史上最強最速の36歳である。

 グランプリ生活20年目を迎えるバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)が、2015年開幕戦のカタールGPで優勝を飾った。しかも、その勝ちっぷりが、20代の全盛期に劣らない圧巻の走りだった。

 予選のタイムアタックでは満足のいくラップを刻めずに、三列目8番グリッドという低位置を強いられたものの、日曜午後9時に全22周回で争われた決勝レースでは、序盤で着々とトップグループに追いつくと、ラスト数周はアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)を相手に真っ向勝負のバトルを繰り広げた。

 最終ラップは、トップスピードで優るドゥカティのドヴィツィオーゾがメインストレートの圧倒的な伸びを利して、1コーナーへわずかに早く突っこんでいった。しかし、立ち上がりで微妙にはらんでしまったところをロッシが制し、前を守りきった。以後のコーナーでも、食らいつくドヴィツィオーゾを抑えきって最終コーナーを先に立ち上がり、0.174秒早くチェッカーフラッグを受けた。

「自分自身のレース人生で、間違いなくベストレースのひとつ」と振り返るロッシは、「正直なところ、ラストラップの展開は、何度か転びそうになったことくらいしか憶えていないんだ」と話すほどで、これぞまさにオートバイレースの醍醐味、というほど白熱し、緊迫した攻防だった。

「ドゥカティ時代のカピロッシと戦ったムジェロ(イタリアGP:2003年)やセパン(マレーシアGP:2006年)、モンメロでのホルヘとの戦い(カタルーニャGP:2009年)に匹敵するバトルだったよ。全部、昔の話だけどね」

 レースが自身の優勝で終わったことで、笑って振り返ることもできたが、土曜の予選を終えた段階では、最終コーナー立ち上がりのグリップ不足とそれが原因でストレートスピードが伸びないことを不安材料として挙げていた。

「リアのグリップに苦労していて、少し良くなると別の問題が出るんだ。でも、今日から明日にかけて皆セッティングを変えてくるし、自分たちもそうだから、明日を待ちたい。去年は二台のホンダと二台のヤマハの勝負だったけど、今年はドゥカティも強そうだね」

 日曜の決勝を見据えたセッティング変更は見事に功を奏し、スリリングなバトルを制したロッシは、20年目のシーズン開幕戦で最高峰クラス83勝目を達成した。

「ドビ(ドヴィツィオーゾ)は常に自分よりも速かったから、昨日までの段階ではドゥカティと戦えるかどうかよくわからなかった。でも、ドゥカティに長所があるように、ヤマハにも別の長所がある。ドビと僕は、それぞれ別の切り札を持って戦っているようなもの。最終的にバイクがとてもいい状態で、よく走ってくれた」

 ストレートでのトップスピード不足というヤマハにとって不利な材料も「他の長所がうまく埋め合わせてくれた」とジョーク交じりで話す。

「有利な場所でリカバーできていたから、周回ごとになぜかドビに対して不利じゃなくなっていった。ドビの後ろにいると、引っぱってくれるからいいよね。単独だとあのスピードは出せない(笑)」

 一方、優勝候補最右翼と見なされていた2年連続チャンピオンのマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は、スタートに失敗。必死の追走で上位を狙ったものの5位でレースを終えた。

「最終的に5位だから、悪い結果じゃないよ。たくさんの選手をオーバーテイクして、3番手まで2.5秒に迫ることができたんだけど、ラスト3周では少しミスをして転びそうになった。だから、悔しかったけど『今日はここまで......』と気持ちを切り換えたんだ。でも、それでよかったと思うよ。2年前の僕なら、きっと熱くなりすぎて最終的に(転倒して)グラベルに転がっていただろうからね」

 次戦のアメリカズGPが行なわれるオースティンは、2年前にマルケスが史上最年少ポールポジションと史上最年少優勝記録を達成した場所。マルケスにとっては、得意中の得意といっていいコースだ。だが、ロッシが「今シーズンは6台の勝負になる」と語るとおり、ヤマハとドゥカティが強力なライバルとして立ちふさがることは、今回の開幕戦を見ても明らかだろう。

「フィーリングもいいし、モチベーションも高い。ちゃんと節制をしてトレーニングをしっかりすれば、40歳までトップで戦えると思う。この競技は陸上競技じゃないからね。集中力と、とくに高いモチベーションがあれば大丈夫さ」

 そう話す36歳のロッシは、強力なライバルに囲まれて、ここ数年でも最も充実した戦闘意欲を、見るからに高めている。

西村章●取材・文 text by Nishimura Akira