橋本まさる公式HPより

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 連続10期以上の当選を果たしている国会議員は珍しくない。どんなに多選した議員でも議決権は一票。国会は衆参717議席だから、一人の議員が持つ力は717分の1でしかない。

 一方、知事や市長は違う。知事や市長は職員全体を束ねるトップである。その権限は議会議員とは、比べ物にならないほど強大だ。

 それゆえにトップが長い歳月にわたって君臨することは、ひとつの県や市が一人の為政者の支配下に置かれることを意味する。戦後の地方自治史において、石川県の中西陽一知事が8期31年、市長は大阪府貝塚市の吉道勇市長が10期40年という記録を持っている。

 “権力は必ず腐敗する”と言われるように、いくら知事や市長が善政をしていると思っていても長期政権は職員や取引業者は自然と知事・市長の意向を汲み、空気を察して動くようになる。自然と反対意見は淘汰されて、知事や市長の回りはイエスマンで固まる。

 そうなると、新しい政策は打ち出されなくなる。これが県政・市政の硬直化につながる一人の為政者による長期政権の弊害は大きい。そうした理由から、いくつかの地方自治体では、これまでに何度も多選禁止の条例を制定する動きがあった。

 しかし、日本国憲法の“職業選択の自由”に抵触しかねないとの理由から法制化は見送られてきた。しかし、近年はそうした理由とは異なる事情で、多選はあまり議論されなくなっている。ある地方自治体関係者は言う。

「東京の自治体や政令指定都市の市長選ならともかく、地方では知事選ですら候補者する人が現れない状況です。もし多選を禁止したら、選挙が成り立たなくなる危険性もあります」

長期政権は有権者の関心の薄さの表れ

 知事在任の最長記録を持つ中西陽一知事は在職中に死去しているが、その後を継いだ谷本正憲知事は現在6期目。中西・谷本ふたりの知事で、石川県政は50年間を切り盛りしていることになる。

 茨城県橋本昌知事は、谷本知事と同じく現在6期目。茨城県の独特な地域性と長期政権化した県政を揶揄して“謎の独立国家・イバラギスタン”と称されることもある。長期政権が生まれてしまう最大の理由は有権者の地方政治に対する関心の薄さに起因している。

 日本の首都である都知事選は、毎回多くの候補者が出馬して政策を競い合う。都知事選は地方選にも関わらず、マスコミからの注目度も高く盛り上がる。しかし、都知事選のような注目度の高い地方選は稀だ。ほとんどの県では、知事選がおこなわれていても他県民がそれに興味を抱くことはない。

「2000年に地方分権一括法が施行されてから、知事や市長の権限は一気に拡大しました。こうした事情もあって国会議員よりもリーダーシップを発揮できるようになりました。やりがいを感じて、知事や市長に転身する国会議員も増えてきました。知事・市長の職務にもっと光が当たり、地方の政治に興味を持ってくれる人が増えるといいのですが……」(前出・地方自治体関係者)

 統一地方選が間もなく始まろうとしているが、多選・長期政権化と立候補者の減少・無投票当選は顕著になるだろう。それは、地方崩壊の序章と言えるのかもしれない。

(取材・文/小川裕夫)