村上春樹のイチオシ映画『FRANK』。才能がない切なさと“8割方ダメ”な音楽
 村上春樹が2014年のベスト映画のひとつに挙げた『FRANK‐フランク‐』(※1)。DVD版が3月15日にリリースされました。

「ソロンフォルブス」というバンドのキーボード奏者が入水自殺をこころみる。そこに出くわした郊外暮らしのジョンという青年が代役になるところから物語は始まります。バンドのリーダーは絶対に被り物をとらないフランク。彼とともに一癖も二癖もあるメンバー達がアルバム制作のため山奥で合宿をするのですが、そこからバンドの運命が急展開していく……。

⇒【YouTube】映画『FRANK‐フランク‐』予告編 http://youtu.be/_0D_n9BHTc4

◆安っぽい感動は期待しないように

 本作は音楽映画が陥りがちな安っぽいカタルシスを排除しています。

 フランクはカリスマ性と才気を持ち合わせているように描かれますが、それは他のメンバーにあまりにも見込みがないから際立つ程度のもの。だけど才能がないメンバーにも見当違いの情熱だけはある。その不幸なエネルギーが救いのない結末へと突き動かしていくのですから皮肉です。

 映画の中で登場人物が成長するのではなく、むしろ身ぐるみはがされていく。はがされていくことで彼らの内面が強くなるわけでもなく、崩壊の一途をたどるのみ。不釣合いな計画と何一つ達成できない無能が『FRANK』の骨格を成しているのです。

 ゆえにラストシーンはどことなくカフカを思い起こさせるものでした。ネタバレになるので詳細は割愛するとして、清潔で明るい望みがないからこそ心揺さぶる瞬間を見事に切り取っている。

<救済は、生への褒賞ではなくて、人間の―――カフカの言葉を借りれば、「自分の額が出っぱり過ぎていて……道が」見えなくなっている人間の―――最後の逃げ道なのだ。>
(『フランツ・カフカ』ヴァルター・ベンヤミン著、野村修編訳)

◆8割ダメで2割光る音楽を作った玄人芸

 そんな本作の音楽を作曲したのがスティーヴン・レニックス。成功しないミュージシャンのお話ですから“良い曲”ではダメなのです。同時に8割方カスでも、残った2割に可能性を勘違いしてしまう程度でないと映画に説得力を持たせられない。この微妙な配分に、レニックスの玄人芸が光っています。

 音楽に詳しくない人が聴いてもどこかおかしなことをやっているのが分かり、「こんなやつ学生時代にいたな」と共感できるような記号が曲のそこかしこに仕掛けられている。音階から外れていくメロディラインだったり、唐突な不協和音やノイズだったり、“意外な”コードがドヤ顔で使われていたりと。

 さらにレニックスの技は、曲の基礎を脆くすることで、大成しないアマチュア感を醸し出しています。詩とメロディの調和の弱さ、無駄なディミニッシュ、セブンス、ナインスコードなどなど。

 作曲にあたって参考にしたのは80年代後半のアートパンクだとのこと。その上でアヴァンギャルドにならない程度にメインストリームから外れた音楽を作ることが必要だったのです。(※2)

 この冷静に作られた“8割方マズい”音楽がストーリーや登場人物に対する批評になっている点も映画『FRANK』の価値を高めています。音楽への無条件の信頼や愛に対して、疑問を投げかけているようにも思えるからです。いまだに青春とロックがセットになっている国では、ウケない作品かもしれませんが。

※1:村上春樹とファンの交流サイト「村上さんのところ」での発言
※2:「The story behind the bizarre songs Michael Fassbender sings in FRANK」LA Weekly 2014年8月20日配信 より

『FRANK -フランク-』
監督:レニー・アブラハムソン 脚本:ピーター・ストローン
出演:マイケル・ファスベンダー、ドーナル・グリーソン、マギー・ギレンホール他
2014年、イギリス・アイルランド合作

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>