オタクという名が生まれる前の記憶

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オタクという言葉が生まれる以前、1978から1980年。テレビの構成作家、京都精華大学非常勤講師となった自分の土台にもなったのはアニメと特撮だった。これはその回想録の3回目。

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1978-3 アニメ、インベーダー、ロックからまんが専門誌へ


ファン心理というものは恐ろしいもので、なんでもかんでも知りたくなるんですね。コロムビアから出ていた「テレビまんが主題歌のあゆみ」という4枚組BOXセットのLPレコードを購入したのも、この時期でした。うっすら記憶に残っていたものから、見てもいなかった古いアニメの主題歌まで歌えるようになったのは、このおかげです。

アニメ好きのお姉ちゃんの通う女子校の文化祭にも足を運び、漫研をたずねサークル誌も購入。同人文化というものも覗き見ました。話で伝え聞いていた『海のトリトン』ファンクラブの会報である「TRITON」をはじめて読んだのもこの時です。

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テレビまんが主題歌のあゆみ



中学2年の秋。在籍していたバスケット部では、各種対抗戦に向けての練習が日々続いていました。もちろん、うわべだけは真面目な中学生だったオレとしては、練習を休むこともなかったので、毎日の放課後、土日とひたすらバスケット部の練習に参加していたはずです。

そんな中で、なぜここまで熱心に「アニメ」に夢中になる時間があったのか、今となってはよくわかりません。ただ、今も覚えているのは、無我夢中で知識を詰め込もうとしていたことです。「これまで知らなかったこと」と「今、生まれてくる新たなこと」。アニメには、それがありました。

9月14日 には『銀河鉄道999』が、そして10月14日には 『宇宙戦艦ヤマト2』『新・エースをねらえ!』が放送開始された。また、10月7日には『野性の証明』が公開され、角川映画ブームがやってきていた



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スペースインベーダー/タイトー



もうひとつ、この年に直撃されたのが、ビデオゲーム「スペースインベーダー」の登場でした。事前に雑誌で存在は知っていましたが、最初に見たのは、近所のゲームセンターに置かれたアップライト筐体だったと思います。

この頃、ゲームセンターのメインの客層は、いわゆる「不良」少年たち。中学では、出入りすることを固く禁止されていたんです。でも、何しろ我が家は繁華街のど真ん中でしたので、一人でふらふら覗きに行くことに抵抗はなかったのです。

見た瞬間「ブロックくずし」以上の衝撃が走りました。何しろ、それまでは「棒」と「点」を頭の中でラケットと、壁のような何かに見立てる必要があったわけですが、今回は、見事にキャラクターとして動いているのです。

中学生にとって1プレイ100円は、とても気軽に遊べる金額ではありません。アニメの本を手に入れるには、小遣いだってぜんぜん足りないくらいなのです。それでも、あのモニタに浮かぶインベーダーの美しさと、コンピュータ音の未来感には抗えませんでした。日に日に目に見えて進化するビデオゲームもまた、アニメと同じように、テレビや友達からは得られない「情報」のひとつだったんです。

スペースインベーダーのブームは嵐のように巻き起こりました。年の暮れには、喫茶店にテーブル筐体が登場し、祖父や叔父に連れて行ってもらい、その場限りのこづかいをねだってプレイさせてもらいました


最後にアニメ好きの友人の家に行った時のことは、今でも記憶に残っています。アニメージュ最新号を見ながらのお姉ちゃんとの会話でした。

「今、富野監督がつくってる、機動戦士ガンダムはとにかくすごいに違いない。なんといってもキャラクターデザインは安彦さん。知ってる? ライディーンや、ザンボットの人だよ? 見て、このキャラクター!」

確かに、掲載されていた「現在製作中」のガンダム紹介記事のデザインは目を引くものがありました。「安彦さん」という、名前だか苗字だか判別できないスタッフ名を、当たり前のように話題に出されたのもショックでしたが、何より印象に残ったのは、そこに掲載された白くて、見たこともないスマートなロボットのデザインだったのです。「すげえ!! ふくらはぎがある!!」それが、自分とガンダムとのファーストコンタクトでした。

それでも、正直そこまで期待していいかは、まだ疑問がありました。お姉ちゃんのお墨付きだからすごいには違いないだろうけど(何しろ洗脳済みなので)、肝心のガンダムは、相変わらず鎧武者のような見てくれだし、何より「手に銃を持っている」。これは、ザンボットの時から感じてた違和感なんです。個人的には「ロボットなんだから、銃なんか内蔵されてるのが効率的じゃないの? ましてロボットが人間のように、刀剣をふりまわすなんて子供っぽすぎない?」と思っていたからです。

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マニフィック創刊号



秋に、テレビではじまった『銀河鉄道999』にも『宇宙戦艦ヤマト2』にもなぜか乗りきれませんでした。たぶん「刺激」が足りなかったんです。

そして迎えた年末。夏に予約した『マニフィック』創刊号が、忘れた頃に届きました。アニメ以外への目配せもあり、池田憲章の特撮コラムあり、(『キャプテン・フューチャー』の)コメット号のペーパークラフトありと野心的な内容だったんですが、白黒ページがメインで総ページ数は60ページ程度。新番組の紹介なんか、アニメージュの方が詳しいじゃないか!

編集者たちの思いなどは、後日知ることになりますが、当時そんな事情がわからない中学生にとっては、かなり期待はずれの内容だったんです。創刊号は、テーマがしぼりきれない同人誌、という印象でしたね。

1980 サブカルチャーの中のガンダム


今、思えば、日々に雑多なことを、旺盛に取り込んでいたことに驚きます。アニメへの知識欲はたった1年でどんどんマニアックな方面に移行していきました。その時に放送されているものへの興味よりも『レインボー戦隊ロビン』や『海のトリトン』といった名作の上映会をめぐることに楽しさを覚えるようになってきたんです。それだけに、年明けに創刊されたまんが専門誌『ぱふ』には、情報量の濃さに大満足させられ、定期購読するようになります。

また、妹が購読していた『なかよし』をきっかけに、少女まんがも熱心に読み始めていました。OUTやランンデヴーの記事で「耽美」(今でいう「BL」)と呼ばれるジャンルがあることも知ったし、『ポーの一族』も立ち読みしました。『ぱふ』の購読をきっかけに、さらにまんがへの関心が強まっていくわけです。大島弓子や竹宮惠子といった有名まんが家の作品は、読まなければならない義務だと思っていたくらいですから。

並行して、学校では音楽好きの友達とも交友が広がっていました。友達から勧められてアリスや松山千春も覚えたし、そうなれば、かぐや姫やビートルズもたしなむようになります。当時はレコードの貸し借りが、音楽鑑賞の全てでした。購入したのはビートルズの『リボルバー』一枚のみ。だって、アニメやまんがに忙しくて、音楽にまでこづかいが回らないんですよ。ただ、テレビのバラエティ番組「カックラキン大放送」ではじめて見たバンド、サザンオールスターズのかっこよさは別格でした。勇んでシングル『勝手にシンドバッド』を買いに走りました。

サザンオールスターズは、6月25日にデビューシングル「勝手にシンドバッド」をリリース。8月末には「ザ・ベストテン」のスポットライトのコーナーでフィーチャーされ、瞬く間に人気バンドになった



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Hot Dog Press(ホットドッグプレス)



中学時代の音楽趣味なんてものは、週単位でころっと変わっちゃうものなんですね。現在思い起こせば、おそろしい情報の刷新スピードだと思うのですが、たぶん79年の年末頃には、フォークソングはもう卒業だな! これからはロックだな! くらいに思っていましたよ。

それから、当時のファッションカルチャーへの目配せもしてました。その年に創刊された『ホットドッグ・プレス』で西海岸の音楽だの、サーファーファッションだの、アイビーだの、プレッピーだのの情報にも目を通しました。田舎の中学二年生なので、お金もなければ、そもそもしゃれた洋服を売っているお店もなかったのです。アニメの情報を集めるのと同様に、とにかく、「知らぬが恥」だと思っていたんですね。

3月6日には『サイボーグ009』が放映開始。金田伊功によるオープニング映像と主題歌のかっこよさには満足したものの、原作主義者だった当時の自分には思い入れが薄かった


そして、中3に進級した春のこと。『機動戦士ガンダム』が放送開始されます。クラスが変われば疎遠になる、というのが中学時代の交友関係です。アニメファンの友人と会うこともなくなってはいましたが、アニメ好きのお姉ちゃんが太鼓判を押した、あの「傑作であるはず」の新作アニメです。

『無敵超人ザンボット3』の人間ドラマ。『無敵鋼人ダイターン3』最終回のオシャレさ。『宇宙戦艦ヤマト』への熱が冷めてきた自分にとって、富野喜幸(現在は富野由悠季)監督は「アニメをサブカルチャーの域まで連れていってくれるキーパーソン」の一人でした。期待しないわけにはいきません。放送当日、準備万端でテレビの前に陣取り、テープレコーダーをセット(ビデオのなかった当時は、音声を録音するのです)しつつ第1話「ガンダム大地に立つ」を迎えるのです。