2015年の開幕戦、カタールGPがいよいよ今週末に迫った。今シーズンのMotoGPは、死角のない強さで3連覇を狙う22歳の王者マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)や、過去二年の不調を払拭し、プレシーズンテストから万全の体制で準備を整えてきたホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)、また、ニューマシン・デスモセディチGP15を投入して2007年以来の圧倒的な速さを甦(よみがえ)らせつつあるドゥカティ勢、そして4年ぶりの復帰を果たしたスズキ陣営など、見どころはもりだくさんだ。

 一方、1997年に125ccクラス(当時)でチャンピオンを獲得して以来、合計9回(125cc、250cc、500cc各1回、MotoGP6回)の王座を獲得し、天才の名をほしいままにしてきたバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)は、先月、36歳の誕生日を迎えた。チャンピオンのマルケスとは14歳の年齢差だが、昨年のランキングは2位。今年のプレシーズンテストも、高いモチベーションで準備を進めてきた。

 開幕前のテスト日程をすべて終え、シーズン緒戦までカウントダウンとなった現在、そのロッシにインタビューを行なう機会を得た。開幕前の心境や今季のヤマハ勢の戦闘力など、訊いてみたい項目は山のようにあるなかから、まずは2月に2回行なったセパンテストと、つい先ごろのカタール、ナイトテストを終えた現状での感触を訊ねてみた。

「いいテストができたと思う。セパン、カタールともに、一発タイムもレースラップもまだ完璧というほどではないけれども、着実にバイクの改善を進めることができたのは、最も重要な要素だろうね。トップ10を占める選手はいずれも強力で、タイムもかなり接近することになると思う。だから、彼らの前を走るためには、あらゆる意味で100%でなければならないだろうね」

 ロッシの話すとおり、カタールのナイトテストは、3日目こそ雨でキャンセルになったものの、2日目までのラップタイムを見ると1秒以内に14選手がひしめいている。それだけに、上記のロッシの言葉にある「マシンの改善」は重要な要素になりそうだ。

 今年のヤマハは、2月のセパンテスト2回目から〈シームレスギアボックス〉を投入している。〈シームレスギアボックス〉とは、各ギア間の変速をスムーズにすることで、シフトチェンジの際に生じる機械的な挙動を抑える機構だ。ホンダは2011年からこの仕組みを採用している。ヤマハも独自技術でこの開発を進めてきたが、昨年まではアップシフトのみのシームレス化にとどまっていた。このプレシーズンテストで、ようやくダウンシフト側もシームレス化することに成功した。

 ヤマハYZR-M1プロジェクトリーダーの津谷晃司によれば、ギアボックスをシームレス化しても、実は一周あたりのラップタイムには大きな改善は見られないのだという。では、なぜシームレスギアボックスをわざわざ導入するのかというと、「バイクの挙動が安定することにより、ライダーがミスをする可能性を低減させることができます。そしてそれをレース周回全体で考えてみると、何らかのかたちで総レースタイムの短縮に寄与することができる、というわけです」(津谷)という。

 ロッシも、津谷とまったく同じことを指摘している。

「シームレスギアは間違いなく、大きな助けになるよ。ブレーキングも、いままでよりも容易になったしね。シームレスが入ったことで、とくに何かが大きく有利になるわけじゃないんだ。でも、ネガティブな要素を潰しこめるのは大きなことなんだ。小さな不安要素がなくなっていくことの利便性は、とても大きなものだよ」

 さらに、このシームレスギアの投入は、昨年からロッシが指摘してきたもうひとつの不利を払拭する効果もあるという。

 昨シーズンの後半戦になると、ロッシは、ヤマハのほうがホンダよりもレース終盤でタイヤの摩耗が激しいことをよく指摘していた。それが旋回時のわずかなタイム差になり、マルケスに距離を開かれていく要因になっている、というわけだ。その課題は、このプレシーズンでどれほどの改善を果たしたのだろうか。

「新しいギアボックスを得たことで、この領域はだいぶよくなったと思うよ。最も重要なな要素、といってもいいだろうね。もちろんまだ充分じゃないし、さらに改善を進めていかなければならないけれどもね」

 これらの言葉からうかがえるのは、ロッシはいまだに勝利を求める高い意欲や貪欲さを失っていない、ということだ。繰り返すが、今年の2月16日にロッシは36歳になった。20代前半の頃のような体力は、おそらくすでに望めないだろう。だが、その一方で、1996年から20年間ロードレース界の頂点を走ってきた経験は、他の誰にも持ち得ない財産だ。現在の自分の年齢からくる有利と不利を、ロッシ自身は、はたしてどのように捉えているのだろう。

「何が不利で何が有利なのか、自分ではわからないよ。若い頃は常に高いレベルの走りを維持できていたし、いまも当時と同じようにレースを楽しみたいと思っている。この気持ちだけは絶対になくならない。コースを離れているときでも、どうやって速く走るかということばかり考えているんだ。レースに賭ける情熱は昔と変わらないし、バイクにも乗れている、と自分では思っている。まだまだこの先何年も走り続けたい。今は、そういう気持ちなんだよ」

 ここで、少し矛先を変えた質問をひとつ、投げかけてみた。今年、創立60周年を迎えたヤマハ発動機は、全日本ロードレース選手権でファクトリー活動を再開し、さらに、夏の鈴鹿8耐でも、ファクトリーチームとして参戦することをさきごろ発表した。世界じゅうから錚々たる選手たちが参戦をするこのレースに、ロッシがファクトリーチームから参戦するような意志は、ひょっとして、ありはしないだろうか? すると「8耐は、実はもう一度走ってみたいと思っているんだよ」という意外な言葉が返ってきた。

「ホンダでは勝ったことがあるけど(2001年)、ヤマハではまだ走っていないから、ぜひともヤマハで優勝を味わってみたいんだ。ただ、8耐の開催時期はMotoGPのシーズンで唯一休養できるタイミングで、シーズンを万全の状態で戦うためにこの休養は非常に重要なんだ。だから、MotoGPライダーのうちは、8耐に参戦するのは難しいだろうね。引退したら、考えてみようかな」ということである。

 ともあれ、今週末から2015年シーズンの開幕戦カタールが始まる。決勝レースは、29日午後9時(日本時間30日午前3時)にスタートする。数日後に迫った戦いへ向けて、ロッシは今の心境をこんなふうに語った。

「ヤマハの雰囲気はいつも素晴らしいよ。チーフ・メカニックのシルバノ(・ガルブセラ)以下、スタッフ全員がやる気に充ちていて、すでに臨戦態勢は整っているといってもいいくらいさ。シーズンがはじまるのが待ち遠しいね」

西村章●取材・文 text by Nishimura Akira