ヤンキース・田中将大【写真:田口有史】

メッツ戦でOP戦3度目のマウンドに上がり、開幕投手抜擢にまた近づいた田中

 ヤンキース田中将大投手は25日(日本時間26日)、メッツ戦でオープン戦3度目のマウンドに上がり、4回2/3を4安打3失点(自責2)、7奪三振1四球の内容だった。オープン戦初黒星を喫したが、本人は「過去2登板と比べて一番良かった。投げている球というより、気持ち的な部分で試合で投げている感じがした」と手応えを示している。4月6日(同7日)のブルージェイズ戦での開幕投手抜擢にも、また近づいたと言えそうだ。

 この日、田中はほとんど直球を投げず、速球系はツーシームを多投した。黒田博樹が広島に復帰したことで、日本でも注目を集めている「フロントドア」も駆使。ツーシームを使い、左打者の内角ボールゾーンからストライクゾーンへと変化していく球で見逃し三振を奪う場面は、今キャンプで多く見られる。

 ほとんどの地元メディアは、田中の速球が88〜90マイル(約142キロ〜145キロ)だったことに注目。昨年よりも遅くなっている理由について、田中本人がツーシームを投げているからだと説明したことを取り上げている。

 メジャーにおいて、「ファストボール(速球)」と呼ばれる球は2種類ある。日本では「直球」または「ストレート」と表現される「フォーシーム・ファストボール」と、シュート気味に変化する「ツーシーム・ファストボール」だ。黒田が「僕自身はツーシーム系は変化球だと思っていない」と話すように、メジャーの投手は、ツーシームも日本で言うところの「ストレート」のような感覚で投げており、これを投球の軸としている選手は多い。

「去年はフォーシームを数多く打たれていたので、ツーシームで芯を外していきたい」

 米メディアは、田中の「ファストボール」の球速が昨年より3〜4マイル(約5〜6キロ)落ちていることに注目。球筋を見れば明らかなはずではあるが、その答えはツーシームが増えていたから、ということだった。

 田中は登板後にヤンキース傘下のテレビ局「YES」のインタビューでこんな意図を明かしている。

「やはり去年、フォーシームを数多く打たれていたので、ツーシームでボールを動かして、(バットの)芯を外していきたいなという狙いはあります」

 そして、「どのくらいその球に自信があるか?」と聞かれると「もう自信を持って投げられています」と力強く答えた。

 投球を見る限り、確かに田中はツーシームを自分が意図した通りに投げているように見える。MLB公式サイトによると、ラリー・ロスチャイルド投手コーチは「彼のコントロールがあれば、とても有効なボールになる」とその威力を認めているという。

 地元紙ジャーナル・ニュースは「ヤンキースのエース、タナカはフォーシーム・ファストボールから離れようとしている」との見出しで、田中のツーシーム主体の投球への変化を伝えた。地元紙ニューヨーク・ポストも「タナカは1つのファストボールを投げることに警戒心を抱いている」として、やはり同じテーマでの原稿を掲載している。

昨年チームメートだった黒田も、メジャー移籍当初にツーシーム主体の投球スタイルに

 また、MLB公式サイトは「ツーシームの向上に取り組んでいるタナカ」と題して特集。記事によると、田中は昨年、全投球の21.34%にあたる426球のフォーシームを投げ、ツーシームは19.49%の389球だったという。ただ、7月に右肘靭帯部分断裂で離脱し、約2か月半のリハビリを経て復帰した終盤戦の2試合では、ツーシームとスプリットの割合が増えていたことを指摘。すでにそこで変化が見えていたことを示唆しているが、ツーシームの割合は今季、一層、増えることになりそうだ。

 さらに、この日はスライダーの球速が78マイル(約126キロ)程度になることが多く、通常よりも5キロ以上遅かった。これについては、田中は「ハードに投げていないだけ。腕を思い切り振って投げたら負担は大きいので。そういうところです」と説明。「レギュラーシーズンでも続けていくのか?」と聞かれ「ほとんど投げないと思いますよ」と答えている。

 あらゆる要素、可能性について考え、進化していく。田中らしい取り組みが続いていると言えそうだ。

 メジャーでツーシームを有効に使う。この田中の変化は、日本時代に豪速球投手だった黒田が、2008年のメジャー移籍後に自身の直球だけでは強打者を抑えられないと考え、ツーシーム主体の投球に変えていった姿と重なるものがある。

 メジャー1年目の昨年、チームメートとして多くの時間を過ごした先輩右腕には、田中も絶大な信頼を寄せていた。この変化が、田中がメジャーでも偉大な投手として地位を築いていくための鍵となるかもしれない。