盛りあげよう!東京パラリンピック2020(18)

【大分中村病院理事長・中村太郎インタビューVol.3 】

 中村太郎氏の父であり、パラリンピックの父と呼ばれた中村裕氏(ゆたか/1927年〜1984年)が、パラスポーツを根付かせた地である大分県。その大分県では、現在も毎年大分国際車いすマラソン大会が開催されるなど、変わらずパラスポーツが身近にある。今回はドクターとしての目線ではなく、大分県の地域性や、生活している中で感じるパラスポーツへの理解度について語ってもらった。

伊藤数子(以下、伊藤):前回最後に少しお聞きしたのですが、大分県のあるランニングロードでは、車いすのレーサーの方も練習されているんですよね?

中村太郎(以下、中村):そうなんです。全然違和感なく、毎日数名の車椅子の選手が練習しています。

伊藤:それは昔からそうだったのですか?

中村:元々そういう街だったわけでないと思います。たぶん、『大分車いすマラソン』が今年で35回目を迎えて、それだけ毎年街中でやっていると、車椅子の選手に対する違和感がなくなっているのだと思います。

伊藤:長い月日をかけて変わってきたんですね。大分が35年間積み重ねてきたものをなんとか5年で、東京を舞台に実現できたらいいなと思うのですが。

中村:僕はロンドンパラリンピックも行ったんですけど、東京のほうがバリアフリーの点ではすごく進んでいると思います。ロンドンはパラリンピックが行なわれたのに、地下鉄の駅で、車椅子の方が使えるエレベーターは2駅、3駅に1個ぐらいしかありませんでした。それに加えてロンドンは古い街なので、道路はデコボコでした。

伊藤:環境的には東京のほうが進んでいるんですね。

中村:そうですね。ただ、障がいのある人たちを見る目というのが違うのかなと感じます。僕もイギリスが実際はどうで、日本がこうというのは言い切れませんが、もしかしたら日本は障がいのある人に対する接し方という点で足りない部分があるのかもしれません。

伊藤:それは、接する側の"心"ということですね。

中村:今後、スタジアムなど様々な施設を作っていく上で、おそらくスロープやトイレなど、日本はそんなに悪くないと思うんです。むしろ障がい者に対する心の持ち方とか、パラスポーツに対する考え方とか、そちらの方がどうなのかなと。もし残り5年間で取り組んでいくのであれば、そういったところでしょう。

伊藤:大分県の人たちは、30年以上車いすマラソンを見ることで、当たり前になってきたのでしょうね。

中村:大分も最初は、ボランティアの人手が足りなかったということがあったはずですが、最近はボランティアの希望者が多過ぎて、なかなか入れないというぐらいになりました。観客についても大分の車いすマラソンは、沿道にずっと一般の観客がいるんです。

伊藤:ほかのパラスポーツだと、観客席に関係者が多いですからね。

中村:だから、パラスポーツの中でこれだけ関係者じゃない人たちが見に来たり、応援したりしているというのは珍しいと思います。

伊藤:私も大分国際車いすマラソンは5年くらい前から観戦に来ていまして、毎回違う場所から見ようと思って移動すると、どこに行っても観客の人がちゃんといるんですよ。本当に沿道にずっと人がいるんですよね。

中村:毎年恒例の秋の風物詩という感じでしょうか。あともうひとつ、大分には別府大分毎日マラソンというのがあって、同じくらい応援の人が来るんです。だから当初は、車いすマラソンと毎日マラソンとを一緒にしたかったんですけど、当時は日本陸上連盟から「マラソンは2本の脚で走るものだから、車いすマラソンはマラソンじゃない」と言われてしまって。やむなく単独開催になったんですが、幸いにも車いすマラソンのコースが大分市内で、人通りの多い住宅地を走るコースになったので、応援に行きやすいという面もあると思います。

伊藤:日常的に、車椅子の人や障がいのある人たちがもっと街に出てくるようになればいいんですよね。中村先生がおっしゃったように、東京の街の整備はずいぶん進んでいるのだから、あとは私たちの方がそういう人のことを特別な目で見るとか、そういうのがなくなればいいですよね。

中村:そうかもしれないですね。大分市の隣の別府市には、太陽の家というところがあるんですが、そこには、障がいのある方が住んでいて、普通に街で生活しているんですね。だから、別府は居酒屋でもレストランでも、新しく店を始めるときに、障害のある方もお客さんとして来るんだという発想があるので、必ず車いす用のトイレを作るんです。すべてではないかもしれないけど、意識はしていると思います。ところが、その隣町の大分市はそういう発想がまだないんです。というか、実際にお客さんとして来ないので、そういう発想につながらないんだと思います。

伊藤:なるほど。要するに、福祉のためにトイレを用意するのではなくて、商売のチャンスを広げるためにやるという発想なんですね。あと5年で東京もそうなっていけばいいですね。スタジアムや体育館など、2020年の会場を建て替えるときに車椅子用の座席や障がい者のための席が大幅に増えると思います。要は、ちゃんとチケットを買ってくれるお客さんとしての、障がい者を意識した施設を作っていくことがとても大事ですね。とてもいいヒントになりました。

 ところで先生は、2020年に向けて何か企画していることはあるんですか?

(つづく)

スポルティーバ●文 text by Sportiva