ベトナム戦同様に引いた相手の攻略に苦心しながらも前半終了間際に先制ゴール。久保(背番号10)のゴールはチームに精神的な落ち着きを与えた。 写真:佐藤明(サッカーダイジェスト写真部)

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 激しいスコールのため、日本対マレーシア戦の前に行なわれていたベトナム対マカオ戦は一時中断。その影響で、日本はキックオフこそ予定通りの時間で迎えたものの、選手たちは十分なアップができないまま、今予選の最終戦に挑むことになった。

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 当然のように、ピッチの状態は劣悪だった。切り替えしや方向転換をする際に足を取られる選手が目に付く。とはいえ、マレーシアは第2戦のベトナム同様、5バックで引き気味に守りを固めてきたこともあり、ポゼッションで優位に立った日本が主導権を握る展開となった。
 
 6分にさっそく鈴木武蔵が相手GKを慌てさせる一撃を放ち、16分には安在和樹の強烈なミドル、20分にはポストを叩く野津田岳人のFK、32分には遠藤航の遠目からの惜しいシュートなど、日本は次々と決定機を築いていく。
 
 しかし、そのどれも決めることができない。もどかしい時間が流れるなか、この日はトップ下で先発した久保裕也も、なかなか決定的な仕事ができずにいた。
 
 本人が「試合中はあまり気にしないようにしていた」と語るように、痛めている右足の影響はそこまで感じさせなかったが、圧倒的な違いを見せられていたわけでもなかった。
 
 周囲との連係はいくらか改善されてはいたものの、それでもまだ欲しいタイミングでパスが受けられなかったり、裏に抜け出す動きが味方とかぶったりと、周囲との呼吸が合わない場面は少なくなかった。
 
 相手のタイトなマークにボールを失うこともあった。シュートの数も少なかった。相手にそこまでの脅威を与えられた存在だったかといえば、パンチ力に欠けた部分は否めない。
 
 それでも、結果を出してみせた。「決められて良かったです」と淡々と振り返った、この試合唯一のゴールが生まれたのは41分。左サイドの安在からのクロスに反応した久保が、「感覚で狙って打った」というヘディングシュートでネットを揺らした。
 
「きっちりと良いボールを上げれば決めてくれると思ったので。ボールも思い通りのところに行ったので良かった」と安在が胸を撫で下ろせば、「良いボールだったので合わせるだけでした」と久保も仲間のアシストを称えた。
 
 ただ極論すれば、久保が輝きを放ったのはこのプレーだけではなかっただろうか。55分の、遠藤の縦パスから久保→鈴木→久保とテンポ良くつないで中央から崩しにかかる場面は可能性を感じさせたが、そうしたコンビネーションは断続的で、チームのストロングポイントとはまだまだ言えない。
 
 もっとも、久保のトップ下の適性に手倉森誠監督は手応えを口にする。
 
「裕也もトップ下だと、良いところで収めてくれるから」
 
 指揮官は、久保の柔軟な技術を高く評価する。鈴木も「降りてきて、足もとで受けるのが上手い。そこは自分と違うところ」と認めている。そうした“上手さ”を“怖さ”に変えられるようになれれば、手倉森ジャパンにおける序列はさらに高まっていくはずだ。
 
 東南アジア特有の気候のなかでプレーできたことについて、「自分のためになったかなと思います」と語った久保。来年1月のアジア最終予選に向けては「決定力を上げたり、自分で崩せるようになったり、周りを使いながら崩せるようになりたい」と抱負を口にする。
 
 3戦全勝で1次予選を突破したことに関しては「良かった」としながらも、マレーシア戦でチームを最終予選へと導く貴重な決勝弾を決めても「物足りない」と語る久保の視線は先に向いている。
 
 ワンチャンスを確実にモノにする勝負強さを示すことができた。出場試合数が限定されていた今予選では特大のインパクトは残せなかったかもしれないが(編集部・注/所属クラブとの取り決めで、3試合中、2試合だけに出場)、万全のコンディションではなかったにせよ、秘めたるポテンシャルの一端を垣間見せたのは事実だ。
 
 リオ行きの切符を掴み取るためには、この男のさらなる覚醒が待ち望まれる。
 
取材・文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)