日本代表の新たな武器へ…復活した“スピードスター”永井謙佑の可能性

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文=元川悦子

「永井を直接見ましたが、スピード面で本当に素晴らしい。現代フットボールに必要なものを持っていますし、クオリティもある。今の日本代表に少し足りない背後へのスピードを彼がもたらせるのではないかと考えている。彼が代表でプレーすることでチーム全体がスピードアップし、背後にボールを要求することで得点の可能性も高まる。彼自身も向上させなければいけない点があることは分かっているが、興味深い選手。本人と話をしてトレーニングを沢山したい」

 新たに日本代表を率いることになったヴァイッド・ハリルホジッチ監督が、初陣となるチュニジア(27日)・ウズベキスタン(31日)2連戦に自らの強い希望で抜擢した選手の1人がスピードスター・永井謙佑(名古屋)だ。

 50mを5秒台で走る快足ストライカーは10代の頃から注目を浴び、20歳だった2010年1月のイエメン戦(サヌア)で国際Aマッチデビューも飾っている。この時は岡田武史監督(現FC今治代表)が若手中心の陣容で挑み、吉田麻也(サウサンプトン)や槙野智章(浦和)らも揃って初キャップを踏んだのだが、永井への期待は非常に大きく、直後の2010年南アフリカ・ワールドカップのサポートメンバーにも招集されている。この頃、本人は「幼少期を育ったブラジルで開催される2014年ブラジルワールドカップに出る」と意気込みを強めていたはずだ。

 その後、名古屋グランパスに入団し、4位に入った2012年ロンドン五輪代表でもエースとして活躍。着実にステップアップを果たしているように見えた。しかし、当時の日本代表を率いていたアルベルト・ザッケローニ監督は一度も永井をA代表に招集しようとはしなかった。

「五輪世代はA代表予備軍」と口癖のように言っていたにもかかわらず、永井に関してはスキル面でやや物足りなさを感じていたのかもしれない。こうした停滞感を打ち破るべく、彼自身も海外挑戦を決意。2013年1月に川島永嗣と小野裕二の所属するスタンダール・リエージュへ完全移籍する。2月10日のモンス戦でベルギーデビューし、順調なキャリアを積み重ねるかと思いきや、その後の出場機会は激減。A代表入りの夢も遠のいてしまった。

「ベルギーでは『筋力が足りないから筋トレをやるように』と言われ、毎日のように取り組んでいたんですけど、逆に体が重くなり、スピードに乗った走りができなくなった。国によってフィジカル強化の考え方はいろいろあると思いますけど、僕には合わなかったのかな」

 永井はベルギーでの半年間をこう振り返ったが、最大の武器であるスピードが発揮できない状況に陥れば、彼の活躍の場がなくなるのは自明の理だ。結局、同年8月には名古屋にレンタルされる形で復帰。2013年末までは一度、失われたスピードとフィジカルコンディションを取り戻すための調整に終始し、Jリーグでの結果も伴わなかった。ともにロンドン五輪を戦った清武弘嗣や酒井宏樹(ハノーファー)、山口蛍(C大阪)らが2014年ブラジル大会に挑む日本代表入りする姿を、永井は遠くから見つめているしかなかった。

 それでも2014年シーズンはJ1で28試合出場12得点とプロ入り後、キャリアベストの成績を残し、本来のゴール前の怖さが前面に出るようになった。本人は「まだまだです」と謙遜気味にコメントしていたが、持ち前のスピードと突破力に自信を取り戻したのは確かだろう。2015年に入ってからも、ノヴァコヴィッチ、小屋松知哉、矢田旭らとともに名古屋の強力攻撃陣を形成。3月7日のJ1開幕戦・松本山雅戦からコンスタントにピッチに立ち続け、爆発的な走りで相手守備陣をかく乱し続けている。

 ハリルホジッチ新監督が指摘する通り、これだけのスプリント力と裏へ侵入する鋭さを持った選手はJリーグを見渡しても彼くらいしかいない。その“一芸”は間違いなく新生・日本代表の武器になるはずだ。J1の3試合は残念ながら無得点だが、18日のヤマザキナビスコカップ・川崎フロンターレ戦ではゴールを奪っている。徐々に得点感覚にも磨きがかかりつつあるようだ。

 1月のアジアカップ(オーストラリア)の準決勝・UAE戦(シドニー)を見ても分かる通り、相手に徹底的に守られた時の日本代表は得点を取る術が見いだせなかった。足元でつなぐことに長けている本田圭佑(ミラン)や香川真司(ドルトムント)のようなタイプばかりを前線に揃えていても、攻撃の変化はつけられない。新指揮官が永井を呼んだ理由はそこにある。彼は当面は切り札として使われる可能性が高いのではないか。もちろんスタートから出たい気持ちはあるだろうが、まず大事なのは代表定着。そのためには、どんな起用法にも応えていく必要がある。献身的なキャラクターの永井ならそういう仕事をキッチリとこなせるはず。ロンドン五輪で見せたように、周囲を驚かすような存在感を今回の2連戦ではぜひとも示してほしいものだ。