【名作映像案内】第20回 「死して屍拾う者なし!」23年ぶりに復活した『大江戸捜査網2015』

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 2015年1月2日、テレビ東京で毎年恒例の新春ワイド時代劇が放送されました。2015年の作品は『大江戸捜査網2015』。往年の長寿番組の新作です。 

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<『大江戸捜査網』の概要>
 『大江戸捜査網』の第1作は1970年に日活制作、杉良太郎主演で放送開始。その後、中断する時期もありましたが、1992年まで全713話及び劇場版が放送・公開されました。 
その間、主演俳優は杉良太郎→里見浩太朗→松方弘樹→並樹史朗→橋爪淳の順に交代。制作会社も、日活の経営が傾いた(拙文『ゴジラ60年の歴史を振り返る 第4回』第9章参照)ため三船プロダクションやその他の会社に交代しています。 
 『大江戸捜査網』のストーリーは、時の老中松平定信が組織した隠密同心が悪事を捜査し、成敗するというものです。 
 松平定信は隠密同心のリーダーの上司なので、隠密同心の立場を現代の企業に例えると松平定信は部長ということになりましょうか。 
 但し、橋爪淳主演バージョンの第1シリーズでは松平定信が隠密同心を直接指揮しています。 

<『大江戸捜査網』の特徴>
 『大江戸捜査網』は、以下の4つの点が有名です。 

 まず、玉木宏樹が作曲したリズミカルなテーマ曲。特に軽快且つ雄大なホルンの音色は血湧き肉躍ります。

2つ目は黒沢良によるオープニングナレーションです。22年間で文言が何回も変わっているのですが、ここでは最も長い期間使用されたバージョンをご紹介します。 
「隠密同心!それは、旗本寄合席内藤勘解由に命を預け、人知れず人生の裏道を歩かねばならぬ宿命を自らに求めた者達である。極悪非道の悪に虐げられ、苛酷な法の冷たさに泣く、大江戸八百八町の人々を或る時は助け、励まし、また或る時は影のように支える彼等。だが、身をやつし姿を変えて敢然と悪に挑む隠密同心に、明日という日はない!」 

3つ目は、隠密同心が敵のアジトに向かって出陣する時に黒沢良が語ったナレーションです。 
「隠密同心心得之條 
我が命我がものと思わず、武門之儀、あくまで陰にて、己の器量伏し、御下命如何にても果す可し。尚、死して屍拾う者なし、死して屍拾う者なし」 
(最後のフレーズを3回繰り返す時もある) 
 これは制作会社が三船プロになってから導入されたもので、回によって全く映像表現が異なり、見せ場の1つとなっています。それにしても、よくあれだけ多種多様な映像表現が思いついたものだと感心してしまいます。このナレーションのシーンだけを抽出したMADを作ったら、さぞや壮観でありましょう。 

4つ目は、戦闘シーン直前に隠密同心が名を名乗るシーンです。 
主人公「隠密同心、誰々!」 
瑳川哲朗「同じく、井坂十蔵!」 
くノ一「同じく、誰々!」 
といった具合です。 

<『大江戸捜査網』の配役>

 ところで、里見浩太朗は『大江戸捜査網』に主演していた頃、同時に『ナショナル劇場 水戸黄門』で助さんを演じていました。『大江戸捜査網』は東京世田谷の三船プロ、『水戸黄門』は京都太秦の東映京都撮影所で撮影されたので、里見は1週間の半分を東京で過ごし、半分を京都で過ごしたそうです。 
 因みに里見時代の『大江戸捜査網』に隠密同心の1人としてレギュラー出演した山口いづみは、後に『水戸黄門』で里見演じる助さんの妻・志乃の役になりました。 

 さて、23年ぶりに復活した『大江戸捜査網2015』に登場する隠密同心は、1970年から1992年までに登場した隠密同心の中から、放送年に関わらず幅広くピックアップしたものとなっています。 

○登場人物名…俳優(オリジナルで演じた俳優) 
十文字小弥太…高橋克典(杉良太郎) 
秋草新十郎…松岡昌宏(京本政樹) 
稲妻お竜…藤原紀香(土田早苗) 
不知火お吉…夏菜(江崎英子) 
榊原長庵…柄本時生(橋幸夫) 
井坂十蔵…村上弘明(瑳川哲朗) 
内藤勘解由…里見浩太朗(中村竹弥) 

 上記の他、老中松平定信(演・加藤雅也)やそのライバルで前老中の田沼意次(演・瑳川哲朗)、その他実在の人物である平賀源内(演・小林稔侍)らが登場しています。 
 また、本作は以前のシリーズとは異なり、京都太秦にある東映京都撮影所で撮影されました。そのため、以前のシリーズとは異なり、福本清三、峰蘭太郎、白井滋郎ら東映剣会のメンバー・OBが出演しています。制作会社がコロコロ変わる『大江戸捜査網』の伝統を或る意味で継承していると言えます。 

<田沼意次と松平定信・史実篇>
 ここで本稿では、過去に松平定信、田沼意次、平賀源内が登場した時代劇を紹介した上で、『大江戸捜査網2015』の特徴を探ってみたいと思います。 

 松平定信は1759年生まれ〜1829年没。御三卿の一つ、田安家の出身。定信の父・田安宗武は八代将軍吉宗の息子です。『逃亡者おりん』では倉田てつをが宗武を演じました。
定信は血筋的には将軍家を継ぐ資格がありましたが、老中田沼意次によって白河藩松平家に養子に出され、将軍継承レースから脱落するのでありました。そして白河藩主を経て1787年、老中首座に就任し、質素倹約を旨とする寛政の改革を断行します。しかし1793年、老中を解任。1812年、隠居して楽翁という号を名乗りました。  
 地下鉄清澄白河駅がある東京都江東区白河には、白河藩主だった定信のお墓があります。 

松平定信の墓

 田沼意次は1719年生まれ〜1788年没。1772年に老中に就任して政治を行いました。意次の政治の特色は重商主義であり、この時期は田沼時代と呼ばれています。しかし意次は1786年、老中を解任されてしまうのでありました。そして寛政の改革の最中に死去してしまいます。 
 意次といえば賄賂を受け取っていたとして評判が悪いですが、この悪評は意次失脚後に喧伝されたものだそうです。 

<田沼意次と松平定信・創作篇>
 さて、以上を踏まえた上で、これまでの時代劇で田沼意次と松平定信がどのように描かれたか見ていきたいと思います。 
 実は老中時代の定信はその知名度とは裏腹に『大江戸捜査網』以外の時代劇では、あまりストーリー上重要なポジションを占めておりません。 
 一方で、隠居して楽翁と名乗った後の定信は、テレビドラマ『斬り捨て御免!』(シリーズ開始1980年)、同『半七捕物帳』(1992年放送)、同『隠密八百八町』(2011年放送)に主人公の後見人的ポジションで登場しています(俳優は『斬り捨て御免!』が松本白鸚と辰巳柳太郎、後の2本が丹波哲郎と平幹二朗)。 

 田沼意次はと言うと、善人として描かれている時代劇と悪人として描かれている時代劇の2種類にはっきり分かれています。 
まず『大江戸捜査網』通算713話(橋爪淳版『大江戸捜査網』第2シリーズの最終話)では、前老中である意次(演・青木義朗)が悪の黒幕として登場。老中として復権することを狙いますが、隠密同心によって殺害されました。史実の意次は寛政の改革の最中に死去していますので、歴史は改変されておらず、寧ろ隠密同心の活動によって我々が知る歴史が作られた形です。 
 次にテレビドラマ『江戸の鷹 御用部屋犯科帖』(1978年放送)は、お鷹組というチームを描いた時代劇です。お鷹組の上司は将軍家治(演・里見浩太朗)です。オープニングでは、ナレーターの黒沢良(『大江戸捜査網』のナレーターでもある)が「1770年代、悪政を極めたいわゆる田沼時代」と語っています。 
 最終話では主人公チームが悪の黒幕である現老中意次(演・岡田英次)の髷を斬り落とし、後に意次は失脚します。
『大江戸捜査網』最終話との違いは悪役意次を殺すか殺さないかですが、意次が老中を解任されるのは家治が死去してからですので『江戸の鷹』も史実通りと言えます。 
 映画『闇の狩人』(1979年)では田沼意次(演・丹波哲郎)に賄賂を贈ろうとする来客の行列が田沼の屋敷に形成される描写がありましたが、『大江戸捜査網2015』でもやはり意次の屋敷に賄賂を贈ろうとする来客の行列ができていました。 
 意次を悪徳政治家として描いた時代劇に対して、意次を主人公にした時代劇もあります。
 それがテレビドラマ『栄花物語』(1983年放送。主演・森繁久彌)です。『栄花物語』では、賄賂は全て公務に費やし、意次は質素な生活をしていたと描写されています。 
 また、『栄花物語』で描かれた歴史的事件としては、 
・田沼意次の息子意知(演・西郷輝彦)が江戸城内で殺害された事件 
・浅間山の噴火→天明の大飢饉→天明の打ち壊し 
があります。 
 意知殺害事件はテレビドラマ『隠密秘帖』(2011年)と『大江戸捜査網2015』でも描かれました。『隠密秘帖』では、息子を殺害されてショックを受けた意次(演・笹野高史)がめっきり老け込んでしまい可哀想でした。 
 浅間山の噴火→天明の大飢饉→天明の打ち壊しも『大江戸捜査網2015』で描かれています。 
 田沼意次が登場する時代劇をどんどん見ていきましょう。 
 何度も映像化されたテレビドラマ『剣客商売』では、主人公親子の息子の方、秋山大治郎の妻・佐々木三冬が意次(演・平幹二朗、他)の娘です。『大江戸捜査網2015』にも意次の娘が登場しました。 
 テレビドラマ『翔んでる!平賀源内』(1989年)では、主人公・平賀源内(演・西田敏行)と親しくする政治家として意次(演・藤岡琢也)が登場。本作は作品そのものが喜劇調なので、意次もコミカルに描かれています。
『翔んでる!平賀源内』では源内がエレキテルや嘘発見器などの発明品を意次に披露していましたが、『大江戸捜査網2015』でもやはり源内は意次と親しくし、エレキテルを披露したり意次の隠し子を養育したりしています。
 また『翔んでる!平賀源内』では源内が自身の発明品(例えば幻燈)を使って悪人を懲らしめていましたが、『大江戸捜査網2015』でも源内がエレキテルで悪人を懲らしめていました。 

 以上を踏まえた上で、『大江戸捜査網2015』放送前に同作の配役を見た時、私は或る配役に驚きました。それは瑳川哲朗が田沼意次を演じていることです。
 瑳川哲朗といえば、杉良太郎主演時代から並樹史朗主演時代に至るまで14年間に亘って『大江戸捜査網』に出演した俳優です。一方、田沼意次といえば『大江戸捜査網』通算713話で悪の黒幕として登場した人物であり、隠密同心の上司に当たる松平定信のライバルです。
普通に考えれば『大江戸捜査網2015』の悪の黒幕は田沼意次と予想するところです。その意次を瑳川哲朗が演じるというのです。私は配役を見て「瑳川哲朗が悪役なのか!?」「瑳川哲朗が隠密同心に斬り殺される役なのか!?」と衝撃を受けた訳です。 
 実際に『大江戸捜査網2015』を鑑賞したところ、意次は賄賂を受け取る政治家として描かれていましたが、一方で、蝦夷地開拓などの意次の政策が高く評価されていました。しかし意次は番組の途中で病死してしまいます(ここは史実通り)。
 そして本作では、私の予想を覆す展開が待ち構えていました。何と、悪の黒幕として隠密同心が殺害する対象が現老中松平定信だったのです。定信は、自分が八代将軍吉宗の孫であると自負し、次期将軍候補だった自分を白河藩に養子に出した当時の老中田沼意次に恨みを抱いていました。そして私腹を肥やしていたのです。 

 『大江戸捜査網2015』の特徴は次の2点であると指摘することができます。 
(1)田沼意次は賄賂を受け取っていたが、その政策が高く評価されている。 
(2)松平定信が悪の黒幕である。 

 『大江戸捜査網2015』の特筆すべき特徴は(2)の方です。私が覚えている限りでは、松平定信を悪の黒幕として描いた時代劇は初めてじゃないでしょうか。 

 纏めますと、『大江戸捜査網2015』は過去の『大江戸捜査網』の要素を登場させる一方、過去の『大江戸捜査網』とは180度反対の展開を見せることで、前例踏襲の安心感と新鮮な驚きの両方を視聴者に与えたと言えるでしょう。

(文:コートク)