■第48回:新たな目標

初場所(1月場所)において、
史上最多の33回目の優勝を飾り
大鵬の記録を塗り替えた横綱。
これからは、新たに見つけ出した
目標に向かって突き進んでいく――。

 浪速に春を告げる、大相撲春場所(3月場所)が3月8日から始まりました。大阪で開催されるこの場所は、以前から「荒れる春場所」などと称されるように、上位陣が思うような星を残せなかったり、思わぬ伏兵が出てきたりして、意外性のある場所と言えます。

 例年より若干早めに初日を迎えた今年も、場所の前半は雪がチラつく日があったりして、「荒れる春場所」の雰囲気が漂っていました。そして実際、横綱・鶴竜をはじめ、関脇の隠岐の海、注目の遠藤(前頭5枚目)ら、何人かの力士が休場。序盤戦から"波乱"の様相となりました。

 そんな中、私は「とにかく休まないこと、万全の体調で取組みを迎えることが大切だ」と自分に言い聞かせて、日々土俵に上がって全力を尽くしています。おかげで、ここまで安定した相撲が取れています。

 大阪が、私にとっては"ゲンのいい土地"ということもあるかもしれません。昨年こそ、横綱昇進がかかっていた鶴竜に優勝をさらわれてしまいましたが、(中止になった2011年を除いて)2009年から4年間連続で優勝を果たしていますからね。

 大阪弁もそうなんですが、関西特有の気さくさが、私には合うようです。私が所属する宮城野部屋の宿舎は、会場(大阪府立体育会館)のある難波から少し南側に位置する堺市にありますが、そこでの生活も快適で、すごく居心地がいいんですよ。

 食事も美味しくて、大阪に来ると必ずいく店もあります。そのひとつが、宿舎の近くにあって、新弟子時代からお世話になっているスッポン屋さん。この場所の前にも、大好物のスッポン鍋をいただいてきました。その際には、「ああ、今年も大阪に戻ってきたんだな」という気分になって、「また、がんばろう!」という意欲が湧き上がりましたね。

 そうした大阪のいいムードに後押しされて、今場所前はいつもより積極的に出稽古にも出掛けました。逸ノ城(前頭筆頭)がいる湊部屋に行った日もありましたし、また別の日には初顔で対戦する前頭2枚目の佐田の海(境川部屋)とも稽古ができました。反対に、魁聖(前頭6枚目)ら友綱部屋勢が宮城野部屋に出稽古にやってきたりして、バリエーションに富んだ、充実した稽古ができましたね。

 こんなふうに、意欲的な稽古ができているのは、私に新しい目標ができたからだと思います。

 先の初場所(1月場所)で、私は史上最多の33度目の優勝を飾って、大目標だった大鵬関の優勝32回という記録を超えることができました。つまりこれからは、誰も歩んだことのない道が待っているわけです。

 その、何とも険しい道を前にして、思い浮かんだのは、父の姿でした。

 私の父は、モンゴル相撲の横綱を張っていました。モンゴル相撲の大きな舞台は、年に一度、7月に行なわれる『ナーダム』と呼ばれる大会で、父はそこで6回の優勝を遂げています。それは、本当に素晴らしい記録だと思います。

 実は、そんな尊敬して止まない父の記録を、次なる目標にしようと、思い立ったのです。6年間頂点に君臨し続けたということは、年に6場所ある大相撲に照らして単純計算すると、6×6で、36回優勝したことになります。その数字、36回の優勝を、私は次の目標に定めたのです。

 解説者など、周囲では「白鵬は40回の優勝も夢ではない」と言ってくださる方もいます。しかしそれは、やはり気が遠くなるような数字です。なにしろ、一日、一日の積み重ねがあってこその優勝ですし、33回の優勝も、これまでに一日たりとも気を抜くことなく、努力を積み重ねてきた結果ですから。まずは、その気持ちを一度リセットさせたうえで、今は36回の優勝を目指してみたいな、と思っています。

 また、通算勝利数(905勝=6位。1位は1047勝の魁皇)や、幕内通算勝利数(811勝=2位。1位は879勝の魁皇)などの記録を更新していきたい、という思いも強くなりました(記録は3月17日現在のもの。以下同)。

 モンゴル出身力士のパイオニアである、40歳の旭天鵬関も、通算出場記録(1836回=2位。1位は1891回の大潮)や幕内通算出場数(1435回=2位。1位は1444回の魁皇)など、現在上位にいる記録がモチベーションのひとつになっていると聞いています。40歳で幕内力士を務めるだけでもすごいことなのに、「次なる目標」を持って奮闘しているのが、旭天鵬関の素晴らしさ。その姿には頭が下がりますし、私も見習わなければいけないな、と思っています。

 3月11日には、私も30歳の誕生日を迎えました。30歳になって、私なりに期することはありますが、それは改めてお伝えしたいと思います。まずは、「30にして立つ」と孔子の論語にもあるように、新たな目標に向かって改めて奮起し、なお一層相撲道を究めていきたいと思います。

武田葉月●構成 text by Takeda Hazuki