■3月特集 アスリートの春 〜卒業、そして新天地へ〜(9)

 オーストリアへ渡ってから3ヵ月弱。南野拓実は新天地ザルツブルクで充実した日々を送っている。

加入から1ヵ月で監督からの信頼を勝ち取り、ウィンターブレイク明けの初戦で先発に名を連ねていきなり公式戦デビュー。ここまで、ケガでメンバーから外れた1試合を除いて、リーグ戦6試合に出場。うち5試合は先発出場を果たしている。

 3月4日のアドミラ・バッカー戦では待望の公式戦初ゴールをマーク。結局その試合で2ゴール1アシストを記録している。その後は得点に絡めていないが、チームには順調に馴染んでおり、チームにおける存在感も高まっている。

 南野にとっては初めてとなる海外クラブでのプレイ。ここまでの3ヵ月は「初めての経験ばかりで、すごく新鮮」だったと言う。

 チーム内の競争は激しく、練習から良いプレイをしてアピールしていかなければポジションを奪うことはできない。チームメイトは南野がチームに馴染めるよう気に掛けてくれるが、ピッチに入れば貪欲だ。どんどん自分を出していかなければ周りに埋もれてしまう。特に外国人である南野には、より一層自らを出していくことが求められた。南野にとって海外という新たな環境に挑戦する意味は、そんな厳しさを体験することにあった。良い意味でピリピリして気の抜けない日々を求めてやって来たのだ。

 ヨーロッパでプレイすることを目標としていた南野が新天地にザルツブルクを選んだのは、そのアグレッシブなサッカーに惹かれたからだった。前線から激しくプレスをかけ、ボールを奪ったら素早く攻めるサッカー。セレッソ大阪の下部組織で育った南野は、ユース時代にそんなアグレッシブなサッカーをしていたという。それがザルツブルクを選んだ一番の理由だった。

 先日、ザルツブルクにアグレッシブなサッカーを持ちこんだスポーツディレクターのラングニック氏が今季限りでザルツブルクを離れることが発表された。だが後任はクラブ内部から選出されており、「クラブの哲学を継続していく」と、劇的な変化はなさそうだ。
 
 海外でプレイするということは、様々な"違い"と戦うことを意味する。

 オーストリアで展開されるサッカーは日本のサッカーとは異なる。日本ならある程度、共有されている考えは、こちらでは通用しない。このタイミングでパスが出るだろうという場面でパスが出てくるとは限らない。何より、「自分の思っていることをどんどん言っていかなければ、チームメイトに自分を理解してもらうことはできない」ということを南野は強く感じたと言う。まだ言葉の問題もあり、チームメイトに自分の言葉で直接何かを要求することはできないが、通訳を通して積極的にコミュニケーションを取っていくことを意識している。

 オーストリアと日本ではピッチも違えば、気候も違う。生活環境だって異なる。例えばオーストリアリーグでは、ホームチームが個別に契約するメーカーのボールが試合球として使用されるため、週ごとに異なるボールに対応しなければならない。練習では次の試合で使用されるメーカーのボールが使われるが、これには最初、南野も驚いたという。

 いくらサッカーが上手くても、そんな"違い"に適応することができなければ、結果を残すことはできない。ザルツブルクは施設やスタッフのサポートが充実しており、「環境は整っているのでそれほど大きな差はない」と言う南野だが、適応力の重要性は強く感じている。「こっちの食事を食べられなければ体力はつかないし、体調なんて崩していられない」と語る。ここまでは新天地で順調に歩んでいるように見える南野だが、その裏ではそれを成し遂げるために地道な戦いを続けてきたのだ。

 3月の国際Aマッチデー。U−22日本代表に選出された南野は、五輪アジア1次予選を戦うためマレーシアに飛んだ。3月27日、初戦のマカオ戦では後半18分から出場、試合終了間際にゴールを決めている。今後は海外組として長距離移動や激しい気温差にも対応していかなければならなくなる。そんな厳しさは南野拓実をよりタフな選手へと育て上げていくことになるだろう。

山口裕平●文 text by Yamaguchi Yuhei