■3月特集 アスリートの春 〜卒業、そして新天地へ〜(5)

 今季から日本女子ツアーに参戦している、ひとりの韓国人プロゴルファーに今、熱い視線が注がれている。

 キム・ハヌル(26歳)――。

 彼女が日本で注目される理由は、ふたつある。ひとつは、2011年、2012年と韓国女子ツアーの賞金女王に輝いた実力の持ち主であること。もうひとつは、容姿端麗の"美人ゴルファー"だからだ。ちなみに「ハヌル」という言葉は、日本語に訳すと「空」という意味で、その名を聞くと、韓国では"スカイブルー"のイメージが頭に広がる。実際に、キム・ハヌルがプレイ中に見せる笑顔はすがすがしく、韓国ツアーでは「スマイル・クイーン」という愛称がつけられていた。

 その実力と美貌で、韓国女子ツアーでも絶大な人気を誇っていたキム・ハヌル。そのまま韓国でプレイしていれば、何ら苦労することなく、安定した地位を築けていたはずである。にもかかわらず、彼女は日本行きを決断した。26歳という年齢を考えると、やや遅い海外挑戦となるが、迷いはなかった。

「楽な道を選びたくなかったんです」

 日本行きの理由を問うと、彼女はそう語った。

「韓国ツアーだけでプレイしていると、少しずつ目標が薄れていくような気がしました。現状に満足するというか、安住してしまって、プロゴルファーとしての気概というものを失ってしまうのではないか、という思いもありました。それではいけないと思って、新しい挑戦をすれば、また新たな目標が生まれるのではないか、と考えたんです」

 2006年にプロ入りしたキム・ハヌルは、すぐに頭角を現した。2008年には年間3勝を挙げて、賞金ランキング3位となった。そして、2011年、2012年と、2年連続で賞金女王を獲得。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで、一気に韓国女子ツアーの頂点に立った。しかし、本人も語るとおり、それ以降は目標を失って低迷。悶々とした日々を過ごしていたという。おかげで昨季は、5回も2位という結果を残しながら、勝ち切れずに未勝利に終わった。

「自らのミスで優勝を逃した試合もあったし、調子がよくても勝ち切れない試合もありました。そういった不甲斐ないゴルフを改めるためにも、何か変化が欲しかったんです。それが、日本ツアー挑戦という選択でした」

 そうは言っても、韓国ツアー賞金女王という肩書きがあれば、その挑戦が楽になるわけではない。シン・ジエ(26歳)、イ・ボミ(26歳)らが成功しているとはいえ、日本ツアー参戦には、まずはQT(※)で上位の成績を収めなければならない。ゆえに昨年、日本ツアーのQTに挑んだ際、キム・ハヌルはかつてない緊張感を味わったようだ。が、そもそも彼女は実力者である。新たな目標を得た彼女は強かった。ファイナルQTまで進むと、今季ツアーにフル参戦できる、13位という好成績を残した。
※クォリファイングトーナメント。ファースト、セカンド、サード、ファイナルという順に行なわれる、ツアーの出場資格を得るためのトーナメント。ファイナルQTで40位前後の成績を収めれば、翌年ツアーの大半は出場できる。

「ファイナルQTの18番ホールを終えたあと、来季(2015年)の日本ツアーにフル参戦できる成績だよ、という知らせを受けて、その瞬間、アボジ(父)の胸で号泣しました。ゴルフを始めてから、これほど熾烈で、緊張感のある試合は記憶にありません......」

 念願の日本ツアー参戦を果たしたキム・ハヌルは今季、早くも日本ツアーで躍動している。韓国ではすでに「ベテラン」という存在となっていたが、ハツラツとしたプレイを披露し、日本のファンからも多くの声援が飛んでいる。

「韓国では『ベテラン』と呼ばれていましたが、日本では私よりも年上の現役選手がたくさんいますし、みなさんすごく活躍しています。そういう選手たちの姿を見て、自分も『まだまだやれる』という気持ちになりました。と同時に、自分ももっとがんばらなければいけないと思いました。また、メディアやファンの方々から、注目されるのはすごくありがたいことですし、すごく感謝しています。今は、日本ツアーで戦えていることがすごく楽しいです」

 そう笑顔で語るキム・ハヌル。まだ3戦を終えたばかりだが、日本ツアーでのプレイを存分に堪能しているようだ。

 キム・ハヌルはここまで、開幕戦のダイキンオーキッドレディスが37位タイ、2戦目のヨコハマタイヤPRGRレディスが12位タイ、そして3戦目のTポイントレディスでは18位タイ。確実に予選を通過して、出足としてはまずまずの成績を収めている。その戦績について、彼女はこう振り返った。

「今はまだ、コースやグリーンに慣れるまで、時間がかかっている状態です。それに、日々緊張していますからね。決して(自分で)満足できるようなプレイはできていません。それでも、日本では練習やプレイに集中できる環境が整っていますから、いつか自分の実力が発揮できる日が来ると信じています」

 そんなキム・ハヌルの実力については、専属キャディーを務める斉藤優希氏が太鼓判を押す。

「韓国ツアーの賞金女王とはいえ、(日本ツアーで)1年目からいきなり結果を残すのは、難しいと思います。それは、当たり前のこと。ただ、彼女ならば、日本のコースとグリーンに慣れていけば、近いうちに優勝にも手が届くのではないでしょうか」

 また、同い年のイ・ボミも、キム・ハヌルと一緒に戦えることを歓迎していた。

「韓国では、どちらかがレギュラーツアーのときは、もうひとりが下部ツアーといった感じで、同じ土俵でプレイすることがありませんでした。それが、これからは毎日顔を合わせて、一緒にプレイできるようになるので、すごく楽しみです」

 キム・ハヌルとイ・ボミ。ふたりは韓国きっての美人ゴルファーで、地元での人気も二分している。韓国メディアの中には、日本でプレイするふたりの一挙一動を毎日ウェブ上で報じているところもある。

「私は、(日本で8勝している)ボミを追う立場ですが、早く追いつけるようにがんばっていきたい。そのためにも、今年は日本ツアーに専念していくつもりです。とにかく"第2のゴルフ人生"をスタートさせる覚悟で、その人生をよりよくするためにも、全力を尽くしていきたい」

 愛らしい笑顔を見せながらも、並々ならぬ闘志を見せるキム・ハヌル。イ・ボミ同様、単なる"美人ゴルファー"ではないことは間違いない。「スマイル・クイーン」の快進撃が、まもなく始まろうとしている。

text by Kim Myung-Wook