対中関係が新たな局面に突入

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「この頃、中国が尖閣問題に大騒ぎしないと思っていたら、日本を徹底して殲滅する別の手を着々と打っていた。それが中国主導のアジアインフラ投資銀行・AIIBですよ」

 こう嘆くのは某シンクタンク関係者だ。

 アジアインフラ投資銀行とは、中国が2013年から提唱、今年中にスタートする見込みで、資本金1000億ドル(約12兆円)規模を誇る。その目的はアジアにインフラを整備していくためのお金を貸す銀行だ。

年間100兆円が動く巨大マーケット

 この手のものとしては、1966年に日本主導でアメリカのバックアップでスタートさせたアジア開発銀行・ADBがある。歴代総裁は日本の財務省(旧大蔵省)出身者が務め、世界60カ国前後が参加している。

「これに対抗して中国が主導するのがアジアインフラ投資銀行。問題は、ADBが環境や貸金のハードルを高くし、乱開発を抑制しようとしている点。しかし中国主導のAIIBは、その線引きが不透明。借りる側は甘い基準で楽に借りられるのでADBよりAIIBを多く利用する。そして中国の巧みなところは、AIIBに参加していないとAIIB資金利用のインフラ工事には入札できないとしたことです」(国交省関係者)

 世界で今後、最も経済成長するのはアジア中東、そしてアフリカといわれている。AIIBはアジアのインフラ整備には年間100兆円が動くと見ていて、そのほぼ全額をAIIBが主導すると皮算用しているのだ。

日本は世界経済の蚊帳の外に

 では、このAIIBがなぜ「日本殲滅」の動きなのか。

「ADBを主導する日本がADBの向こうを張るAIIBには参加しにくい。そして何よりもアメリカがAIIBには反対していた。つまりアメリカ主導の世界銀行、ADBに対抗するAIIB参加にはアメリカは反対。だから日本は参加しないと中国は読んでいた。そして一方では中国は日米を世界経済の蚊帳の外に置き、世界経済は中国がけん引するのだという壮大な野望を持っていたのです」(経産省関係者)

 そこで中国が何としても加盟させたかったのは英国、ドイツ、フランス。裏で、

「参加すれば、アジアのインフラ整備でカネがザクザク入りますよ」

 という甘言を囁き、とうとう加盟させてしまった。そのためオーストラリア、ロシア、ブラジルなども雪崩をうって加盟。アジアでもアメリカが加盟しないよう説得していた韓国も、そして中国と海洋問題で対立しているフィリピン、ベトナム、台湾も参加だというから驚きだ。

中国は尖閣問題で大騒ぎしなくても、これが成功すれば日本をアジアのインフラ整備から外すことができます。しかし一方ではこの投資銀行が放漫運営で数年後に行き詰まる懸念もあります」(経営コンサルタント)

 AIIBは日米と中国、どちらにとって毒まんじゅうとなるのか、今後に大注目だ。

田村建雄(たむらたてお)1950年生まれ。地方新聞記者から週刊誌記者に。現在は月刊誌、夕刊紙などに政治、事件記事など寄稿。著書に『ドキュメント外国人犯罪』『中国人毒婦の告白』など多数。