(笑)。年が13歳も離れているからかな。それは、ユタカさん(武豊騎手/46歳)とコーシロー(武幸四郎騎手/36歳)と同じね」

―― 騎手として比較されることも多いと思いますが。

「昔、ボクがイタリアでよく勝っていた頃は、クリスチャンがいくら勝っても『あいつはミルコの弟だから、いい馬に乗せてもらえる』って、周りに言われてかわいそうだった。クリスチャンは、もともと上手いんだよ。だから今、イタリアでいっぱい勝っているのは、当然のこと。その活躍を誇らしく思うよ。ボクがたまにイタリアに行ったりすると、今ではみんな『弟のほうが上手い』って言うからね。それはちょっと、複雑だけどね......(笑)。でも、クリスチャンがもし日本に来たらうれしいし、一緒に競馬ができたら、もっとうれしいよ」

―― そうやって、海外から腕のいいジョッキーが来ることで、「日本の競馬が面白くなる」とよく言われます。一方で、外国人ジョッキーが活躍できるのは、「日本の騎手のレベルに問題がある」という声もあります。日本の騎手の技量については、どう見ていますか。

「みんな、上手い! すごいよ! ユタカさんは、天才ね。世界中の競馬場に行って、どこでも勝ってきた。そんなこと、なかなかできないよ。ユーイチさん(福永祐一/38歳)も、昨年香港の『ロンジン・インターナショナルジョッキーズチャンピオンシップ』で優勝しました。ボク、JRAのジョッキーになる前は香港にいたからよく知っているけど、舞台となったハッピーバレーはとても難しい競馬場(香港Cなど国際的な大レースが行なわれるのは、シャティン競馬場)。そこで、ユーイチさんは(抽選で)そんなにいい馬には乗れなかったのに、(4戦して)ふたつも勝った。現地のみんな、びっくりしていたよ」

―― ただこの夏、札幌で行なわれた『ワールドオールスタージョッキーズ』では、香港のモレイラ騎手が優勝。日本の競馬ファンは、その手腕の高さに唸らされました。あのような"スーパー騎乗"を見ると、日本の騎手には何か物足りなさを感じてしまいます。

「モレイラのことはよく知っている。確かに、彼は上手い騎手だね。でも、あのときの彼は、いい馬ばかり乗っていた。騎乗馬に恵まれたと思うよ。それより、まったく人気のない馬を2着に持ってきたユタカさんのほうが、技術的には上だった。それなのに、日本のファンも、マスコミもみんな、『モレイラ、うまい!』『モレイラ、すごい!』って......。その評価には、ボクはちょっと悲しかったね。日本の競馬は、馬も、施設も、ファンも、世界一。同じように、騎手も世界一。そこに、もっとプライドを持つべきと思う」

―― さて、いよいよ秋競馬も本格化。これから毎週のようにGIレースが行なわれますが、デムーロ騎手の騎乗予定と期待馬について、教えていただけますか。

「天皇賞・秋(11月1日/東京・芝2000m)には、アンビシャス(牡3歳)に乗る予定だけど、その他は、まだちょっとわからない」

―― GIの中で、特に勝ちたいレースというのはありますか。

「全部勝ちたい!(笑)。でも、どれかひとつ、と言われれば、ジャパンカップ(東京・芝2400m)かな。ダービーはビッグレースだけど、(盛り上がるのは)日本(の中)だけね。ジャパンカップは、世界中から強い馬が来て、勝てば世界から認められます。だから、勝ちたい。(2008年に)スクリーンヒーローで勝ったときは、すごくうれしかった。その前の3年ぐらい、日本で重賞さえ勝っていなかったから(実際は2005年、2006年は重賞未勝利も、2007年には重賞1勝)、余計にうれしかったよ。あと、有馬記念(中山・芝2500m)も勝ちたい。1年で最後のGIで、お客さんがいっぱい来るでしょ。ボクは一度勝っているけど(2010年のヴィクトワールピサ)、あそこで勝つのは最高!」

―― デムーロ騎手は、ダービーをはじめ、天皇賞・秋、ジャパンカップ、有馬記念というビッグレースを制し、日本でGIを12勝もしています。しかし、なぜか牝馬のGIは1回も勝っていません。もしかして、"オンナ嫌い"なのでしょうか。

「そんなことはありません! ボク、女の人、大好きです(笑)。だから、理由はわからないね。ただ、これまでに『絶対に勝てる!』という強い牝馬に乗っていない、というのはあるかもしれない」

―― 今春の牝馬クラシックで騎乗したクイーンズリング(牝3歳)も、強い馬だと思いますが、絶対的な存在とは言えませんでした。

「今年の3歳牝馬は、上が強いね。トップクラスの馬は、かなり力がある。そういう意味では、彼女(クイーンズリング)はかわいそう。それに、距離はマイル(1600m)が一番いい。来年のヴィクトリアマイル(東京・芝1600m)は面白いと思うよ」

―― 一方、今後の活躍が期待される2歳馬には、なかなかの素質馬が"お手馬"としてそろっています。これまでに騎乗してきた中で、最も期待しているのは、どの馬ですか。

「阪神の新馬戦(9月20日/芝1800m)を勝った、スマートオーディン(牡2歳/父ダノンシャンティ)は強かったね。阪神は、最後(の直線)に坂があるでしょ。それで、(上がりタイムが)33秒3だからね。2歳馬で、あの時計で走れるのはすごい。びっくりした。いい馬は他にもいるよ。ロスカボス(牡2歳/父キングカメハメハ)、カイザーバル(牝2歳/父エンパイアメーカー)、サプルマインド(牝2歳/父ディープインパクト)、ロードクエスト(牡2歳/父マツリダゴッホ)は、みんなすごく強い。ホント、この5頭はやばいよ」

―― ここに挙げていただいた5頭の中から、来春のクラシック馬が出る可能性がありそうですね。

「もちろん、それはあります。1回使って、その経験が生かされそうな馬たちばかりですしね。また、これまでボクが乗ってクラシックを勝ったネオユニヴァースも、ドゥラメンテも、もともとは他の騎手が乗っていた馬だったけど、これからはボクが新馬からずっと乗れるかもしれない。そういう馬たちにいろいろなことを教えて、一緒に来年のクラシックを戦うっていうのは、すごく楽しみ」

―― GI戦線を含めて、この秋も大暴れしそうなデムーロ騎手ですが、最後に競馬でいつも心掛けていることを教えてください。

「トライ・マイ・ベスト。いつも、一生懸命ね。ずっと、ずっと、それだけ」

―― 今回はありがとうございました。ご活躍を期待しています。

新山藍朗●構成 text by Niiyama Airo