後半は低い位置でブロックを構えた守備を指示し、速攻からのゴールラッシュを引き出した。ハリルホジッチ監督の采配が見事に的中したと言える。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 80分、全員が前がかりに出て3点目を奪われたウズベキスタンは、9か月前の日本代表と瓜二つだったのかもしれない。
 
 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、敢えてブラジル・ワールドカップのコロンビア戦を例に指摘した。
「みなさんにとっては見直すのも嫌な試合なのかもしれない。しかしあの時の日本代表は信じられないほどナイーブで、相手のペナルティボックスに全員が入り込み、カウンターへの対処がまったくなされていなかった」
 
 監督会見は短いセンテンスで刻み、言葉を重ねるように訳されていくので、正確には聞き取れなかったが、おそらくそういうことを示唆したのだと思う。
 
 試合は常に動いている。だから絶えず修正点を探し、ピッチ上の選手たちに指示を出していく。それが監督の仕事だと言い切る。
 
「前半の守備では、1列目と2列目の間隔が空いていた。一方後半はブロックを少し下げた。これは戦術であり、罠だ。相手に攻めさせてスペースを開け、ボールを奪ったら速く攻める。これで4ゴールを挙げることができた」
 
 シナリオを書き換える大前提として、開始6分に生まれた青山敏弘の美しい先制ゴールがある。大陸内のライバルになるウズベキスタンは、4日前に対戦したチュニジア以上にフィジカルに優れ、日本にも自信を持つ危険な相手だった。前半は早々に失点しながら再三ボックス内に侵入し、日本とほぼ互角の7本のシュートを放っている(日本は8本)。前回のワールドカップ3次予選では、日本のホームゲーム(豊田)で勝利し、グループ首位通過を果たした。後半は前がかりに出る条件が揃っていた。
 
 ところが日本代表を率いる智将は、そこを逆手に取った。54分には右サイドに位置した青山から香川真司を経由して逆サイドのオープンスペースへ走る乾貴士へと流れるように展開。乾の仕掛けは相手DFに引っかかるが、フォローした太田宏介がフリーの岡崎慎司に柔らかいクロスを送り、スピーディで分厚い攻撃を完結させた。
 
 そして80分には、ウズベキスタン側がバイタルエリアで放ったシュートをブロックした瞬間に、日本選手3人が敵陣にフリーで飛び出せる状況が訪れ、最先端の柴崎岳がループで3点目を奪う。罠にはまったウズベキスタンは、まったくカウンターへの準備ができていなかった。

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 わずか2試合で新監督は、確実に改革を促し、奥深い能力の一端を示した。「球際に厳しく、縦に速くという世界基準」(同監督)を徹底しながら、ふたりのGKを除く全員をピッチ上で観察し、同時に個々の選手に対する解釈を提示した。
 
 例えば前任ふたりは、厳密に基準に照らせば条件に合致しない宇佐美貴史の招集を見送って来たが、ハリルホジッチ監督は2試合ともに後半途中からジョーカーとして使った。もちろん宇佐美の攻撃的な資質は誰もが知っている。
 
 だが現状では互いにフルパワーで激突するスタメンではなく、ジョーカーという位置づけなのだろう。確かに守備に貢献しようという意識は芽生えている。しかしまだまだ寄せは甘いし、守備から攻撃への切り替え時に出遅れもある。
 
 またハビエル・アギーレ前監督同様に、柴崎への適性評価もボランチではなく攻撃的MFであり、スタメン定着のためには、遠藤保仁ではなく香川を超えていく必要があるのかもしれない。逆に今野泰幸は読みと寄せの鋭さと厳しさで、青山は縦への展開の判断の速さと的確さで、指揮官の描くボランチ像を具現したとも言える。
 
 さらに後半からは、本来CBの水本裕貴を、ボランチとして相手のエース、サルドル・ラシドフのマークにつけた。
 
 自分の眼で確かめ、試したい選手を呼び、明確な方向性を提示した上でチャンスを与え競わせた。タクトは確信に満ちて、仕事ぶりも水際立っている。結果論ではあるが、災いは福に転じた可能性は高い。
 
文:加部 究(スポーツライター)