後ろから「見られてる」かも? (撮影:佐谷恭)

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 96年から日本に滞在をしているWさんは、在留資格を持っていない。国籍も名前も明かしたくないというWさんは、親兄弟を養うため19歳で国を離れ、その後一度も戻っていない。

 在留資格はなくとも、日本は居心地がよかった。しかし、2001年9月11日の同時多発テロが起きた頃から状況が一変した。道を歩いているだけで呼び止められることが増えた。入国管理局が運営する不法滞在者の「情報受付」ページについて尋ねると、Wさんは言った。

 「9・11から警官が少し怖くなった。『情報受付』ページが出来てからは、家を出るのが怖くなった。誰が見てるか分からないよ。急に警官から連絡あった友達いるよ」


 在留資格を持つパキスタン人のAさんは「メール通報制度」が、外国人にとんでもない悪影響を及ぼしているとは考えていない。が、小さなレベルで「けんかの種をまいている」可能性があると言う。

 「全然悪いことしてないのに通報されたと思ったら、近所の日本人疑うかもね」

 「メール通報制度」が「密告制度」になるとは思えないとAさんは否定する。しかし、インターネットという気軽な手段での通報システムの存在が、小さな争いを生むことがありうるとも感じている。今後利用者が増えるとすれば、それだけ争いも増えるだろうとAさんは言う。

 「アメリカとかイギリスみたいに、『テロリスト情報』を集めると言った方がはっきりしている。不法滞在者を減らすって理由で要らない争いを増やさなくても、もっと治安がよくなる方法があるよね」


議論はこれからが本番

 日本に住む外国人は約200万人、不法滞在者は約25万人と言われる。入国管理局によると、04年12月末までの10ヶ月半で約5000件の不法滞在者に関する通報があったという。

 Aさんのように「メール通報制度」に違和感を覚えながらも、多くの外国人は直接的な被害を受けてはいない。こうした「情報受付」をしていることすら知らない人も多い。しかし、問題は被害者の数ではない。

 「通報用のメールアドレスを公開して、受け付けるだけなら全く問題ない」

 外国人問題を専門に扱うある弁護士はそう言い切った。しかし、「情報受付」ページについては、「(不法滞在者の摘発という)目的は否定できないが、手段として行き過ぎだ」という。このページは入国管理局のアプローチに質的な転換をもたらした。

 これまでのように通報を「待つ」だけであれば問題はなかった。しかし、「情報受付」ページは、不法滞在者を「告発させる」機能を持つ。

 告発させるからには容疑がはっきりしている必要がある。ところが、同ページは不法滞在者かどうかという見かけでは識別できない情報を求めており、罪のない人が誤報される危うさを残したままになっている。

 「情報受付」ページの議論は関係者にとって時とともに色あせているようにも見える。しかし、その存在はまだ知られていないし、議論も始まったばかりだ。【了】


特集・検証「メール通報制度」(1) 「ルールを守って国際化」

特集・検証「メール通報制度」(2) それぞれの見解

特集・検証「メール通報制度」(3) 時は過ぎ、出口は見えず