画像はヒロミオフィシャルブログ『〜時遊人〜』より

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 3月3日に放送された『ロンドンハーツ』(テレビ朝日)で、さまぁ〜ずの三村マサカズとヒロミという大物芸人2人の和解劇が話題になっていた。三村が一方的にヒロミを避けていたのだが、千原ジュニアの仲介で2人は久しぶりに面と向かって話をして、和解することになった。

 三村はかつてヒロミと番組で共演していた。そのロケでエジプトに行った際、うまくリアクションができない三村に対して、ヒロミが延々と厳しい言葉を投げかけていた。そこで深く傷ついた三村は、絶対ヒロミを見返してやると誓い、彼の番組には出ないという「共演NG」を出した。それ以来、2人は番組で一度も顔を合わせていなかった。

 共演NGという言葉がある。あるタレントが別のタレントのことを快く思っていなかった場合、共演したくないという意志を示したり、スタッフがそれを察知したりして、2人が共演しないように配慮する。お笑い業界でも、一緒に出る機会が少ない芸人同士は共演NGの関係だと噂されることが多いし、何らかの具体的な事件があってそれ以来共演NGになっている、と言われているケースもある。どこまでが真実でどこまでが噂話なのかは、一般視聴者レベルではなかなか判断できない。

 一昔前には、共演NGだとか犬猿の仲だとか言われている関係は数多くあった。テレビに出る芸人の数があまり多くなかったので、冠番組を持つような芸人は限られていたし、彼らが共演する機会がめったになかったからだ。『8時だョ!全員集合』の裏番組として『オレたちひょうきん族』があるなど、大きなお笑い番組同士が真正面からぶつかることもあり、対立関係がはっきりしていた。

お笑い戦国時代が生んだ共演NG

 そんななか、2014年3月31日に放送された『笑っていいとも!グランドフィナーレ感謝の超特大号』は大きな話題となった。なぜなら、ダウンタウンととんねるず、ダウンタウンと爆笑問題など、対立していて共演NGだと思われていた組み合わせの芸人同士が同じ舞台に立ったからだ。このとき、タモリ、明石家さんま、ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、とんねるず、爆笑問題、ナインティナインの7組が同じ画面上に映っているという、史上初の光景が展開されたのだった。

 この夢の共演が実現したのは、『いいとも』の顔であるタモリの人徳だろう。タモリという媒介を通して、長年対立関係にあった芸人たちが初めて一丸となったのだ。このときのことを振り返って、同年4月6日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ)で松本人志はこう語っている。

「我々が血気盛んな頃、20代、30代のとき、もう今のやっぱお笑い界とは違うかったのよ。本当に殺るか殺られるかみたいなとこでやってた。本当に真剣持ってやってたみたいな時代やった。それが若い人から言わしたらダサい話かもしれないけど、僕らのときはもうそれしかなかったし。僕らも人に言われたこともあったし、人を傷つけたこともあったし、そんな時代やった。で、今はもうそういうのなくなって平安時代じゃないですか。みんな木刀しか持ってないしね」

 1980〜1990年代には、テレビに出る芸人の間にはピリピリした緊張関係があった。冠番組を持つ芸人は一国一城の主であり、互いに激しく覇権を争っていた。それが共演NGの噂になったりして広まっていったのだ。実際、視聴者の側も彼らと同じくらい真剣にテレビを見ていたし、そんな緊張感を楽しんでいた部分もある。

 今はもう時代が変わった。1つの番組を1組の芸人が背負っているような冠番組も少なくなったし、テレビに出る芸人の数もケタ違いに増えた。殺るか殺られるかの戦国時代は終わり、芸人同士はひな壇で肩を並べて、互いに仲良く助け合う関係になっている。今の芸人の間では共演NGの噂はほとんどない。

 お笑い界における共演NGとは、古き良き戦国時代の香りが漂う言葉だ。出演者にもスタッフにも異常な熱気があり、それが視聴者にも伝わっていたテレビバラエティの黄金時代。あの『いいともグランドフィナーレ』における奇跡の共演劇は、侍たちが刀を捨てて新しい時代へと歩み始める、「お笑い戦国時代の終わり」を象徴するワンシーンだったのだ。

ラリー遠田

東京大学文学部卒業。編集・ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。主な著書に『バカだと思われないための文章術』(学研)、『この芸人を見よ!1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある