プロジェクタを使ったメンバー発表は、レールに乗らないハリルホジッチの気質を表わす一例。「面倒な監督」が日本サッカーを変えるか。 (C) SOCCER DIGEST

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 3月27日のチュニジア戦、31日のウズベキスタン戦に向けて、今日23日からハリルホジッチ新体制の日本代表が始動する。
 
 来日からまだ2週間も経っていないが、この間で見えてきた新監督の特徴がある。それは以下のようなものだ。
 
・プロジェクタを駆使したメンバー発表。
・バックアップを含めた大量のメンバー選出。
・合宿地への先乗り移動。
 
 これらが物語るのは前例にとらわれず、自分のやりたいようにやるというハリルホジッチ監督の気質である。
 例えばプロジェクタを使ってのメンバー発表は、協会スタッフの負担を増やすことにつながる。実際に新監督は「スタッフは徹夜で努力してくれた」と語っている。
 
 協会にはいままで培ってきた手法があるが、新監督は安易にレールに乗るようなことはしない。これはいいことではないか。なぜなら近年の代表チームの不振は、協会に根づいた文化、習慣から変えていかなければならないほど深刻だと思うからだ。
 
 ザッケローニやアギーレは、日本的手法に良くも悪くも乗ってしまった。だが、結果が出ていない今は、一度、自分たちの拠って立つところを見つめ直すべきだろう。
 
 何かを変えるのは、大きなエネルギーがいる。これは会社でも同じことだ。新しい上司が来て、仕事の進め方を変えると宣言したら、元からの社員は不平不満の声を上げるだろう。
 
 変えるというのは、そうした既成勢力と衝突していくことを意味する。だが結果が出ていなければ、それは当然のこと。結果が出ていない組織に新しい上司が来て、「いままでの調子で頑張りましょう」と宣言するのは愚かなことだ。
 だからハリルホジッチ監督が、いろんなところにメスを入れているのはいいことだと思う。
 
 こうした新監督の言動を見ていて思い出すのは、同じボスニア出身のオシムだ。彼は前例にとらわれず、些細なことにも注文を付けた。
 
 例えば、就任直後の試合での記者会見では、次のようなことがあった。試合後の記者会見で記者との質疑応答が続き、そろそろというところで協会のスタッフが、「では次の質問で最後とさせていただきます」と言った。すると、オシムはスタッフに厳しい視線を投げつけて、「次で最後なんて、だれが決めた? まだ手が上がっているんだから私は続ける」と言ったのだ。
 
 スタッフは内心、「これは面倒なヤツが監督なったなあ」と思ったかもしれない。私が同じ立場なら、そう思う。だが、いつも何も考えずにレールに乗っていては、組織は変わらない。
 
 こうした思考は、もっと大きく捉えればサッカーをプレーする上でも障害となる。だれかの指示や習慣、常識に従って動いていては、高いレベルのチームに勝つことはできないからだ。
 
 ハリルホジッチ監督はオシムのように、煙たがられ役を買って出ようとしているのかもしれない。それはボスニア出身というふたりの経歴を考えれば納得できる。
 旧ユーゴスラビアのボスニアでは戦争が長く続いた。その中で生き延びようと思ったら、物事の裏の裏の裏まで読んで、自分で決断して動かなければならない。ユーゴ人がスポーツという勝負ごとに強いのも、こうした日常があるからだ。
 
 今日から新生日本代表が動き始める。
 日本サッカー界を改革するのは他のだれでもない日本人の役目であり、代表監督に多くを期待するのは間違っている。だが、ハリルホジッチという我が道を行く面倒な監督は、日本代表にとって優れた水先案内人になるかもしれない。
 
文:熊崎敬

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