パリにあるラーメン店(Photo by Guilhem Vellut via Flickr)

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 総務省統計局『経済センサス-活動調査』(産業細分類)によると、日本国内で営業するラーメン店は1万9264店に上り(2012年)、その市場規模は2011年時点で5560.5億円となっている。この数字はラーメン専門店のみを集計したものだが、ラーメン専門店だけでなく、広くラーメンのメニューを提供する中華料理店や蕎麦屋、定食屋まで含めれば、事業所数・市場規模はさらに大きなものになるだろう。

 日本のラーメン市場は巨大と言えるが、これまでの出店ラッシュにより各地でラーメン店の競争は激化傾向にあり、新規出店しても業績が振るわず、数カ月から1年ぐらいで閉店を余儀なくされる店も少なくない。

 日本のラーメン市場が成熟化する中、近年では海外に活路を見出すラーメン店が増加している。JETRO(日本貿易振興機構)の調査によると、海外進出している日本のラーメン店は166社(2014年10月17日現在)に上るという。

 日本のラーメン店の海外進出は、中国や香港、台湾、タイやベトナム、シンガポールなどアジア地域が多い。

 東南アジアのタイの事例を取り上げてみよう。タイでは日本の文化に憧れる人たちが増えている。女性の間では日本製のスキンケア・ヘアケア商品が大人気になっているし、自動車の保有ブランドの上位は日本車が独占している。

 さらに「食」の分野においても、空前の日本食ブームが巻き起こっている。首都バンコクでは寿司やとんかつなど日本食レストランの進出が相次いでおり、親日的で日本食がブームになっているタイでブランドを確立して、その後、ベトナムやインドネシアなど周辺の東南アジア諸国にも進出先を広げるといった戦略をとる日本食店も多い。様々な日本食の中で、タイの若者たちの間で圧倒的な人気を誇るのは日本式のラーメン店だ。

 ひと口に日本式ラーメンといっても様々な種類があるが、タイではこってりとしたとんこつ味が好まれる傾向があり、タイに進出する日本のラーメン店の大半はとんこつ系で占められている。

 日本のラーメン店は、地場のラーメン店に比べると値段は少し高くなるが、所得が向上した中産階級の人たちにとっては、それほど負担にはなっていないようだ。なお、日本では1人でラーメン店を訪れる人が多いが、タイでは1人ではなく家族連れでラーメン店を訪れるというのが主流のスタイルとなっている。

 香港でも日本のラーメンが人気を集めている。日本のラーメンは、90年代後半から香港の外食市場に浸透していたが、2008年頃から日本の高品質のラーメンが人気を集めるようになり、現在は人気店に連日行列ができるほどの大ブームになっている。

アジアだけでなく欧米も。客単価も国内の2倍に

 さらに、最近では欧米諸国に進出する日本のラーメン店も相次ぐようになった。たとえば、英国。現在、英国の首都ロンドンで日本のラーメンが大人気となっており、連日、ラーメン店に行列ができるほどだ。日本のラーメン店は英国在住の日本のビジネスパーソンだけでなく、地元の人たちの間でも評判になっている。

 英国で日本のラーメンがブームの兆しを見せたのは2012年頃。大阪を拠点とする塩ラーメン店がロンドンに進出したのがきっかけと言われている。その後、とんこつ系ラーメン店の進出が相次ぐようになり、現在、ロンドンの人たちの間ではとんこつ系ラーメンが圧倒的な人気を集めている。

 日本のラーメン店のロンドンへの進出が相次ぐ中、日本で修行を積んだ英国のシェフが日本のラーメンを独自にアレンジしたラーメン店を地元で出店するようにもなっている。 様々な味のラーメンが増えて、ロンドンのラーメンブームは今後もしばらくは続きそうだ。

「和食」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産になったことや日本の文化や製品を売り込む「クールジャパン戦略」の推進も、ラーメン店の海外展開には追い風となるだろう。「和食」が無形文化遺産になってから、ラーメンを含めて日本の食文化に対する海外の関心は大きく高まっている。また、一部のラーメンチェーン店は欧米や豪州での出店に向けて、日本文化を海外に売り込む官民ファンド「クールジャパン機構」からの融資を受けるようにもなっている。

 筆者の推計では、現在、海外における日本のラーメン店の売上高は約99.6億円に上る。最近のペースで海外への出店が続き、さらに海外での1店舗あたりの売上高が国内平均の2倍になると想定すれば(実際、多くのラーメン店は海外店舗で平均的な国内店舗の2倍の売り上げを記録している)、2020年の海外での日本のラーメン店の売上高は328.4億円まで膨らむと予測される。

 

著者プロフィール

エコノミスト

門倉貴史

1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)

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