原油が1バレル=50ドルを切る水準まで下がったことで、「2年で2%の物価上昇を目指す」という日銀のシナリオに狂いが出始めている。デフレ脱却のためには修正が必要だ。

原油安は「“2”の呪縛」を解くいいタイミング

年明け最初の金融政策決定会合で、消費者物価指数の上昇率見通しが大幅下方修正された。原油価格の下落が原因で、「2年程度で2%の物価上昇」という日銀シナリオの後ろ倒しが濃厚となった。シナリオの狂いを「日銀の敗北」とみなす向きもあるが、日銀が自らにかけた「爍〞の呪縛」を解く時期かもしれない。

■日銀シナリオは不変

下方修正は展望レポートの中間評価でなされたもので、物価上昇率は昨年10月時点の1・7%から1・0%へと大幅に引き下げられた。欧州経済への懸念が拡大、中国の景気減速が顕著になっていくなかで原油価格が上昇に転じる要因は貝当たらない。原油価格の下落は続いており、昨夏に1バレル=100ドル前後だった原油先物相場は、今年1月には50ドルを切る水準になった。これを受けて日銀では、2015年度の物価上昇率は0・7〜0・8ポイント押し下げられるとはじき、「2%の目標達成」は2016 年度にずれ込む可能性が出てきた。

これは市場にとっては重大事だが、日銀のデフレ脱却の基本シナリオの大枠は変わらない。日銀はデフレ心理の転換は引き続き進んでおり、原油価格が下げ止まれば物価は再上昇に転じると指摘。2 01 6年度にかけて1バレル=55ドルから70ドル程度に緩やかに上昇していくとの想定の下で、消費者物価指数の見通しは、2015 年度が1・0%、2016 年度が2・2%、成長率は2015 年度が2・1%、16年度が1・6%と予測。「2年程度での目標達成」はやや遅れるものの、達成に向けた自信は揺らいでいない。

■「日銀の見通しは甘すぎる」

しかし、市場関係者の中では「日銀の見通しは楽観的すぎる」との意見が増えている。当初はお手並み拝見とばかりに黒田日銀を静観していたエコノミストだが、消費税増税後の消費回復時期の読み違えや円安の悪影響による格差拡大などの誤算で、その絶対性が揺らいだ。

量的緩和に対する見方も厳しくなっている。量的緩和の副作用を問題視してきたエコノミストの中では、増加が顕著になってきた日銀の国債保有量や低下し続ける長期金利などを目の当たりにして、日銀に敗北宣言を促し、政業転換を求める声も増えている。

賃上げについては政府の財界への働きかけてもあり、大企業は相応の対応を検討しているようだが、今年度のベア要求は昨年度要求1%の倍以上。定期昇給を含めた賃上げ率では4%以上となる水準に、どれだけの企業がついてこられるのか。

また、春闘以上に制御できないのは原油価格だ。中国や新興国、欧州などの景気減速、シェールオイル産出国に対するOPEC(石油輸出国機構)陣営の対抗という圧力の中で、原油価格は均衡点を模索している状況で、価格動向はまだ見えない。

「2%の物価上昇率を2年程度で達成し、そのためにマネタリーベースや長期国債などの保有額を2年間で2倍にする」という爍〞をキーワードに国民受けする説明をした日銀だが、もとよりそのような数字合わせに縛られる必要はない。デフレ脱却という大目標達成のためのシナリオ変更は、敗北には当たらないのではないか。

谷口正晃
Masaaki Taniguchi
産経新聞社経営企画室長。
経済部記者として流通、IT、
総務省、日銀、財務省などを担当。
シリコンバレー特派員、
経済本部長などを経て現職。


この記事は「ネットマネー2015年4月号」に掲載されたものです。