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○「壁ドン」「顎クイ」の流行

昨年の流行語大賞トップテンに入った「壁ドン」。……一応説明しますと、「壁ドン」とは男性が女性を壁際に追い詰めて手を壁にドンと突く行為とされています。漫画などではおなじみで、女子中高生などが使い出し、その後世間に広まりました。認知度がアップした原因はカップヌードルのCMじゃないかと私は思っています。

同じように「萌えるシチュエーション」として「顎クイ」も最近流行っています。女性の顎を男性が指先でクイとあげさせること……です。しかし、壁ドンであれ、顎クイであれ、犯罪になる可能性もあります。壁ドン、ただしイケメンか女性が好もしいと思っている男性に限る……という意見もありますが、どんなにイケメンでも女性が「怖い」「嫌だ」と感じたら、暴行罪、脅迫罪、セクハラなどに相当するそうです。

「女性に対する暴力は人権侵害である」(1993年、ウィーンでの世界人権会議)と決議されてから、女性への暴力撲滅は世界的なキャンペーンとなっています。近年、今までは「被害者が泣き寝入りする」とされたDV(夫婦間、パートナー間も)、セクハラ、パワハラ、マタハラなどの訴訟も、訴える女性側が勝訴する判例がどんどん出てきました。もう、今までのような「これぐらい許されるだろう」という甘えが許されない時代になってきています。

○前時代的な「男らしさ」はネタとして消費するしかない

壁ドンや顎クイなどが流行ると、必ず男性週刊誌から「草食男子にうんざりした女性たちは男性に男らしく迫られることを望んでいるのでは?」と意見を聞かれます。しかし、私はこう考えます。

いよいよ、前近代的な「男らしさ」というものが、あまりにも陳腐なものとなり、「ネタ」と化すしか生き残れる道がないのではないかと。なぜなら強引に迫ってくる男らしさとは、「上から目線」や「俺様目線」とセットになっているから。俺様目線は「相手がいやがっていることに気がつかない、俺様思想」でもあります。某村長のセクハラ事件が良い例でしょう。

「男らしい男に強引に迫ってもらいたい、でも……相手はものすごく限定されている!」が女性の本音。現実はカップヌードルのCMのように、電車でよろけたおじさんにドンされるぐらいが関の山。萌えるシチュエーションはあれど、萌えたい男はいない。この残酷な現実に女性たちは「壁ドン」や「顎クイ」で男らしさをネタとして消費するしかないのです。男性たちからも「男らしさ」を押し付けられることに悲鳴があがっている昨今です。男ですら「男らしさ」から離れたいのです。

○イケメンが消費される異色作『お兄ちゃん、ガチャ』

消費されるのは「男らしさ」だけではない。イケメンすら容赦されません。今クールの異色作、問題作は『お兄ちゃん、ガチャ』でした。友人が「おもしろい」というので見たら、まず世界観がきゃりーぱみゅぱみゅのMVのよう。背景もインテリアなどもポップでクールで、唐突に出てくるバレエ教室などなど、かなり不思議な世界観です。

「これはクールジャパンで輸出したい」と思ったのですが、話の方もなかなかくせ者です。小学生の女の子がガチャをやると理想のお兄ちゃんが出てくる。ガチャとはコインを入れると丸いカプセルに入ったグッズがでてくる自動販売機ですね。ガチャで出てきた丸いカプセルをバスタブに入れると、あら不思議、お兄ちゃんが実体化します。そして小学生の妹に気に入られないと、あわれ消去されてしまうのです。

主人公の小学生女子(SJ)は毎週お兄ちゃんをとっかえひっかえできるのですが、ヤンキー系、ネガティブ系、王子様系と毎週違うタイプのお兄ちゃん。お兄ちゃんの役はジャニーズJr.なので、イケメンウォッチャーなら、かなりのお得感です。先日の「ケンさん」風のニヒルで無口なイケメンは主人公の家族全員に高評化だったのですが、しゃべったとたん、声が妙に甲高い。容姿、性格、雰囲気、すべてがイケていたのに「声がイヤー」という妹の一言であっさり消去でした。

反発する人もいるでしょうが、脚本は野島伸司なので、決して子どもだましでは終わりません。週刊朝日のドラマ評では「どうかしている」「問題作」と評されていました。深夜ドラマらしい毒が甘いお菓子の中に潜んでいる。女子たちの無邪気な残酷さ、消費されるイケメンたちのはかなさ。イケメンですらあっさり消費されてしまうのですから、そうでない男性たちはいったいどうすればいいのか? そんな救いのなさが毒としてじわじわ効いてくる……そんなドラマです。

○女性たちが男性を残酷にジャッジする理由

なぜ小学生のうちから、こんなに女性たちは男性への残酷なジャッジを行えるのか? それは、子どもを持ったとたん、女性は自立できるだけのお金を稼げなくなる社会の仕組みにあります。まともに働く場所がなければ、男性に頼って生きていかなくてはいけない。他人に生殺与奪の権利を握られてしまう。これもある意味残酷なことでしょう。

だからこそ、無意識に「頼れない」「使えない」と判断された男性を回避する。それはそれはきっぱりと。何と言っても、生存と繁殖がかかっているのですから。子どもを持っても、当たり前に、そんなにつらくなく、ふつうに女性が働けるような社会がきて、男性も女性も一緒に子育てすることが当たり前になれば、女性たちのジャッジも優しくなるのではないでしょうか?

先日ある女子大生がこう言っていました。「就活中も彼にふりまわされる。働く場所を彼の就職や転勤に合わせたり、彼が留学するといえば、また悩んだり、イライラしていました……でも、自分がしっかり働こうと決めたら、逆に彼に優しくできるようになったんです」。大人な発言です。

こんな女性に対応する「新しい男らしさ」が必要なのですが、誰もが「新しい男らしさ」「男らしさ2.0」を見いだせない。そんな今、ガラパゴスな男らしさは、「ネタ」として人を楽しませるのが、安全な使い方ではと思うのです。

<著者プロフィール>白河桃子(しらかわとうこ)少子化ジャーナリスト、作家。相模女子大客員教授。経産省「女性が輝く社会のあり方委員会」委員。山田昌弘中央大学教授とともに、2008年度流行語大賞にノミネートされた「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著『婚活時代』(ディスカバー21)がある。婚活ブームのきっかけを作った。近著は、『「産む」と「働く」の教科書』(講談社)『格付けしあう女たち 女子カーストの実態』(ポプラ新書)、国立成育医療研究センター母性医療診療部不妊診療科医長の齊藤英和医師との共著で『妊活バイブル』(講談社)、『女子と就活――20代からの就・妊・婚講座』(中公新書ラクレ)、『専業主婦になりたい女たち』(ポプラ新書)。

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(白河桃子)