初代西武特急「レッドアロー」の塗色を再現した車両「レッドアロークラシック」で運行された、国分寺線初の特急電車(2015年3月21日、本川越駅で恵 知仁撮影)。

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西武鉄道の特急電車で3月21日、「これから『未踏の地』へ進入します」という車内放送が行われました。またある駅を通過する際、同じく車内放送で「優越感に浸ってください」という表現もありました。いったい何があったのでしょうか。その「特別な列車」の様子をレポートします。

120年の歴史で初めて見た特急電車

「まもなく東村山に到着いたします(中略)東村山を出ますと、電車はいよいよ『未踏の地』国分寺線に進入いたします」

 2015年3月21日(土・祝)、西武鉄道の臨時特急電車で行われた車内放送です。同社では普段、池袋〜西武秩父間の「ちちぶ」や西武新宿〜本川越間の「小江戸」といった特急が運行されていますが、東京都の国分寺駅と東村山駅を結ぶ国分寺線に、特急電車は走っていません。それどころか現在まで、国分寺線で特急電車が運行されたこと自体、ありません。

 しかし2015年3月21日、それが実現しました。この日は西武鉄道の前身で、現在の西武国分寺線と新宿線にあたる川越鉄道が、その全線(国分寺〜本川越)を開業させた1895(明治28)年3月21日からちょうど120年。それを記念し、西武鉄道が国分寺線で臨時特急列車を運転した――つまり国分寺線120年の歴史において初めて、特急が運行されたのです。車内放送で行われた「未踏の地」という表現はこのためで、そのとき車内ではどよめきにも似た声が起きていました。

 国分寺線の沿線や各駅ではカメラを構えた大勢の鉄道ファンが、「未踏の地」へ進入した特急電車を待ち構えていました。

 しかしこの臨時特急電車に乗車して特に感じたのは、「未踏の地」を走る特急電車、つまり国分寺線で初めて見る特急電車に驚き、多くの老若男女がスマホや携帯電話を向けていたことです。

 鷹の台駅(東京都小平市)付近の公園で携帯電話を向けていたお年寄り、小川駅(小平市)付近で自転車にまたがりながらスマホを向けていた主婦風の女性、また小川駅付近の中学校グラウンドから、手を完全に止めて特急電車を見つめていた野球少年。鉄道ファンのみならず、地域の人にとって大きなサプライズになったようです。

 ちなみに西武国分寺線の列車は6両編成で、西武の特急電車は7両編成です。特急電車は長いためその点で何か難しいことはなかったのか尋ねたところ、「ホームの長さが足りない場合がありますが、ドアを開かなければ国分寺線でも問題なく安全に運行できます」(西武鉄道広報部、高橋さん)とのことでした。

臨時特急電車で感じた「優越感」

 この臨時特急電車では、次のような変わった車内放送も行われました。

「皆さま、この電車はまもなく、西武新宿線と西武池袋線の結節点である所沢駅を通過いたします。本日のようにお客さまが乗車された電車が所沢駅を通過するのは、大変珍しい光景です。ご乗車の皆さまにおかれましては、ぜひとも『所沢駅を通過する』という優越感に浸っていただきたいと思います」

 西武の主要2路線が接続し、全定期旅客列車が停車。そして西武鉄道の本社がある所沢。それを通過するという珍しい出来事から生まれたこの放送に、車内では笑いが起きていました。

 ちなみにこの臨時特急電車は本川越駅を発車し、所沢駅を優越感に浸りながら通過。東村山駅から国分寺線へ入って行き止まりの国分寺駅(下車不可)で折り返し、再びの東村山駅から今度は西武園線へ進入。行き止まりの西武園駅で「撮影タイム」が設けられたのち、みたび東村山駅を通ってもう一度、所沢駅を優越感に浸りながら通過。通常は営業列車が停まらない南入曽信号場で時間調整をしたのち、本川越駅へ戻っています(臨時特急電車は午前と午後で1便ずつ運行)。

 またこの臨時特急電車への乗車には、3月7日(土)に360セット限定販売された「西武鉄道 国分寺〜本川越間 開業120周年 記念切符」が必要でした。この記念きっぷ、臨時特急電車のチケット2人分ほか記念アルミプレートや1日フリー乗車券6枚などがセットになった充実の内容で、1セット1万2000円ながら発売当日に完売しています。西武鉄道広報部の高橋さんによると、1万2000円という価格は「120周年にちなんだもの」だそうです。