ガソリン価格が低下すれば、車社会の米国には消費の押し上げ効果がある。だが、昨年来の原油安で米国エネルギー業界では相次いで大型プロジェクトが中止となり、掘削事業の一角では資金繰りが苦しくなっている。原油安は「総合的には米国経済にプラス」という見方が揺れ始めているのだ。

米国ウォール街に、ここに来て高値警戒感が出てきた。2月半ばに発表したヘッジファンドの投資状況によると、著名投資家のジョージ・ソロス氏が昨年末時点で米国株の保有比率を低下させた。

ペンシルベニア大学ウォートン校が開催した不良債権をテーマにした投資家会合は大盛況だった。足元の景気は「野球に例えるなら6回の表」(バンクオブアメリカ)という見方が多い。2〜3年後に後退期入りすることに先回りを始める動きが一部で出てきたのだ。米国経済は2009年に底入れしたが、拡張期が未来永劫に続くわけではない。景気とは循環するものだ。個人消費の分野では2月に入って家電量販大手のラジオシャックが破綻申請した。

ウォール街では2014年第4四半期の決算発表が一巡したが、注目されたのは原油安によって不良債権が発生する可能性だ。昨年来の原油安でエネルギー業界では相次いで大型プロジェクトが中止となり、掘削事業の一角では資金繰りが苦しくなっている。テキサス州を営業権とする地銀のテキサス・キャピタル・バンクシェアズが第4四半期決算を発表した際に、アナリストから開口一番聞かれたのは、原油安が資産内容や業績に与える影響だった。テキサス・キャピタルは地元の石油精製所などに融資している。

米国はエネルギー生産国でもある。掘削ビジネスが縮小し、テキサス州やカナダのカルガリーなどの商業用不動産市場が頭打ちの気配にある。リグと呼ばれる掘削装置の新規入もキャンセルが相次いだ。

ミッドサウス・バンコープ(ルイジアナ州)、グリーンバンコープ(テキサス州)、BOKフィナンシャル・コーポレーション(オクラホマ州)など、米国ではエネルギー事業への融資が融資全体の2割前後を占める地銀が多い。このため、エネルギー業界内での局地的な不良債権化を見越して、「ディストレス(不良債権)・ファンド」の募集も増えてきた。

FRB(連邦準備制度理事会)が1月に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)の議事録を発表したが、利上げに向けたリスクバランスの再点検をする文脈で、メンバーによる慎重な景況感が目立った。市場の年内の利上げ予想は変わらないが、当初の通説だった「6月の利上げ説」が後退した。年第4四半期の決算発表で注目されたもう1つの論点はドル高の影響。マイクロソフトなど国際展開する銘柄がドル高による収益の目減りを嫌気された。原油安と利上げ期待が生んだドル高は、米国にディスインフレ(物価上昇が小幅にとどまり、いつデフレに陥るかわからない状況)を引き起こしているのだ。

原油安は供給者から消費者への所得移転。確かにガソリン価格が低下すれば、車社会の米国にとっては消費の押し上げ効果がある。だが、原油安の影響を語る場合に大勢を占めていた「総合的には米国経済にプラス」という見方は微妙に揺れ始めている。

松浦 肇
産経新聞
ニューヨーク駐在
編集委員
まつうら・はじめ/日本経済新聞記者、コンサルタントなどを経て現職。ペンシルベニア大ウォートン校、コロンビア大法科大学院、同ジャーナズム・スクールにて修士号を取得。



この記事は「ネットマネー2015年5月号」に掲載されたものです。