『刑務所改革 社会的コストの視点から』沢登文治/集英社

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刑務所が満員になったら、どうなると思いますか?数年前まで日本では実際に、「定員オーバー」状態が続いていた。2段ベッドを駆使したり、6人部屋に8人入れたりして対処していました。もちろん、すごい問題が起こった。

したがって日本でも急速に「改革」が必要になったんですが、「一般の人」が無関心になりがちなテーマなのであまり知られていない。今回紹介する『刑務所改革 社会的コストの視点から』という本は、ドキュメンタリー特集を見るように、さくっと読んで理解できて素晴らしかったです。

まず刑務所の「改革前」を知るために、本書では名古屋刑務所で起こった2つの事件を解説しています。

1つめは2001年に起きた「放水事件」(たびたび糞便を壁などに塗る行為を繰り返していた囚人をきれいにするために、多忙な刑務官が消化用ホースを日常的に使うようになり、その水圧で内臓が裂傷して囚人が亡くなった事件)。2つめは翌年の「革手錠事件」(ズボンのベルトと手錠が一体化したような器具によって体を締め付けられた囚人が亡くなった事件)。

どちらも、目をそむけたくなるような「刑務所のやばさ」を知るのにとても参考になる事件だ。「全てを奪われた囚人が反抗するとき、残飯や糞便やちり紙で監視カメラなどを埋めたりする」いう部分だけでも、囚人を人間的に扱いつつ収容し管理することの難しさが分かる。

とにかくこの事件で、「特定の囚人や刑務官に問題があるのではなく、刑務所をとりまく環境が非常に悪化している」ということが明るみに出た。「過剰収容」は確実に囚人にとってストレスになるし、刑務官は非常に過酷な業務に忙殺されることになる。

そして始まることになった「刑務所改革」について、本書ではさまざまな観点から書いています。著者は法学を専門とする南山大学教授の沢登文治さん。学者として、また法務省「刑事施設視察委員会」のメンバーとして取材したことをまとめています。

たとえば「収容率を減らす」のも環境改善だけではなく、「同じ暴力団の人同士を別室に収容する」とか「刑務官が理解できない外国語を使える人同士が共謀できないように同遠ざける」などの工夫をするためにも必要だったり、「考えないといけないことが多いな…」と、読んでいてたびたび思わされる。

PFI刑務所(2007年から全国各地に開所されている、民間企業を活用した刑務所)や、塀やカギのない日本唯一の刑務所「新来島どっく」についてなど、刑務所関係の色んな動きもフォロー。収容率200%以上のカリフォルニア州でアーノルド・シュワルツェネッガー知事がおこなった対策など、海外事情もおさえられている。

そもそも、なぜ刑務所がいっぱいになるかというと、法律が変わって今までは懲役にならなかった人が懲役になる「厳罰化」をおこなって、その上、懲役を長くするような法改正がおこなわれてきたから。世間が「犯罪者を戒める・罰する・閉じ込めておく」という部分ばかりに関心を向けてきた結果かもしれない。

その一方で、刑務所の中はどうだったかと言えば、2006年に法改正されるまで「監獄法」という、1908年(明治41年!)に作られた法律で運営されていた。当然現代社会に沿った内容ではなかったので、何かあるたびに仕方なく大臣や刑務所責任者が細かいルールを通達などで決めていったわけです。

囚人にとっては、こんな恐ろしいことは無い。私語厳禁で一日の大半を社会から隔離されて過ごし、釈放後に役立つとは思えない作業をして、何か問題を起こせば刑務所側の都合で作られたルールで処罰される。こういった「収容」「隔離」「人間性の破壊」を見直して、刑務所が「更生」を第一に考えた施設になろうとしている。2006年の法改正をはじめとして、全国でダイナミックな動きが起こっている刑務所。それらを知る入門にも適した1冊です。

『刑務所改革 社会的コストの視点から』沢登文治著。集英社新書より。(香山哲)