ウォール街の金融機関、シンクタンク、証券アナリスト協会といった経済団体が記者を招いた経済・市場見通しの発表で印象に残ったのが、アナリストらの見方が昨年と比べて慎重になった点だ。今年の年央以降にも米国の利上げが視野に入り、世界のマネー動向は転換点に差しかかっている。

1月になると金融機関、シンクタンク、証券アナリスト協会といった在ニューヨークの経済団体が記者を招いた経済・市場見通しを発表する。毎年恒例なので、市場関係者の相場観を定点観測するうえで参考になる。

今年の市場見通しで印象に残ったのが、アナリストらの見方が昨年と比べて慎重になった点だ。米国国内だとデフレ懸念、ドル高による輸出減退。国外なら、欧州危機再燃の可能性、日本や中国をはじめとするアジアの減速など。原油安による消費の底上げなど好材料はあるのだが、列挙されるリスク要因が昨年に比べて増えた。

事実、株式相場の振れ幅が激しくなってきている。米国を代表する株価指数のS&P500種で見た場合、1日当たりの上限振幅率が前日比で1%を超える営業日は今年に入ってからは1月23日現在で約40%ある。この数字は、2013年で10%、2014年で14%にとどまっていた。「恐怖指数」と呼ばれ、株価指数のボラティリティー(変動率)を指数化した「VIX」も16程度と昨年の最安値から6割ほど戻している。金融危機以降、一本調子で上昇してきた株価だが、今年は何やら不穏な雰囲気が漂っているのだ。

S&P500種のPER(株価収益率)は、現在18倍程度ある。過去40年間で見てみると、上位2%内に入る高水準だ。文字通り、高値警戒感が生まれている。

1980年代以降、PER拡張が主導した株式相場の上昇は8回ほどあった。現在よりも高いPERをつけたのは、1990年代後半のITバブル期と業績低迷の割には相場が底入れした2000年代前半しかない。欧州危機への不安心理が一服して、一本調子で高値を追う相場が始まったのは2011年9月である。以来、米国株が最高値をつけた昨年末まで、S&P500種は70%ほど上げた。2011年9月当時のPERは約14倍だったので、その間のPERは約40%上昇した計算になる。つまり、過去3年超の上げ相場の6割近くがPERの拡張によって説明できる。このPER拡張を支えてきたのが、FRB(連邦準備制度理事会)によるQE(量的緩和)だった。一方で、PERは株価を1株利益で割った数字だが、分解すると資本コストから成長率を引いた数字の逆数ともいえる。要するに、QEで市場金利が下がり、結果的に資本コストが下がったことで、逆にPERは上昇し続けた構図が金融危機後の株式相場だった。

だが、ここに来て、PER拡張が足踏みして、市場変動率が上昇している。これは無理もない。相場上昇の原動力だったQEが終了し、今年の年央以降にも利上げが視野に入ってきたからである。

1月22日にECB(欧州中央銀行)が国債買い入れ型のQEを発表したが、株式相場の戻しも長続きしない気配がある。基軸通貨国による金融政策の変更は、世界中のマネー動向にとって転換点となる。

松浦 肇
産経新聞
ニューヨーク駐在
編集委員
まつうら・はじめ/日本経済新聞記者、コンサルタントなどを経て現職。ペンシルベニア大ウォートン校、コロンビア大法科大学院、同ジャーナズム・スクールにて修士号を取得。



この記事は「ネットマネー2015年4月号」に掲載されたものです。