オランダは、小国でありながら米国に次ぐ世界2位(約10兆円)の農業輸出国である。農政改革に行き詰まっている日本は、オランダのように付加価値(=競争力)の高い「クオリティ農業」に一気に転換すべきだと大前研一氏は考えている。クオリティ農業を日本が目指した場合、具体的にはどのような問題が立ちふさがるかについて、大前氏が解説する。

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 日本の農業の問題は大きく二つある。一つは、コメに軸足を置いていることだ。日本はコメを特別扱いしてきたが、世界的に見るとコメは小麦やトウモロコシと同じく1トンいくらで売買されている最も付加価値の低い「穀物」にすぎない。そして穀物はアメリカ、カナダ、オーストラリアなどの面積大国が勝つ、クオリティ農業の対極にある作物だ。

 にもかかわらず、日本は「コメを作っていれば食べていける」ようにしてきたために国際競争力を失ってしまったのである。いわば粗鋼生産だけ続けていて自動車を作っていないようなものである。今後はもっと付加価値の高い果実、酪農、葉物野菜、花卉(かき)類などにシフトしなければならない。

 もう一つは、食料安全保障の論理で食料自給率を中心に考えていることだ。これも本連載で解説したが、食料安保のネックは食料ではなく石油である。つまり、たとえコメが自給できる体制にあったとしても、いざという時は石油の備蓄が先に切れるので、灌漑(かんがい)もできなくなるし、トラクターも動かなくなるし、肥料もつくれなくなる。

 日本の場合、食料安保は実はエネルギー安保なのだ。しかも、コメだけの備蓄であれば1年もつから、半年ぐらいの危機は乗り越えられる。したがってコメが食料安保の対象になること自体がおかしいのだ。

 そもそも食料自給率を中心に考えたら、このグローバル社会では競争力はつかない。食料は世界の最適地で作ればよいのである。輸出できるものがあれば、食料は海外の様々な国から輸入できる。

 実際、オランダは世界第2位の農業輸出国でありながら、穀物の自給率は14%で日本の半分だ。つまりオランダは、足りない食料は世界で最も競争力のある国から安価なものを、安全・安心さえ担保されていれば、平気で輸入しているわけだ。食料安保は、世界中の国を敵に回さない限り、心配無用なのである。

※週刊ポスト2015年3月27日号