2020年東京オリンピック・パラリンピック
今から考えておきたいこと(後編)

 前編では、オリンピック憲章を鑑(かんが)みたり、前回の1964年東京オリンピックと比べながら、2020年東京大会がどうあるべきか、を語り合ってもらった。引き続き、東京2020組織委員会・戦略広報部長小林住彦氏とノンフィクションライター木村元彦氏の対談を収録。後編では、東京オリンピック・パラリンピックがその後のスポーツや社会にどのような影響があるか、また、メディアのあり方、原発をはじめとした情報開示についても切り込んだ。

―― お二人にもう少しお聞きしていいですか? 先ほど、2070年にアスリートたちが50年前のオリンピックが良かったと言ってくれることが一つの理想というお話が出ました。
 では、50年ではなくて、2020年が終わった直後、1年2年3年後、この東京オリンピック、パラリンピックをきっかけにして、日本がこういう社会になっていったらいい、あるいは逆に、こうなってはあまりにも残念だという、イメージはありますか? 

小林:大会はそこで終わるので、その後が大事だという意識は、私たちも常に持っています。
 例えばパラリンピックを考えてみると、障害者に対して自分の中でどう接していいかわからないという人も多いと思うのですが、大会が終わった後に、その心の中のバリアがちょっとでも取れて、町で目が見えない人や車いすの人がいたら自然にみんながサポートするとか、そういう世の中になるといいなと思います。
 僕の友人に、上原大祐というバンクーバー・パラリンピックのアイススレッジホッケーの銀メダリストがいるのですが、彼と飲みに行くと、いかに東京の街にバリアが多い......彼はそれを"バリアフル"と言うんですけど......ことに初めて気づくわけです。パラリンピックをきっかけに、少しでもそういう気づきが増えればいいなと思います。

―― 木村さんはどうですか? 2020年が終わった後の展望は。

木村:前の1964年のオリンピックは、もちろん素晴らしい大会だったんですけれども、やっぱりその後、バーンアウトしてしまった選手も結構多かったと聞いています。そこで、燃え尽きてしまうのではなく、セカンドキャリアもサポートしていってほしい。
 そして、さっきの話に少し立ち戻りますけど、五輪憲章をもう一度、自分たちで唱えることによって、日本の社会そのものが、また立ち位置を見直すという、そういう大会になってくれたらいいと思うんです。
 パラリンピックもありますけど、在特会などの今の排外主義者、レイシストのグループは、在日特権、被爆者特権という、ありもしない特権をフレームアップして差別運動を煽動してきました。今度は、障がい者特権とか言い出すグループが出てくるのではないか、と危惧しています。
 今の日本は、五輪憲章の真逆に位置する不寛容なヘイトとレイシズムが蔓延してきている。それを「オリンピックをやる国として、こんな差別煽動を許していいのか」と一つの歯止めとして機能させるのは正しいと思いますが、ただ、これは五輪がないと自浄できないというのでは、すごく情けないことでもある。

小林:社会にはさまざまな課題がある中で、オリンピック・パラリンピックという大きな目標をみんなで共有できたことは大きい。これをきっかけにして、いろんな立場の人たちが協力して課題に取り組むチャンスだと思います。

木村:もう一つ、先日も東京電力はメルトスルーした福島原発の放射能汚染水が海に流出していたことを、10ヶ月も隠蔽していたことが報じられました。五輪を行なう国として、速やかに情報を開示していくべきだし、「こういう問題があります」ということを誠実に出していかないと世界中から信頼を失う。

小林:福島の状況は、IOCも気にしている問題です。私たちも、そこには透明性が大切でだと考えています。オリンピックの準備状況をIOCに定期的に報告する場があるのですが、そこでも福島の状況を報告してきています。

木村:義務化されているわけですか。

小林:義務というより、課題の一つとしてしっかり共有しているわけです。この問題はいろいろな省庁をまたいで取り組んでいるので、内閣官房オリパラ室に情報を集約していただき、IOCに最新状況をレポートするということをやってきています。

木村:招致の段階で安倍首相が「コントロールされている」と発言しましたが、現在の原発の状況は、先ほど言った通りまったくそうではない。そのような状況だと、IOCや諸外国から信頼を失うことになるのは明らかで。組織委員会からも正しく発信していただきたい。

小林:私たちも、今ある状況を正確に把握して、きちんと伝えていくことが大切だと認識しています。

木村:東京オリンピック・パラリンピックは日本をアピールする素晴らしい機会でもあるが、逆に日本という国の信頼を失墜させる可能性も出てくる。原発の対応、そして情報発信、すごく大事だと思います
 あとは、"フェアな競争"というものを改めて認識して徹底する。スペインサッカーの八百長問題が話題になりましたが、これはサッカーが、すでに大きなマーケットになってしまったことで起きた問題です。スペインの1部リーグと2部リーグの間には、20億円ぐらいの格差が出てきている。そうすると「もう2部に降格するぐらいなら、これは投資だ」という思考から、アンフェアな試合の仕組みに動いてしまったわけです。

小林:そうですね。フェアネスとかクリーンネスというのも、オリンピックですごく大事だというのは、私もIOCと向き合っていて感じます。
 例えば、ドーピングに対する考え方は、みなさんが考えている以上に厳しいです。日本の誇るべきは、ドーピングで違反した人がオリンピックでまだ誰もいないこと。ここは海外から大いにリスペクトされるところで。ドーピングを犯す背景には、勝つためには手段を選ばないという考え方があります。でも日本には、ずるいことをしてまで勝ちたくない、勝つべきではない、という価値観があって、そこがオリンピックの精神とすごく通じ合うところなんだと思います。そういう、クリーンさを尊重する日本の価値観はどんどん世界にアピールしたい。

木村:そうですね。

小林:ドーピングに対しては、悪い人を見つけるために大金をかけるのか、という意見もあったらしいんですけど、そうじゃなくて、大多数のクリーンなアスリートを守るための投資であると。クリーンな大多数のアスリートを守るための投資であれば、たとえ費用がかかってもやるべきなんだと。このことは、昨年発表された「オリンピックアジェンダ2020」にも明記されています。
 「オリンピックアジェンダ2020」には、他にも、上位者がドーピング違反で失格になり、繰り上げでメダルを獲得した選手にも本番同様の栄誉が与えられるよう、ちゃんと正式な表彰式を行なおうということも書かれています。

―― 最後に小林さんの立場から、オリンピックの伝え方に関して、われわれメディアにリクエストはありますか。

小林:メディアの方々も考えていらっしゃるところだと思いますけど......。競技面でいえば、その競技の楽しさとか、選手のすごさというものをストレートに伝えていただきたいと思います。ある程度の知識がないと観戦を楽しめないと思うので、特にマイナー競技やパラリンピック競技は、いろいろなところで競技の楽しさを紹介したいです。そうして、その人その人が「僕はこの競技が好き」と自分が肩入れする競技が見つかるといいなと。

木村:知識をつけて、成熟してくると、ナショナリズムの衣を脱いで「日本対ユーゴだけど、俺はやっぱりユーゴのサッカーのほうが好きだ」といった見方が出てきたら、僕は面白いと思うんです。もちろん、個々の嗜好にもゆだねますけど、スポーツの見方というところで。

小林:あと、日本の誇るべき部分というのもいっぱいあると思うので、そこを伸ばすことも、ぜひ考えていきたいなと。ブラインドサッカー世界選手権の決勝に行った時、閉会式で、サポーターグループが出場したすべての国のフラッグを出して、大声援しているのを見ました。ブラインドの選手なので、フラッグは見えていないけど、その熱意は確実に伝わったと思います。
 あれって日本の素晴らしいサポーター文化じゃないでしょうか。自分のチームを応援するけど、相手も応援するというか。エールの交換に通じる。おそらくイリーナさんとか、オシムさんも、チャスラフスカさんも、64年の東京で、ストレートに応援されていると感じたと思うんです。

木村:2002年W杯で、日本代表が(決勝トーナメント1回戦で)トルコに負けるんですが、ギュネシュという、あの時のトルコ代表監督にインタビューしたら、「試合が終わった瞬間ものすごく感動した」と言うんです。
 なぜなら、拍手をしてくれたと。ホスト国が負けたにもかかわらず、私たちに向かって拍手が起こって、これは信じられないくらい心が震えるほどの感動だったと言うんです。

小林:それはすごくいい話だと思うんですよね。

―― そういう日本が誇るべきところが確実にあって、それを2020年で再確認を日本人ができたら。

小林:そうですね。それがまた世界にフィードバックできればいいなと思うんです。日本の人たちは、そういうスポーツの見方をするのか、これはいいなと感じて、自分たちも国に戻って、エールの交換みたいなことをやるようになっていったら、とても素晴らしいと思います。

―― お二人ともありがとうございました。また、折を見て、お話をうかがいたいと思います。


 対談は盛り上がり、予定の時間を大幅に超えた。スポルティーバでは、2020東京オリンピック・パラリンピックに関して、今後も競技面だけでなく、運営面や社会への影響などにも目を配っていく。

スポルティーバ編集部●文 text by Sportiva