クルマがクールだった日を思い出させてくれる、小さな“BMW”

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13馬力、286ccの1959年型BMW「イセッタ300」。ボンネット部分がドアになったこの小型車は、クルマが楽しかったころを思い出させてくれる。と同時に、自動車を取り巻く状況の変化にも気付かせてくれる。

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ヨーロッパでは小型車は必需品だ。道路が狭くて燃料コストが高く、駐車スペースも限られている都市では、小型車は理想的なのだ。だからここでは、「スマート」や「ミニ」、そしてこの小さなヤツ、「BMWイセッタ」が活躍する。

20世紀半ば、ヨーロッパの石油不足を背景にオートバイ事業が衰退していくなかで、(当時、財政難であった)BMWはヒット商品を必要としていた。そこで彼らはイタリアの会社から「イセッタ」の権利を獲得し、1955年のフランクフルト自動車ショーでこのクルマをデビューさせた。

このクルマは、元々オートバイ(二輪単車)用に製造された12馬力、247cc、4ストロークエンジンを搭載している(のちに13馬力、297ccに排気量が拡大された)。エンジンは後輪駆動式で、報告されたところによると、時速50マイル(約80km/h)のトップスピードと、70マイル/ガロン(1リットルあたり約30km)という素晴らしい燃費を実現したという。実際にこのクルマはヒットし、BMWは1955〜62年までの間に16万台以上を生産した。楽しくてファンキーで、実用的。さらに、フロントがドアになっているという危うさ!

現在、BMWは巨大な馬力とともに優れた燃費を備えたクルマを生産している。さらに、そうしたクルマには、クラッシャブルゾーンやエアバッグをはじめとする安全構造が備わっている。結果的に、50年代の小型車たちは葬り去られてきた。 

小型車はクールで楽しいはずなのだが、大型車やトラックが標準であるアメリカでは販売されていない。また、小型車にとってターゲット市場である多くのミレニアル都市生活者は、自動車を所有しようとさえしていない(その代わりに、彼らは移動手段として公共交通機関や自転車、あるいは「Uber」を利用している)。小型車は大勢の人や大量のモノを運搬するためには実用的ではないし、いまや、セダンやSUVでさえ、燃費が非常によくなっている。約10年前にはトヨタ「プリウス」も登場した。

『ケリー・ブルー・ブック』(アメリカで“中古車売買のバイブル”として知られる刊行物)のアナリスト、カール・ブラウアーは次のように語る。「ヨーロッパで小型車を運転すると、お金を節約しようとしている賢い人としてみられるはずです。でも、米国においては小型車なんて乗り物じゃないと受け取られるのです」

「小型車を運転していると、よほど家計が苦しいか、あるいは地球を救おうと躍起になっている極端な考え方の持ち主だと思われてしまうのです」(ブラウアー氏)

安全性と燃費の向上は、確かに素晴らしい。しかし、現代の規制や空気力学上の物理学、あるいは疑わしいマーケティング調査によって、よく似た退屈なクルマが次々生産されている。イセッタそのものが復活するのを望んでいるわけではないが、かつてこのクルマが本当に素晴らしいこと──誰もが入手可能な価格で、もっとファンキーでクールな乗り物──を成し遂げたのは、記憶に残しておきたいのだ。

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