現役時は日本人女性では初のロンジン・エレガンス賞(※)を受賞するなど「美しい体操」を見せてくれた田中理恵さん。現在は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技組織委員会理事として、幼稚園児や小学生に向けた体操教室を開いたりして、普及活動に努めている。同時に、昨年の世界体操ではキャスターを務めるなど、常に"後輩"たちの動向にも注目。リオ五輪を来年に控えた今、飛躍が期待される選手を田中さんに挙げてもらった。
※世界体操競技選手権で、男女個人総合決勝に進出した選手の中から、最もエレガントな演技をした選手に贈られる賞。田中理恵さんは2010年に受賞。

―― 体操選手にとって、オリンピックが最大の目標だと思いますが、そのリオ五輪の前年となる今年はどういう位置づけになりますか?

「他のアマチュア競技と同じように、リオ五輪を控えた今年は、そこで結果を出すために、とても大事な1年になります。

 4月に全日本選手権、5月にNHK杯があり、そこで世界選手権(10月・スコットランド、グラスゴー)に出場する選手が決まります。五輪に向けて技を固めていく時期でもありますし、代表に入り続けて、大きな舞台を経験していくことが重要になってきます。

 さらに、女子に関して言えば、リオ五輪での団体出場権を獲得するためにも、世界選手権では8位入賞を果たさなければなりません。

 そして、体操は採点競技ですから、それぞれの大会で審判に『私はこれだけ、強くなっていますよ』とアピールすることも、来年の選考会やオリンピックでいい結果を出すことにつながっていきます」

―― 田中さんが今後伸びそうだな、将来性があるな、と感じるのはどういう選手ですか?

「体操の"線"とか、"さばき方"を見ますね。線というのは、私の見方ではありますが、立ち方、姿勢ですかね。立ち方ひとつで、審判の方は『あっ、これは強そうだな』というのがわかるんです。

 さばき方というのは、見せ方、おしゃれな見せ方ということになるでしょうか。例えば......つり輪で十字懸垂をして、3秒間静止します。だいたいの選手は、ただ前を見ているだけなんですけど、内村航平選手は、その最後にピッとちょっと顔を上げるんです。めっちゃしんどい演技でも『まだ余裕あります』と見せるんですね。これを『いいさばき方するな』と言ったりします。女子選手で言えば、床の演技に何となく入るのではなく、きれいなポーズを決めてから始めたり......。これが審判へのアピールになるんです。体操を見るとき、そういう点に注意すると、よりおもしろいですよ」

―― では、まず女子で注目の選手を教えていただけますか?

「トップの寺本明日香選手(19)、笹田夏実選手(19)に続くのが、内山由綺選手(17)でしょうか。体線もきれいですし、バネもあるし、まさにオーラのある"立ち方"をしますね。最初に演技を見たときから、この子は伸びるな、と思いました。練習の姿を見ていると、性格的にも負けず嫌い。体操も最後はメンタルがものをいいますから。(同じ日体大の)内村選手を間近で見てきて、本当にそう思います。

 彼女の床の表現力に注目して、みなさんにも見てほしいです。音楽と表情が合っていて、ひとつの物語を作ろうとしているのが伝わってきます。

 年は少し離れているんですけど、彼女が中学生のときに、私にアドバイスを求めてきたんです。『理恵ちゃん、しんどいのに、何で笑っていられるの?』って。人にどんどん聞けるというのは、素晴らしいと思うし、強くなりますよね。『明るい音楽の時は明るい表情をして、ちょっと暗い音の時は真剣な表情をして、と変化をつけると見ているほうも楽しくなるよ』って、その時に伝えました。やっぱり審判も楽しいな、もう一度見たいなと思う演技には情も入るし、点が付いてくるんですよ」

―― もう一人挙げるとするなら。

「平岩優奈(ゆな)選手(16)。昨年はケガに泣いたんですけど、それを乗り越えて、復帰してほしい。『世界一美しい』体操をする選手で、もう、初めて見た時に一目惚れしました。彼女は、エレガンス賞を取れると思います。つま先(まで意識した演技)のきれいさ、ジャンプの開脚のきれいさ......連続写真でどのコマを見ても、美しいです。床や平行棒も上手ですが、特に平均台の演技がきれいです。平岩選手は、私と同じで身長が高いので、大技で勝負するのではなくて、ミスをおさえて表現力で勝負するタイプですね」

―― 男子では、田中さんがビビッときた選手はいますか?

「男子は注目選手がいっぱいいますが、一人挙げるなら、ユース五輪、アジア大会個人総合を制した神本雄也選手(20)でしょうか。今後は世界選手権、五輪でも上位に入ってきてほしい存在です。

 天才肌ですけど、努力家。日体大の後輩になるんですけど、自分にとても厳しくて、体育館にいつも最後まで残っていました。あとは、ただ厳しいだけではなくて、自分を客観的に見られるようになったら、ワンランク上に行くと思います。彼の平行棒(の演技)はきれいです。小さいときから知っていて、スーパー小学生でした。ホントかわいかったんですよ。今でもかわいいですけどね(笑)」

―― みんな、東京五輪に向けて期待できますか?

「体操はケガで(競技生活を)一瞬のうちに棒にふってしまうこともあるし、体型もどんどん変わってしまう。5年後なんて、まったく見えないです。見通せて2年がやっと。ただ、男子は層が厚くて誰が出てもレベルが高いですし、女子も寺本選手があと一歩でメダルというところまで来たように、全体のレベルは少しずつ上がっているので、大いに期待できると思います」

スポルティーバ編集部●文 text by Sportiva