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Wiredに掲載されたApple Watchの「内情」を確認してみよう。

Apple Watch の開発過程を特集したWiredの記事において、アップルは他社を侮辱したつもりはないのかもしれない。とはいえ、書き手のデヴィッド・ピアースと彼が取材したアップルのケヴィン・リンチ、アラン・ダイとのやりとりをよく読んでみると、テック系ウェアラブルメーカーや開発者までも公然と批判しているように受けとれる。

「iPhoneの刺客:Apple Watchの開発秘話(iPhone Killer: The Secret History Of The Apple Watch)」と題するこの記事では、アップルがApple Watchを生み出すのに長い道のりを歩んできたことが書かれている。同社は試行錯誤し、そして取捨選択をしてきた。新しいガジェットやソフトウェアを開発するテック企業にとっては普通のことだ。だが今回は、アップルが使えないものとして切り捨てたコンセプトが、Pebbleやスマートウォッチ向け新興アプリメーカーの製品とたまたま似ていたことが問題となった。

これを教訓ととるべきか、あるいはアップルが辛辣な批判を暗にほのめかしたとみるべきなのか。いずれにせよ、アップルと同社の幹部はApple Watchがヒットすれば遠慮なく物申すようになるだろう。だから今のうちに真意を把握しておこう。

時系列からの脱却

1日はバッテリーがもつというApple Watchの時刻表示

Wiredの記事の一節では、Apple Watchのソフトウェアには、開発初期段階では時間順によるアプローチが採用され、情報を時系列で表示していたことが明らかとなっている。しかし、そのコンセプトは早い段階で「ショートルック」や「グランス」に置きかわった。ショートルックは最小限の情報を優先表示する通知で、グランスはニュースやアップデートをすばやく一元的に確認できる機能だ。

かつてアドビのCTOを務め、現アップルの技術担当副社長であるリンチはこのように語っている。「われわれはUIを見直し、メッセージ、メール、カレンダーなどのアプリを何度も作り直しました。その結果、本当に洗練されたものが出来上がりました」。この改善過程において、時系列というコンセプトは却下されたようだ。それはPebbleで採用されることとなったのだが。

2月にPebbleの創設者でCEOであるエリック・ミジコフスキーを取材した際、彼は自社スマートウォッチのソフトウェアを改善したと語り、時系列の重要性に基づいてデータを表示するシステムについて説明した。「個別にアプリを管理するのではなく、普段よく使うアプリから情報を抽出します」とのことだった。Pebbleのユーザーがスマートウォッチについているボタンを押すと、ついさっきのアクティビティや、今後の予定、今重要なデータなどを優先して表示できるということだ。

Pebble Time Steel

ボタンをポチポチ押すのに興味のないユーザーもいるかもしれないが、Pebbleの新たな端末とプラットフォームが軌道に乗るには十分だったようだ。ユーザーも時系列のアプローチはスマートウォッチに向いていると考えたようで、Pebbleは最初のキャンペーンで達成した1,000万米ドルという記録を塗り替え、Kickstarterでの二度目のクラウドファンディングで倍の出資額を手にした。7万8,000人以上によって、2,000万米ドルがPebble Timeと新たなソフトウェアに出資された。そのキャンペーンは開始日のうちに目標額の半分に達し、iPhoneと並ぶほどの大きな関心を集めていることを示した。

次のような状況も考えられる。最新のiPhone 6と6 Plusの売上は、最初の週末でともに1,000万米ドルに達した。もしApple Watchがこれらと同様に売れれば、アップルにとっては喜ばしいことだ。もしもそうでない場合は、スマートウォッチに時系列というコンセプトを採用するのは間違っているか否かを再検討しなければならないだろう。

iPhone中毒の治療法としてのスマートウォッチ

iPhone 6 Plusを試すカップル

われわれが現在iPhoneやその他のスマートフォン中毒になっている。そのことが、アップルApple Watch開発へと向かわせたのは明らかだ。

われわれユーザーは一日何時間もディスプレイを眺めているが、その人口はもっと増えるだろう。Pew Internet And American Life Projectによると、米国では約3分の2がスマートフォンを所有している。アップルはこの問題に責任を感じており、ピアースは「四角い金属板とミラノ風のストラップでできた端末がそれを解決してくれると弊社は考えています」と述べている。

Apple Watchはスマートフォンからユーザーを解放するために作られた。お望みとあらば、スマートフォンよりも便利できめ細やかにデータへとアクセスし、すばやく対応することができる。それはダイの専門分野であるインターフェースの功績によるところが大きい。

ダイの話には興味をそそられるだろう。彼は以前マーケティング部門のグラフィックデザイナーとして箱のデザインを担当していたが、現在はアップルのヒューマン・インターフェース・チームのリーダーを務めている。

一つだけダイが望まないのは、ユーザーがスマートウォッチに没頭しすぎることだ。ユーザーが30秒以上も嫌々手首を上げたままでいるのは彼の想定にない。「ユーザーがその状態で歩くというのは、我々の望むところではありません」とダイはピアースに語った。最終的にアップル側は、画面を見て何か操作するのは5秒から10秒ぐらいにとどめるべきだという結論に落ち着いた。

だが、今も増加し続ける開発者に、このことを教えたところでどうなるものでもない。すでに承認を待つアプリが大挙として押し寄せているのだ。生産性向上アプリ、金融アプリ、ソーシャルアプリ、ニュースアプリなどがユーザーの手首を獲ろうと待ち構えている。上述してきたことに基づくと、ダイの意に反して10秒ルールを守らず、ユーザーの手首を痛めるアプリも間違いなく出てくるはずだ。

Apple Watchストアの客

アップルが端末とソフトウェアの開発において注力してきたことを知ろうとすれば、同社が理想とするアプリ体験に自然と焦点が当たる。例えば、「Taptic Engine」と呼ばれる機能で通知を知らせる際の振動をどういうものにするべきか、アップルは1年をかけて検証してきた。

同社は他社アプリにもこれほどの努力を求めているのだろうか?ひとまずそれはないだろう。WatchKitが発表されてまだ日が経っていないのだから、そう言えるはずだ。だが、たとえそうだったとしても、アップルはすでに製品リリースの手はずを整えている。正直言って誰もが夢中になるわけではない新製品への開発者の関心を、わざわざ削いだりしないはずだ。

だから、今はアップルの教訓や批判をありがたく受け取っておくことにしよう。Apple Watchが成功すれば、同社はもったいぶった言い方をやめるだろう。アップルについて一つ確かなこと言えば、同社が有利な状況になって初めて、集中的に批判を始めることだ。

WWDC 2014にて。ZDNetを引用しAndroidを批判するアップルCEOのティム・クック

画像提供:
Apple Watch画像:Apple
Pebble Time Steel画像:Pebble
iPhone写真:Hadrian via Shutterstock

Adriana Lee
[原文]