こうした声を、医師側はどう受け止めているのか。
 医学教育、医師のコミュニケーションスキル向上について研究する医学博士・内浦尚之氏はこう語る。
 「患者さん側のQOLを高めたい、心情を理解して欲しいという思いと、生命を救うことを最優先し、問題を論理的・合理的に解決しようとする医療の文化のずれを感じます。患者と医師の会話は、価値感や文化の違う“異文化コミュニケーション”のようなものと考えてみるとわかりやすいのではないでしょうか。医師も患者さんの心情を理解し、患者さんにも医師の現実を理解していただき、お互いに折り合いをつけて、歩み寄ることが大切だと思います」
 しかし、果たして患者側にそんな余裕があるのだろうか。一般人には理解しがたい部分もあるが、お互いコミュニケーションをいかに大切にするか、やはりそこが問われているように思える。

 一方、がん患者に限らず病を抱える多くの受診者に対し「医療者へ痛みや辛さを上手に伝える」ことの重要性を説き、「病状と困っていることを結び付けて上手に伝える」必要性を説くのが、医療ジャーナリストの深見純一氏だ。
 「私もいろいろ医療機関を取材で回るのですが、患者さんも、医師に全部“お任せ”では、治療中や治療後の体の異変を的確にとらえにくい。病んでいる自分を上手に表現できないでいるうちに、自己診断で悪い方へ悪い方へと自分を追い込んでしまう事があるんです。治療を受ける場合も、症状をできるだけ詳細に医師に伝えることが大切です。医療者側も、むしろ教えて欲しいと思っているのです」

 また別の専門家は、医師の時間に限りがある中で、自らの病状を上手に伝える法として「誰が」「何を」「いつ」「どこで」「なぜ」「どのように」の、いわゆる“5W1H”を考えておく必要があるという。
 「痛みも、単に“痛い”ではなく、いつからか、どんなふうになど。そして治療がスタートした後は、治療前の変化です。例えば薬を服用したとき痛みはどうなったか、など。医師を前にすると、緊張してきちんと伝えられなかったこともあるかもしれないので、メモやノートに前もって書いておき、その通りに話すといいでしょう」

 さらに「○○○(の症状)で、×××できない」と、症状と困っていることを結び付けて話すとよい。「痛くてトイレにも行けない。眠れない」などだ。
 「生活上で困っていることが具体的に伝われば、どの程度のダメージなのかわかりやすい。患者、家族、医療従事者が、同じ目的を持ち、今後の生活を考えた最善の治療を行っていけるはずです」(同)

 “言葉の処方箋”ではないが、信頼すべき医師の、たった一言で気が楽になり、病状も落ち着く場合もある。重大病を疑い不安だったが、検査をして“異常なし”が証明されれば症状も収まる。
 医者と患者のコミュニケーションが上手くいけば治療もスムーズ。患者も“医者任せ”でなく、自らの病状を上手に表現しよう。