『「PSYCHO-PASS サイコパス」Complete Original Soundtrack 2』(C)サイコパス製作委員会

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近未来における警察組織の群像劇を描いたアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』。その劇中を彩った楽曲を網羅したオリジナル・サウンドトラックCD『「PSYCHO-PASS サイコパス」Complete Original Soundtrack 2』が、3月18日に発売された。

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CDには、映画『劇場版PSYCHO-PASS サイコパス』と、テレビシリーズ第2期で使われた楽曲を収録。シリーズを通じて音楽を担当するのは、『踊る大捜査線』や『軍師官兵衛』、『図書館戦争』など、実写からアニメまで幅広く活躍される人気作曲家・菅野祐悟さん。彼の手によって描かれた、壮大なオーケストラサウンドから、テクノ、ロック、アンビエントと、多彩な音楽性が詰まった魅力的な内容に仕上がっている。

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『「PSYCHO-PASS サイコパス」Complete Original Soundtrack 2』CD3枚組+Blu-ray+封入特典入りの完全生産限定盤



今回は、菅野さんに加え、本作には企画当時から関わってきた監督塩谷直義さん(Production I.G所属)、『ビーストウォーズ』シリーズでは自身で監督や演出もつとめるというユニークな経歴を持つ音響監督の岩浪美和さんという豪華メンバーへのインタビューを敢行。

テレビシリーズを経て公開された劇場版は、R15+にも関わらず、すでに8億円を超える興行収入を記録。そんな大ヒットタイトルとなった『PSYCHO-PASS サイコパス』における音楽は、どのように生み出されたのか? 長く実写の世界で活動してきた菅野祐悟、彼の参加によって起こった化学反応からは、アニメにおける音づくりの最新系が見えてくる。

音楽と映像の融合が『PSYCHO-PASS サイコパス』のオリジナリティを確立した


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右から塩谷直義さん、菅野祐悟さん、岩浪美和さん


──実写ドラマを中心に活躍されてきた菅野さんが、『PSYCHO-PASS サイコパス』に参加されたきっかけは何だったのでしょうか?

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『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』

菅野 総監督である本広克行さんとは、テレビドラマの『SP』(2007年)以降、実写の仕事を一緒にいくつかやらせていただいていました。『PSYCHO-PASS サイコパス』も、そういった流れのなかで声をかけてもらいました。

塩谷 僕はまさに『SP』で菅野さんのことを知りました。だから、本広さんから菅野さんの名前が出たとき、「それは是非!」と。

岩浪 僕は音響監督という職業柄、音楽を気にしながらドラマを見ていて、『アテンションプリーズ』(2006年)で菅野さんの名前を見て以来、「きれいな音楽を奏でる人だな」と思っていました。

菅野 本当ですか!? ずいぶん前から……!

岩浪 だから、『PSYCHO-PASS サイコパス』への参加を聞いてすごく楽しみでした。実際、(1期の)メインテーマ曲の『ドミネーター』がものすごくかっこよくて。四つ打ちのEDM要素とアコースティックギターが使われているんですが、まさに『PSYCHO-PASS サイコパス』の世界にぴったりだったんです。

塩谷 もともとマンガや小説といった原作がない作品なので、絵としても手探りでつくっていく中で、菅野さんの楽曲と映像とが合わさった時、「オリジナルアニメーション」としての立ち位置に確信を持てた気がします。

劇伴音楽としての時代の最先端を追求


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2期 場面写


──音楽の制作については、作品全体をとりしきる監督の塩谷さん、声優のキャスティングからレコーディング、効果音(SE)の種類や音楽をどのタイミングで流すかといった音響全般をまとめる音響監督の岩浪さん、すべての音楽を制作された菅野さんとで進められていったのでしょうか?

岩浪 一番最初の音楽の打ち合わせは本広さんも交えて、後は基本的にこの3人で話し合って進めていきましたよね。

──今回のサントラに収録されている第1期と比べて、2期、そして劇場版とで音楽における違いは意識されましたか?

塩谷 2期からはそもそも主人公が狡噛(慎也)から常守(朱)へと変わっています。同じ『PSYCHO-PASS サイコパス』ですが、その部分は菅野さんにも意識してつくってもらいました。

岩浪 常守の中にはずっと狡噛が大きな存在であり続けています。だから、「1期との地続きとしての世界観は維持しつつ、新しさを加えていく」ことを、ポイントとしてお願いしました。

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菅野祐悟さん

菅野 作品世界としての新しさはもちろんですが、個人的に意識したのは音楽としての新しさでした。なぜなら、1期の放送開始から、『サイコパス』が世の中に受け入れられていく過程の中で、「この作品には、映像やストーリー、そして音楽など、すべてにおいて最先端であることが求められる」と、強く感じるようになったからです。

つまり、“『PSYCHO-PASS サイコパス』というアニメは、最も新しくてかつ最高にカッコよくないといけない”ということ。1期のときも、たくさんの劇伴(劇中に流れる伴奏音楽)を相当研究して、当時の最先端を盛り込みましたが、2期・劇場版はそれから2年が経過しています。その間、劇伴音楽の潮流も変化しているんです。だから今回も、世界中のサウンドトラックを見渡したとき、最も先端を突いているかどうか──そういったサウンド感、肌感を追求しました。

岩浪 劇場版に関して言えば、映像としてテレビではできないようなアクションが詰まっているので、音楽面でもスケールアップをお願いしました。最も特徴的なのが冒頭のシーン。最初の見せ場でもあるこのシーンでは、10分以上もある曲(「標的の探索」)を使っています。ハリウッドでは見られる手法ですが、邦画ではほとんどなかったはず。つくる側としては大変だったと思いますが……。

菅野 個人的には楽しかったですね(笑)。生意気な言い方になりますが、尺があれば、それだけ音楽的な演出ができます。1曲の中でいろいろな見せ方ができるので、そういう意味では、長ければ長いほど面白いです。

すべての曲を想像の上いく変化球に


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劇場版 場面写


塩谷 テレビシリーズを経ての劇場版ということで、つくりやすさみたいなのはあったんですか?

菅野 1期と2期で、『PSYCHO-PASS サイコパス』の代表的な曲が浸透している状態だったので、変化球のような曲はつくりやすかったですね。劇場版は本当に好きな人が見に来てくれていると思います。だから、まったく新しい曲だったとしても、その中に1期や2期の曲のフレーズを一瞬でも入れるだけで、サイコパスらしさを感じてもらえるのかなと。とはいえ、変化球という意味では、1期から、どの曲もすべて、想像をちょっと超えるような曲を目指してつくっていました。

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『PSYCHO-PASS Complete Original Soundtrack』

岩浪 本当にどれもいい曲だと思います。ただ、劇場版の場合、アクションシーンなどはSEも派手についていたりするので、きちんと聴くにはサウンドトラックが最適だと思います、宣伝抜きでね(笑)! 「こんな曲だったんだ!」みたいな発見もありますし。

菅野 個人的には、1期の曲とも聴き比べてみてほしいですね。シンセサイザーの音1つとっても、その時代の劇伴のトレンドを反映しているので。そういった違いを見つけるのも面白いかもしれません。

作曲家として気持ちいい瞬間


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劇場版 場面写


岩浪 時代的なトレンドという意味では、世界的に見て、映像や物語のテンポが格段に早くなっていますね。言い換えると、シーンごとの時間が短いから、音楽的な演出の幅も狭くならざるを得ない。

たとえば、昔は「主人公が麦畑のなかの一本道を歩く」シーンをワンカット・長回しで1分、という演出もありました。映像に合わせて、音楽としても演出できる十分なシーンの尺があったんです。その間、作曲家としては気持ちよく音楽を奏でられるんですが、今の視聴者にそういう見せ方は合ってないのかなと。

塩谷 今の視聴者に見てもらうための構成、というのも必要なんでしょうね。

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岩浪美和さん

岩浪 外国映画の吹き替えで音響の仕事をやっていて感じるのは、役者の演技のテンポも確実に早くなってきているということ。映像的にも音楽的にも、限られた時間の中でどれだけ情報を詰め込むかは、制作するうえで常に考えておく必要があると思います。

菅野 でも『PSYCHO-PASS サイコパス』の場合は、シーンが変わる場面であっても、曲に合わせて岩浪さんがノンストップで流しっぱなしにしてくれる演出もあります。

どのシーンでどこまで流すかは最終的に音響監督が決めるもので、僕から指定することはありませんが、ものによっては「途中で切らずに流してほしい(まさかここで切らないよね……?)」くらいのつくり方をしています(笑)。だから『PSYCHO-PASS サイコパス』で1曲まるまる使われたときは、作曲家として相当気持ちいい瞬間でした。

岩浪 それはもう、楽曲が素晴らしいので。菅野さんをはじめ、上手い作曲家の方は、音楽のなかにドラマ性を内包しているんです。曲が「こう使ってほしい」と訴えてくるというか。そうすると、映像に音を合わせてみたときに、自分でもカッコよくてゾワッとする瞬間がありますね。

あとは、テレビの場合、今は同時期に40本くらいのアニメが放送されているので、そこで印象に残る音の使い方は意識していますね。最近は、第1話でその後の見る・見ないを判断したり、中には録画したものを倍速で見る人もいるので。

塩谷 つくっている側としてはショックな話ですけどね……けど、それくらいしないと毎シーズンのアニメを網羅できない環境になっているのは事実です。

岩浪 だから、テレビでは最初の3話までを、特に意識して音づけしています。チャンネルを変えさせない、早送りをさせない──『PSYCHO-PASS サイコパス』で言えば、1期の第1話、およそ20分間、とにかく飽きさせないように、矢継ぎ早に音をたたみかけていきました。それこそ、“今の視聴者が見たことないくらいのものを!” と。

天の邪鬼な作曲家


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劇場版 場面写


──作曲を依頼するときには、監督から特別なオーダーがあったのでしょうか?

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塩谷直義さん

塩谷 どうしてもというシーン以外は、自分から具体的なオーダーはしていません。発注するときには、白黒の静止画を並べたビデオコンテのようなものを渡します。カットの切り替わりやシーンごとの秒数は本編でも変わらないので、それをもとに曲づくりをお願いしますと。

岩浪 僕と塩谷監督の指示が抽象的なので、むしろ、菅野さんから根堀り葉掘り聞いてくることが多かったですね(笑)。

菅野 僕自身、1期のときは「宜野座、狡噛……これ何て読むんですか?」くらいの認識からのスタートだったので。作品の世界観やシーンごとの空気感、群像劇なのでシーンごとにどのキャラクターの心情に寄せるのかなど、綿密に話をうかがいました。他の現場でも普段からやっていることですが、『PSYCHO-PASS サイコパス』に関しては、特に質問攻めにした記憶があります(笑)。

岩浪 使う楽器を含め、明確に指定する音響監督もいますが、僕はなるべく短いキーワードだけ伝えて、あとはお任せするというスタンスですね。具体的な指示がありすぎて、発想の幅が狭まってしまうことってありませんか?

菅野 それは確かにありますね。ただ、指定があると狭まるというのは、僕の場合、すごく天の邪鬼な性格ということが逆に影響しています。

たとえば、ピアノの使用を求められたとすると、ピアノ以外の方法でもっと効果的な表現を提案したくなってしまうんですよ。だって、くやしいじゃないですか!? でも、心の中では「ホントはここはやっぱりピアノがいいんだよなぁ……」と思う場合もあったり(笑)。

一同 笑

岩浪 結果的に、『PSYCHO-PASS サイコパス』では1期のときに40曲ほどつくっていただいて、2期では5、6曲くらいしか追加してもらう必要がなかった。通常は、2期に向けて10から15曲くらい追加するものですが、それほど1曲それぞれが素晴らしかった。

菅野 岩浪さんは、発注の段階でどんなシーンで使うかなど、作曲するうえでのポイントはしっかりと押さえられているんです。『PSYCHO-PASS サイコパス』の場合、そのうえで細かく取材をして、自分が本当にいいと思うものを提案できたので、すごくやりやすかったですね。

“映像と音がシンクロするパワー” アニメにおける音楽の役割とは?


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劇場版 場面写


──『PSYCHO-PASS サイコパス』に限らず、実写にくらべ、アニメの音楽における役割やつくり方の違いはありますか?

菅野 実写を中心に活動してきた自分にとって、アニメも実写も大きな違いはないように感じます。それこそ、表現力という意味では、美術やアクションなど、実写を超えている部分もあるんじゃないでしょうか。僕はそこまで意識したことはありません。

岩浪 作曲家さんのスタイルによるんでしょうね。たとえば以前、川井憲次さんに「アニメと実写、どっちが大変か?」と聞いてみたんです。そうしたら、「アニメのほうが大変」と。実写の場合、画面にその場の“空気”が映っているから、音も1つでいい。でも、アニメは空気や奥行きなども音楽で出さないといけないから、担っている役割が多いのだという考え方でした。

そういう意味で、アニメは実写ではできないことを模索している部分もあります。日本映画はハリウッドに比べ予算が限られていますが、アニメだからこそハリウッドに引けを取らない表現ができる可能性がある。だから、今回の『PSYCHO-PASS サイコパス』劇場版は、「ハリウッドよ、これが日本のアニメだ!」という気持ちを込めています(笑)。

塩谷 自分としては、アニメーションと実写では表現方法が異なると思っています。お互いに得意不得意が有るのではないかと…。例えば、実写と違い絵で表現するアニメーションは一見情報量が少なく見えるのですが、裏を返せばそれは「その瞬間に必要なモノが整理されて表現されている」んです。

お客さんに伝えたいモノを分かりやすくさせ、パワーも感じやすい。そのパワーある絵が音楽と一緒になった瞬間に爆発的な効果を生み、演出として伝わるものは、実写以上なんじゃないかと感じる瞬間があります。もちろん実写の方が感情移入をさせやすいかもしれないけど、僕はアニメーションの持っている可能性をすごく感じています。だからこそ、絵で表現するアニメにおいて音楽の果たす役割は特に大きいのかもしれません。

だって、制作中に、ラッシュと言って、音楽だけが入っていない状態のものを確認する作業もあるんですが、どんなにいい出来でも、音楽が入っていないとやっぱり泣けないですよ。

やっぱり音と融合したときの力があるからで、感情や気持ちを盛り上げる──見る人がもたれかかる対象としても、アニメと音楽は蜜月なんだと思います。

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菅野 個人的には、実写で学んだノウハウがアニメに活きていますね。一方で、既存のアニメにおける音楽のルールを無視していることもあると思います。でも、それが自分の持ち味だと思いますし、縁あってアニメに関わらせてもらえる以上、新しいやり方を提案したいですね。

どんな作品であっても、映像と音楽がシンクロしたときのパワーや両者の親和性、それらのクオリティを追求することに変わりはありません。実際、『PSYCHO-PASS サイコパス』でも、実写的手法、ハリウッド的手法を採用した曲があります。アニメだからといって、説明的要素を増やさなくても、むしろカッコよくなると感じたんですが……どうでしたか?

塩谷・岩浪 カッコよかったです(笑)!