写真提供:マイナビニュース

写真拡大

ヴァイッド・ハリルホジッチ新監督に率いられる新生日本代表がいよいよ始動する。62歳という年齢を感じさせない馬力と一切の妥協を許さない信念を刻みながら、ハビエル・アギーレ前監督の解任から時計が止まっていた日本サッカー界を力強く前進させる。

○日本サッカー協会内で始まる緊急工事の目的

新生日本代表が大分市内でスタートを切る3月23日から、東京・文京区にあるJFAハウス内でも緊急工事が行われる。空き部屋のひとつを改修してデスクと映像機器を設置し、簡単な応接間も設ける。

日本サッカー協会(JFA)の霜田正浩技術委員長が、苦笑しながら目的を明かす。

「監督専用の部屋を作ります。毎日ここで仕事をしたいと言う代表監督は初めてなので」。

これまでにもスタッフがミーティングを行うための大部屋はあったが、ハリルホジッチ監督は就任直後からJFA内に常駐したいと希望していた。歴代の日本代表監督がJFAハウスを訪れた頻度は、多くて週に1回。これだけを見ても、62歳の新指揮官の熱血ぶりが伝わってくる。

自宅のあるフランスから13日に来日して正式にサインを交わし、翌14日にはJ1のFC東京対横浜F・マリノスを視察。15日からはJFAハウス内で3日連続、合計して10時間を軽く超えるスタッフ会議を開催し、18日には自らの希望でナビスコカップ予選リーグの川崎フロンターレ対名古屋グランパスに足を運んだ。

時差ぼけは大丈夫なのかと思わず心配してしまうほど、ボスニア・ヘルツェゴビナ出身でフランス国籍をもつハリルホジッチ監督は精力的に動き回っている。

○「日本代表の心臓」遠藤保仁を選外とした理由

霜田技術委員長に対して、ハリルホジッチ監督はこう語っている。

「勝利をつかむために完璧主義者に徹したい」。

自身および周囲に対して一切の妥協を許さない。プロフェッショナルな姿勢を貫く指揮官は、19日の代表メンバー発表会見におそらく忸怩(じくじ)たる思いで臨んだはずだ。

昨夏のワールドカップ・ブラジル大会や準々決勝で敗退した先のアジアカップ、開幕以降のJ1の全試合やACLなどのすべてを映像でチェック。その上で31人のメンバー、12人のバックアップメンバーを選出したハリルホジッチ監督は、偽らざる本音ものぞかせていたからだ。

「もっと多くの時間をかけ、(日本人について)もっともっと多くのことを知ってから最初のリストを作ることが、本来のやり方だったと思う」。

それでも、独自色の一端をのぞかせてもいる。ワールドカップおよびアジアカップのメンバーからそれぞれ20人を選んだ一方で、歴代最多の152キャップを誇るMF遠藤保仁(ガンバ大阪)を外した点だ。

「皆さんもご存じのように、私はワールドカップ・ロシア大会への準備のために日本に来た」。

ハリルホジッチ監督はそのキャリアに敬意を表しながら、長く日本の心臓に君臨してきた遠藤をリストに加えなかった理由を自ら明かした。

○スター選手へ向けられた指揮官の"メッセージ"

昨シーズンのJリーグMVPを獲得した遠藤は、いま現在も卓越したパフォーマンスを披露している。ハビエル・アギーレ前監督にも重用された。ロシア大会開催時で38歳となる年齢が考慮されたこともあるが、遠藤の選外にはもうひとつの意図が込められていると見ていいだろう。

都内のホテルで13日に行われた就任会見で、ハリルホジッチ監督はこう宣言している。

「私はチームがスターだと思っている。個々の能力をダメにしてはいけないが、スター選手もチームのために仕事をしてもらうということだ」。

ザックジャパンはさまざまな意味で、FW本田圭佑(ACミラン)のチームだった。本田が発信し続けた「ワールドカップ優勝」と「自分たちのサッカー」がいつしか独り歩きして、ブラジル大会を迎えたときにはチームマネジメントが機能不全に陥っていた。

ハリルホジッチ監督はアルジェリア代表を率いていたときに、チームの和を乱した主力選手を容赦なく外している。もちろん遠藤や本田がチームから浮いている、あるいは献身的ではないと指摘しているわけではない。それでも、遠藤を招集しなかったことは、ロシア大会を目指す日本代表に「アンタッチャブルな選手は存在しない」というハリルホジッチ監督の"メッセージ"となったはずだ。

○自分自身への自信を失っている選手とは

就任会見ではこんな言葉も飛び出している。

「選手の何人かは自分自身への自信を失っているようだ」。

指揮官の言う「何人か」が、MF香川真司(ドルトムント)やDF長友佑都(インテル)を指していることは明白だ。「個人的に話をして、勇気づけなければいけない」という目的も込めて、けがでプレーできない長友をあえて日本に呼び寄せてもいる。

香川はどうなのか。けがこそしていないが、復帰した古巣でも精彩を欠く。日本代表においても攻撃面で結果を求めるあまり、守備意識がおろそかになることが少なくなかった。 ハリルホジッチ監督の基本布陣は「4‐3‐3」と予想され、27日のチュニジア代表戦(大分銀行ドーム)は中盤を守備的な三角形型に、31日のウズベキスタン代表戦(味の素スタジアム)では攻撃的な逆三角形型で組んでくるだろう。

香川が出場するとすれば前者でトップ下、後者ではインサイドハーフとなる。それでも躊躇(ちゅうちょ)したプレーが続くようならば、ハリルホジッチ監督の構想から一時的に外れる可能性も出てくる。実際、指揮官はこうも語っている。

「現代のフットボールは『技術』『フィジカル』『戦術』『メンタル』で高いレベルを求められる。先発は確定していないし、招集メンバーも毎回変わるかもしれない」。

○バックアップメンバーに見える独自の人選

ハリルホジッチ監督が初めて作成したリストは、バックアップメンバーが記されていた点で異例だった。けが人が出た場合に入れ替わる選手のなかには、フロンターレの新人DF車屋紳太郎、大卒2年目のMF谷口彰悟らが名前を連ねている。さらなる独自色を出す準備が進んでいる証しといっていい。

リオデジャネイロ・オリンピック出場を目指す、U‐22日本代表を率いる手倉森誠監督とも意見を交換しているハリルホジッチ監督はこうも語っている。

「その時点でベストのパフォーマンスを見せている選手が、日本代表に呼ばれる。オリンピック代表でいい選手がいれば、問題なく受け入れていきたい」。

代表監督の仕事に熱すぎるほどのエネルギーを注ぐ姿勢はフランス人のフィリップ・トルシエ監督を彷彿(ほうふつ)とさせ、「ピッチの上で我々のアイデンティティーを見つけていきたい」という抱負は「日本人化」を謳(うた)ったボスニア・ヘルツェゴビナ出身のイビチャ・オシム監督ともダブる。

「最初の試合はすべてを注いで勝利に導き、『これが私たちの道だ』というものをお見せしたい」。

還暦を超えているとは思えない馬力と、揺るぎない信念を感じさせる発信力とで周囲を力強くけん引しながら、ハリルホジッチ監督は「結果=勝利」と「改革=世代交代」の二兎を新生日本代表に追い求めていく。

写真と本文は関係ありません

○筆者プロフィール: 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。

(藤江直人)