Decoded Fashionとは何か:創立者リズが語る、ファッションを変えるテクノロジー

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ファッションの世界にテクノロジーがインストールされたとき、そこには何が生まれるのか。2011年にスタートした「Decoded Fashion」が、いま世界のファッション界に新たなうねりをつくり出している。ファウンダー、リズ・バセラーに「Decoded Fashion」とは何なのか、彼女が描く未来図とはどんなものか、すべてを訊いた。さらに、2015年7月、日本での開催となる「Decoded Fashion Tokyo Summit 2015」についての情報も紹介。(『WIRED』日本版VOL.13掲載記事より転載)

リズ・バセラー|LIZ BACELAR
Decoded Fashion Founder&CEO
コロンビア大学大学院にてジャーナリズムで修士号取得。以後10年間、報道番組のプロデューサーとして活躍。CBS在籍時には、オバマ大統領の当選演説の特番でエミー賞にノミネートされる。2010年にテクノロジー企業に転職。2011年、ファッションとテクノロジーをつなぐ組織「Decoded Fashion」を設立した。

「Decoded Fashionとは何か:創立者リズが語る、ファッションを変えるテクノロジー」の写真・リンク付きの記事はこちら

ファッションはもっと変わる。
だからこそ、ブランドやデザイナーは、
いままで以上に自らのヴィジョンを
明確にもつ必要がある。

──Decoded Fashion創立者・CEOリズ・バセラー

ブライアントパークを眺める「WeWork」と名付けられたビルに「Decoded Fashion」の本部はある。WeWorkは建物全体がスタートアップのために整えられたコミュニティスペースだ。

「オフィス環境に必要なインフラはすべて整っている。各フロアにコーヒーバーが設えられていて、わたしたちのフロアにはタップビールまである。ラッキーでしょ?」と、Decoded FashionのCEOで創立者リズ・バセラーが早口に説明する。前職であるジャーナリスト時代に、担当した報道番組(オバマ大統領の独占ストーリー)でエミー賞候補にも挙がったやり手だ。

リズがDecoded Fashionを立ち上げたのは、2011年11月(初回は「Assembled Fashion」と題された)。当時のファッション界は、フロントロウにブロガーが並ぶ風景が定着し、セレブのクローゼットがソーシャルメディアをにぎわせていたころだ。「でも、ブロガーの本領は『売る力』よ。つまり本当は、商品が店頭に並ぶときにこそ、彼らの力を借りるべき。その数カ月も前に行われるランウェイにおいては、大した意味はないと思うわ」

リズはこのとき、ジャーナリストから転身、テクノロジーカンパニーのPRディレクターとして采配を振るっていたが、担当するイヴェントやカンファレンスで出会うスタートアップの起業家たちから、相次いで「ファッションに使えそうな面白いアイデアがあるんだ」ともちかけられていた。

「具体的にはわからなかったけど、何かが起こり始めたと直感した。もしかすると、デジタル革命がファッションの世界でも起こせるかもしれないって」

しかしリズいわく、彼らのいう「ファッションに使えそうなアイデア」の多くは“根拠”がなかった。「そこにどんな問題があり、需要があるのか、わたしも彼らも知らなかった。ただ、これを機に、テクノロジーが解決できそうなファッション界の問題が実在するのか、調べ始めたの。ジャーナリスト根性が役立ったわ。そう、“テック”がわたしをファッションに出合わせたのよ」

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調べていく過程で、ある大物デザイナーの口から出たひと言が、彼女を一気に駆り立てた。「ファクスが壊れたら、ぼくのビジネスは終わりだと言ったのよ! 耳を疑ったわ」

そしてリズが思いついたのが、理由は何であれ、とにかくテック業界とファッション業界の人を引き合わせること。人脈を辿り、Gilt(Eコマースで知られる彼らはベイエリア発祥だ)などのファッションテックと、テックフレンドリーなブランドの協力を得て、これまで交わることのなかった二者を半ば強制的に出会わせるカンファレンスを開いたのだ。

これに手応えを感じたリズは即座にCFDA(アメリカファッション協議会)に直談判し、NYファッションウィークでのイヴェント開催を取り付けた。こうしてDecoded Fashionサミットは、700人の観客に見守られ、産声を上げた。

リズの呼びかけのもと集まった投資家、スタートアップ、ファッションデザイナー、リテイルのエキスパートのなかには、Tumblrのデイヴィッド・カープもいた。一方、開催2週間前に急遽参加が決まったのは、ロンドンを拠点に、ヴィデオへのタグ付けアップを開発していたスタートアップ、wireWaxだ。

「わたしは常々、新しいスタートアップを探している。そんななかで偶然見つけたのがwireWaxだった。『これをファッションに応用したら面白い!』と確信して、渡航費もホテル代も出せないけど、わたしを信じてNYに来て!と連絡したの。あなたの人生変わるわよって」

リズの言葉は本当だった。彼らはこの日、ニーマン・マーカスとアディダスとの契約を取り付けた。

「サミットを通じて、問題もより鮮明になった。例えばオンラインショップは、平均30%という高い返品率に悩まされていた。その救世主となりうるのがフィットテクノロジー。返品ケアに莫大な予算を割くぐらいなら、つべこべ言わず、とにかく一度導入してみるべきだと思わない?」

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Tumblr創設者でCEOのデイヴィッド・カープもキーノートに登壇。2012年5月のNYサミットにて。

半年後、リズはロンドンにいた。英国政府がDecoded Fashionをロンドンでも開催したいと言ってきたのだ。

「ロンドンはNYとは異なるヴァイヴでテックシーンが盛り上がっていた。そこで、ロンドンでもサミットを開催することにした。マークス&スペンサーが『ファッション・ピッチ』のベストアイデアに50,000ポンドを協賛し、パネルでは、当時トップショップのCMOだったジャスティン・クックやフェイスブックのトレイシー・イヴァバウンなどが、ランウェイやリテイルの未来などについて議論したの」

これら2回のサミットを経て、リズは「スタートアップとファッションをコネクトするだけでは足りない」と気づく。ファッションには未解決の問題が山積していることが、さらに明らかになったのだ。問題解決のためにいまやるべきこと──それが、前代未聞の「ファッション・ハッカソン」だった。

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リズのオフィスに飾られたスタッフパス。その数から、Decoded Fashionがスタートしてからの2年間、いかに精力的に活動してきたかがうかがえる。下はこれまでに主催してきたサミットのパンフレット。

デザイナーのザック・ポーゼンはじめ15人の審査員が集まり、計76のアプリがエントリーされた。パネルディスカッションでは、ビジネスからクリエイティヴまで多様な議論が交わされた。

「あるデザイナーが、『言語に翻弄されずに、例えばバングラデシュの生地職人と直接コミュニケーションが取れるアプリがあれば…』と言うと、『それならつくれる!』と発展していった。そう、よりよい環境づくりのためには『I wish…』を吐き出すことが大切。いままで誰も、古い慣例に無条件に従うだけで、問題提起してこなかったのね」

史上初のファッション・ハッカソンで勝利したのは、前述デザイナーの「あったらいいのに」を叶える素材ソーシング・アプリ『SWATCHit』だった。

Decoded Fashionは2014年、全英最大規模のショッピングセンター「ウェストフィールド・ロンドン」でもファッションハッカソンを開催。名だたるブランドのマネジャーやハッカーたちに混じり、子どもたちがプログラミングに親しんでいる姿が印象的だ。

Decoded Fashionスタートからわずか2年の間にも、テクノロジーは日進月歩だ。

そんななか、今後より重要な位置づけになるとリズが予想しているのが、テクノロジーを用いてブランド理念をきちんと伝えていくことだ。

ロンドンで開催された第2回ファッション・ハッカソンに協賛したブランド、オールセインツは、実店舗でオキュラス・リフトを用いたゲームを行った。オキュラス・リフトを装着したカスタマーが見る風景のなかには、モノクロのアイテムに交じってカラフルな商品が並んでいる(オールセインツは白黒の服で有名)。カスタマーのミッションは、このなかからオールセインツでないものを排除すること。ゲーム感覚で顧客の感情を触発し、ブランドとのエンゲージを強めることにテクノロジーを用いた好例だ。

ファッションビジネス全体に変化が訪れているいま、デザイナーへの道も“Decode”されつつある。ファッションスクールで学んだのち、インターンやアシスタントを経験して独立する、という過去の手順に従う必要は、もはやない。

重要なのは、いかにコンセプトをつくれるかだ。よいコンセプトがあれば、それを支えてくれるビジネスパートナーも見つけることができる。いままでのように、ホールセールでビジネスを拡大してから店舗をもつような手続きを踏まずとも、オンラインショップやクラウドファンディングによっていきなり店を始めることだって可能だ。

「ファッションはもっと変わる。だからこそ、ブランドやデザイナーは、いままで以上に自らのヴィジョンを明確にもつ必要がある。それゆえに、プロダクト・ファースト、つまり、よりオーセンティックなものづくりが期待されるようになる。そういったオーセンティシティこそ、ファッションの美学であり、それが今度はテックをインスパイアするのよ」

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Decoded Fashionは、メルセデス・ベンツNYファッションウィークのランウェイ上でデビューした。会場は、ファッションウィークのメイン会場であるリンカーンセンターのテント内。アメリカファッション協議会やコンデナストがスポンサードしている。

Decoded Fashionは、世界のベスト・ニューテクノロジーを発掘し、それをファッションやリテイルに紹介することで、ファッション業界全体を盛り上げようと呼びかけるオーガニゼイションだ。ファッションがテクノロジーを学び、積極的に取り入れることをサポートするだけでなく、テクノロジー分野の人々がファッション業界への理解を深める機会も提供している。

活動は多岐にわたるが、主に「サミット」「ミートアップ」「テック・エキスポ」、そして「ファッション・ハッカソン」の4つの軸で構成されている。特にサミットはDecoded Fashionの基軸となるイヴェントで、開催場所のテクノロジーとファッション風土に合ったコンテンツメイキングが特徴。例えばミラノで初開催の際には、伊版『VOGUE』編集長のフランカ・ソッツァーニやディーゼルCEOのレンツォ・ロッソなど、メインストリームの重要人物がパネルやキーノートに登場した。

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Decoded Fashionイタリア版はピッティ・ウォモの要請でスタート。初回サミットには、伊版『VOGUE』編集長のフランカ・ソッツァーニなど、イタリアファッション界の重鎮が顔を揃えた。

ロンドンでは、英国政府が全面協力するなか、これまであまり知られていなかったフェイスブックのラグジュアリー・ディレクター、トレイシー・イヴァバウンを発掘、キーノートにキャスティングしたり、トップショップの元CMO、ジャスティン・クックなど、ファッション・テックのニュースターを輩出している。

会場選定にも個性が表れている。記念すべき1回目のDecoded FashionNYサミットでは、「ファッションイヴェント」色を強調し、ランウェイ上で開催。今年3月には、SXSWにもデビューし、ファッション界のデジタルディレクターたちとスタートアップを出会わせ、メンターする機会を提供した。

ここ日本でも開催が決定!
Decoded Fashion Tokyo Summit 2015

詳細・チケットの購入はこちらから

日時 2015年7月9日(木)10:00-17:30 (終了後、カクテルパーティあり)
会場 東京アメリカンクラブ(東京都港区麻布台2-1-2)
定員 400名
料金 VIPチケット:70,000円【1】/一般:30,000円【2】

【1】VIPチケットはイヴェント前日(2015年7月8日)18:00から東京アメリカンクラブで開かれる登壇者・関係者とのエクスクルーシヴ・ディナーと、イヴェント当日の全セッション、および終了後のカクテルパーティの参加を含みます。
【2】一般チケットはイヴェント当日に行われるすべてのセッション、および終了後のカクテルパーティの参加を含みます。

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ファッション・イノヴェイションはここで起きる
Decoded Fashion創設者リズ・バセラー 6つの提言

(1)Designer

「テクノロジーの進化でビジネスが効率化するほど、デザイナーはより真剣にアイデンティティ確立に向き合うべき。ごまかしが利かない分、自分のヴィジョンを明確にもつことが、今後、何よりも求められる時代になるはず」

(2)Brand

「これまでの過程を経ずとも、本物のアイデアとビジネスパートナーがいれば素晴らしいブランドをつくることができる。クラウドファンドという選択肢もある。ビジネスモデルにも、既存のルールに縛られないスマートなアイデアが必要」

(3)Vtail to Retail

「BonoboやWarby Parkerなど、オンラインショップで成功したブランドが投資を受けて実店舗をオープンするケースが増えている。究極のカスタマーサーヴィスは、やはり実店舗が有利との意見もある。彼らの動向に注目ね」

(4)Social Media

「ソーシャルメディアのマネタイズは、大きな関心事。Facebookは向かないことがわかったいま、TumblrやInstagramに期待が高まる。ファッション・ハッカソンでも、Tumblrのマネタイズ・アプリが誕生したわ」

(5)Wholesale

「BtoBからBtoCへ、ビジネス形態が変わりつつある。ホールセールをスキップし、オンラインに特化することで低価格を実現すれば、顧客に直接的な利益をもたらせる。そうすれば、デザイナーはもうバイヤーにも翻弄されずに済むのよ」

(6)Communication

「エモーションがキーワード。そのツールとしてテクノロジーがますます力を発揮するはず。リテイルはそれを実験する最適な場所。Perchのようにゲーム感覚で消費者行動のデータが取れるスタートアップも出てきたわ」

雑誌『WIRED』VOL.13
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