ハリルホジッチ監督は満を持して60分に香川と本田を同時投入。この交代を機に、流れが一気に日本に傾いた。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 半年間という失った時間の大きさを、改めて思い知らされた新監督のデビュー戦だった。
 
 どんな監督も新チームは自分の色に染めたい。前任のハビエル・アギーレは、札幌でのウルグアイ戦で実際に見たこともない選手たちを並べてみたが、ヴァイッド・ハリルホジッチは、直接足を運んだスタジアムで良好なパフォーマンスを見せた選手たちを中心に初陣をスタートした。自分の目に確信を持つ新監督だけに、今後はどこへ視察に行くかがメンバー編成に直截的な影響を及ぼす可能性もあり、候補選手たちは御前試合の度に聞き飽きた質問を繰り返されることになりそうだ。
 
 結果的に指揮官が「示した道」は、ミドルゾーンで厳しく追い込み、アグレッシブなボール奪取からの速い攻撃だった。最前線の川又堅碁は、CBが外へ展開するコースを切るだけだったが、そこからボールが離れた瞬間に人数を割いて奪い切る。スピードスターの武藤嘉紀や永井謙佑が期待通りに裏のスペースへ飛び出すシーンは少なかったが、前線の守備者としては最適であることを証明した。
 
 ただしさすがに即席のスタメンは、どうしても個々のイメージの誤差が出て、なかなかフィニッシュに至らない。そこで潰し合いに終始した前半を経て、いよいよハリルホジッチ監督は公言した通りの「勝利にこだわる姿勢」を見せていく。
 
 まず60分には2枚替えで香川真司と本田圭佑を送り出し、72分には岡崎慎司と宇佐美貴史、さらに終盤の6分間は内田篤人と今野泰幸もピッチに立たせる周到ぶりだった。
 
 最初の交代で明らかにバイタルエリア以降がテンポアップし、落ち着きと精度が生まれた。そしてピッチ上に岡崎が加わり均衡が破れるのだが、その瞬間に指揮官は両手を高々と突き上げ、いかにこのゴールを待ち望んでいたかを表現した。
 
 もっともチュニジア代表を率いるジョルジュ・レーケンス監督にとって、この結末はある程度想定できていたようだ。
「8時間の時差の影響から後半落ちるのは予想していた。我々は控えのメンバーを試していったが、日本は質の高い主力がベンチに控えていたからね」
 一方宣言通りに勝利を手にしたハリルホジッチ監督は快哉を叫ぶ。
「チュニジアはFIFAランク25位。日本のランクは、まだまだ低い。それでも質は見せたし、美しい組織プレーもあった。これらのアクションはすべてトレーニングしてきたものだ。もっと褒めてあげてほしい」
 
 しかし日本代表の歴史を振り返れば、まだワールドカップに到達していなかった加茂周監督時代でも、国内の親善試合ではさらに格上の強豪国を下している。ジーコ監督は国外でのテストマッチの機会を増やすように訴え、アウェーでの萎縮ぶりを嘆いたアルベルト・ザッケローニ監督でも、オランダ、ベルギー遠征では親善試合なら互角に渡り合えることを示している。それでもワールドカップ本大会での惨敗を見て来た日本のメディアやファンは、もはや指揮官の言葉を鵜呑みにするほどウブではない。
 
 経験豊富な新監督は熱弁した。
「私は世界のハイレベルなフットボールがどんなものなのかを知っている。私が示したのは“良い道”であると信じている。これから新しい日本代表が生まれる。ただしまだ始まったばかりだ」
 
 これから選手の洗い直しが進み、競争を促しながらチームとして熟していくのだろうが、むしろ再確認されたのは欧州でプレーをする主力と、次の世代との大きなギャップだ。ザックもアギーレも見送った宇佐美は、確かに攻撃面では中軸組との相性の良さを見せた。だがさらに厳しい条件での試合に臨む時、指揮官が求めるアグレッシブさを表現できるかは依然として未知数だ。
 
 指揮官の情熱と指導力の一端は見えた。しかし、まだしばらくは確認作業が続き、現状でチームの新しい活力は枯渇気味だ。
 
 日本代表再生は、想像以上に困難を伴うミッションなのだと思う。
 
取材・文:加部 究(スポーツライター)